テラーノベル
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フリーデが悪魔に売られた数日後。
ロードレス砦、周辺――
哨戒任務中の俺達の眼の前には、数百を超える亜人の部隊が見えていた。
コボルトやオーク、ゴブリンにオーガなど種族は様々。皆旧ガレス神聖国の装備を着ているため、神官のような格好にメイスを手に持っているものが多い。
地下穴から現われる魔族国ゾルデムの兵が日に日に増えている。
俺は騎馬に乗る将軍に顔をしかめて見せる。
「バルト将軍、今日は一段と多いですよ。500はいるでしょ。そのうち1000匹超えるんじゃないですか?」
「その可能性は高いな」
「なんでこんな毎日チマチマ兵を送ってくるんですかね?」
「恐らくどの程度で、ロードレス砦を落とせそうか探っておるのだろう。日に日に数を増やし、オーガのような質の高い魔族を混ぜて来ている」
「そんなことしてたら、兵がすり減るだけでしょう」
「いや、どうせ今日も2割くらいやられたら撤退するだろう」
確かに、奴らこれじゃダメだと思ったらすぐ地下に引いていくからな。
日によっては20人くらいやられたら撤退したりして、何しに来たんだあいつら? と思う。
「ある日一気に攻め落としにくるかもってことですか?」
「その通り。もしかすると、それが今日ということもある」
俺はうへーっと顔をしかめる。
「行くぞ王子、今回はオーガに注意して進むのだ。奴らの一撃を受ければケガではすまん」
「そんなところに王子連れていくのって、どうかと思いますけどね!」
「つべこべ言うな、これも修行だ!」
「くそ、前時代ジジイめ」
「フリーデ、前衛に――」
バルト将軍が命じるより早く、フリーデ将軍が前へと出る。
そんなに前に出ると、集中砲火を受けるのでは? と思ったが、俺の予想は当たり、矢筒を抱えたゴブリンアーチャーが矢雨を降らせてくる。
だがフリーデ将軍は単騎で駆け抜け、次々に部隊長と思われる亜人の首をはねて行く。
「はー……さすが将軍」
敵の返り血を浴びながらも剣を振るう姿は、鬼神と言っても良いのではないだろうか。
彼女の姿に見惚れていると、地中を突き破り巨大なヘビが姿を現す。
「魔獣か……こんなものまで送り込んでくるとは」
全身を鋼に覆われた、|鋼蛇《アーマースネーク》。確かレベル30以下のこの種族はいなかったはず。
うわぁ強そう、と思いつつも俺の周りには帝国軍精鋭の暗黒騎士たちがいる。別段恐れる必要ない。
しかし周囲を見渡すと、皆忙しそうに別の魔物と戦っている。
あれ? 俺こいつとタイマンしなきゃいけないのか?
「ナハト」
さすがに一人では分が悪いと、俺は聖剣から大犬形態のナハトを出し、馬から彼女の背中に乗り換える。
「シャーーッ!!」
大蛇の銀色の牙が閃き、大気を裂くような咆哮を上げた。全長は十メートルを超え、その巨体が螺旋を描きながらこちらへ襲いかかる。
俺はナハトの背にしっかりとしがみつき、瞬時に攻撃を回避する構えを取る。
「ナハト、右!」
ナハトは鋭い反応で地を蹴り、獣らしい素早さで横へと跳ねる。直後、アーマースネークの尾が鞭のように唸りを上げ、俺たちがいた場所を粉砕した。地面が陥没し、土煙が舞い上がる。
「うひょー凄い破壊力だ」
「あの蛇、他の騎士たち全部無視してラウルを攻撃してるね」
「多分俺のことミートボールとでも思ってるんだろ。ナハト正面から突っ込め、奴の顔面を聖剣で突き刺す」
「おっけ~」
俺はナハトの突進にあわせて、カロリーバーストジャンプで鋼蛇の頭上を越えるほどの大ジャンプを行う。
聖剣を天高く掲げて、鋼蛇の頭に振り下ろす。
「俺の聖剣で|永遠《とわ》に眠れや!!」
ガキン――
聖剣と魔蛇の装甲がぶつかり合い、甲高い金属音が響く。
鋼蛇は衝撃で後ろ向けに倒れたが、すぐにまた体をうねらせて起き上がる。
「斬属性が全く効いてない」
ナハトの背中の上にひらりと舞い降りながら、硬すぎんだろと鋼蛇の防御力に驚く。
そういやこいつ守備力はバカ高いが、魔法防御は紙でわかりやすく長所短所があるモンスターだったはず。
とは言っても、俺はろくな魔法を覚えていない。その時バルト将軍が声を張り上げる。
「王子、暗黒魔法を使え!」
「暗黒魔法!?」
いや、そんなことよりあんたが俺を助けてくれればよくないか? と思う。
「祖国のためには、その手を血に染めても戦う覚悟。暗黒の力を魔力にこめるのだ!」
あのジジイが何言ってるか、さっぱりわからん。
「愛する者を守るために、相手を殺す覚悟をすることだ!」
なんだ
それなら聖剣を抜いた時、とっくにしたじゃないか。
「暗黒の力よ、我が呼び声に応えよ!!」
聖剣を掲げ上げると、漆黒のオーラと共に俺の真後ろに二本の剣が舞い浮かぶ。魔力で作られた漆黒の剣は、ぴったり俺の真後ろを追従する。
それはバルト将軍が使っていた、暗黒魔法デスブリンガーだった。
将軍の魔法では10本くらい飛んでたけど、俺の魔力じゃ二本が限界。
「行け! デスブリンガー!」
俺は襲い来る鋼蛇をかわしながら、二本の剣を発射。
空気を切り裂きながら、ミサイルのような剣が鋼蛇の鎧鱗を突き破って舌顎と首を貫通。
「よしっ!」
初めてちゃんとした魔法が使えて、思わず喜んでしまう。
だが、鋼蛇は紫の血を流しながら尚も襲いかかってくる。
「まずい、全然致命傷になってない!」
むしろ怒らせたまである。
もう一度デスブリンガーを生成しようとするも、俺の魔力では今ので打ち切りらしい。
動揺する俺の真横をフリーデ将軍が駆け抜けていく。
「はぁっ!!」
彼女は俺と同じく鋼蛇の頭上を越えるほどの跳躍を見せると、真紅に輝くファルシオンをその頭に突き刺す。
鋼蛇は一刺しされただけで、ぐにゃりと崩れ落ちて倒れた。
鋼蛇がやられると、ゾルデムの兵たちは慌てて撤退していく。
戦闘に決着がつくと、俺は彼女の元へと走り寄る。
「い、今のは!?」
「……暗黒剣ソウルイーター。相手の生命力を奪う剣です」
はー……デスとかザラキみたいな、一撃死系のスキルか。
確かに鋼蛇は、不意にやってきた死神に命持っていかれたような死に方だったしな。
「凄い技だ」
「……お褒めに預かり恐縮です、王子」
◇
俺やフリーデ将軍の活躍もあり、敵部隊を追い返すことに成功。
砦へと戻ると、フリーデ将軍は無言で中へと入っていく。
その様子に、俺はバルト将軍を見やる。
「なんか最近フリーデ将軍、様子変じゃない? 雰囲気が怖い」
自殺願望でもあるんじゃないかと思うほど、無茶な戦いを繰り広げている。
しかも戦いが終わった後は、今日も死ねなかったみたいな暗い表情をしているし。
「……夫婦仲があまりうまくいってないみたいでな。その程度のことで平常心を見失うとは、騎士としてはあるまじきことだ。後で注意しておこう」
「ジジイが言うと余計こじれそう」
「何か言ったか?」
「いえ、私が話を聞いてこようかと」
「王子が?」
「はい、剣術のことを聞くついでに、何か悩みがあるか聞いてきますよ」
「娘の問題だ、あまり深入りしなくても良い」
「聞くだけ聞いて、ただの夫婦喧嘩ならそれでいいじゃないですか」
「ワシはそもそも結婚の事もちゃんとは認めていない」
「ずっと結婚には反対してるみたいですよね? そんなにトニーさんのこと嫌いなんですか?」
「大嫌いだ。あ奴は辛いことから目をそらす悪癖がある。いずれギャンブルかなにかで、娘を不幸にすると思っている」
なるほど。俺もその意見には賛成だが、もしかしたらその不幸ってのは、もう始まってるんじゃないか?
コメント
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第75話、読み終えました。ラウルが初めて暗黒魔法を使いこなせた瞬間、すごく胸が熱くなりましたね!「覚悟ならもうできてる」って、聖剣を抜いたときからずっと背負ってきたんだなと。でもそれ以上に、フリーデ将軍の無茶な戦い方と暗い表情が気になります…バルト将軍の「トニーは不幸にする」という言葉、すでにその不幸が始まってるのでは?というラウルの気づきが不穏で、続きが気になります。ありんすさん、今回は戦闘と心理描写のバランスが絶妙でした🕊️
ま-ん-て-ん
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