ピンポーンと家中に鳴り響くインターホンの音。数秒間経ってからもう一回鳴るとかではなく、完全な連打の音。
転んでいたベッドから渋々体を起き上がらせ、玄関まで移動する。
そうして、ドアノブに手をかける。
「ぺ、ぺいんとに…しにがみくん?」
俺の目の前にいたのはぺいんととしにがみくんで。どちらも真剣な顔つきでこちらを見ていた。でも、大体の理由はわかる。
俺のクラリネットに関してだ。
日常組の歌での間奏でクラリネットで演奏だなんて…そりゃ楽しげな音にしなければならない。 けれど、クラリネットでの楽しげな音が、出ないのだ。
「クロノアさん、失礼します!」
「えっ、あっ…ちょっと?!」
俺に有無を言わせずにぺいんとはずかずかと俺の家へと入り込む。その後ろに続いてしにがみくんも「お邪魔します!」と言う。2人とも大きな声なのに真面目な顔で言うもんだから、状況がよくわからない。
「……っうぅ…。」
2人の顔と声を聞いただけなのに、なぜか胸がキュッと苦しくなった。口から漏れ出る声を抑えて、熱い目頭に溜まる水を袖で拭う。
そうして俺は2人の背中についていく。2人の背中を追う自分が何となく恥ずかしくて、情けないと感じてしまう。本当にリーダーなのかと思うほどに。
それでも何故か、眩しい。
目を開けてられないほどに。
「…ねぇ、クロノアさん。」
ふとぺいんとに声をかけられ、俺は「何?」と返事をする。その返事の声でさえも少し震えていて、泣きそうになっているのは俺自身でも分かった。
「クラリネット、弾いてみてください。」
「……え?」
ふと言われたぺいんとの言葉に、俺は驚きと困惑しか感情が出てこなかった。頭が回らなくて、真っ白になる。目の前で演奏だなんて恥ずかしいし、それに彼らの求めている音色なんかじゃない。彼らと同じような音色なんかじゃない。
「………無理だよ。」
ポツリと呟くと、2人は「どうして?」と問うてくる。
「……音色が、合わないから。」
下を俯いてそう呟くと、2人は何ともないような顔をしてこちらを見てくる。
「別に、僕達は合う音色を求めてませんよ。」
「そうですよ。俺たちはクロノアさんの音色が聴きたいんです!」
励ましてくれていることはよくわかる。でも、それじゃダメなんだと俺の頭が言っているし、もちろん自分でもこんなんじゃダメだと分かっている。
「…俺の音色じゃ、ダメなんだよ…。っ…日常組の音色を出さなきゃ、意味ないんだって!!」
大声でそう叫ぶと、2人は固まった様子で俺を見ていた。そりゃ、まぁ、そうだろう。
俺は、泣いているんだから。
何だか、もう堪えられないような気がしたんだ。楽しげな音色も出せなくて、日常組とうまく絡めなくて、最近になってようやく動画で大声を出せるようになって…。何もできない俺だからこそ、今このクラリネットを弾くチャンスがあったのに、それすらもできなくて。
もう自分は何ができるんだってつくづく思う。
「よくわかんないよ…。俺の音色なんて、ないんだから…!!」
「それです!!!!」
ふと、しにがみくんから大声でそう言われる。あまりの大声に俺はびっくりして涙でぐしゃぐしゃの顔を2人に向ける。
「…クラリネットを吹く姿のクロノアさんは、クロノアさんの音色です!ってゆーか、クロノアさん自身がクロノアさんの音色です!!」
「…っ、え、えぇ…??」
よく言っていることがわからなくて、泣く余裕もなしに俺はしにがみくんの言葉の意味を考える。でもやっぱりよくわかんなくて。
「しにがみの言う通りですよ。 クロノアさんにしか出せない音色を、僕達は求めています!その音色と、俺の音色としにがみくんの音色…そして、トラゾーの音色を合わせてみんなの音色が出来上がるんですよ!!」
ぺいんとの力強い言葉に、はっとした。 確かに、って思った。
俺1人が日常組の音色を出すのは日常組らしくない。
みんながそれぞれの音色を出して、それを合わせることで、日常組の音色が出るのだと。
「ははっ…確かに!」
笑いが溢れた。
何だか悩んでいた自分がバカみたいで、アホみたいで笑えたから。でも、これもいつかの笑い話になるんだろうなぁって思うと、余計止まらなくて。
でもやっぱり、日常組の音色になるっていうところの言葉が1番好きで、笑いが止まらなかったかもしれない。
「じゃっ、聴かせてくださいよ!クロノアさんの音色!!」
しにがみくんにそう言われて、俺はクラリネットを手に持つ。
「…うん。…ちゃんと聴いとけよ〜?」
そうして俺はクラリネットを吹き始めた。
_____クラリネットは、切なくて悲しい音。
どれだけ吹いても、悲しい音。
日常組の音は、楽しい音。嬉しい音。騒がしい音。
その1つの音は、クラリネットの音_____。
……………
俺たちの歌____くだらない日常を投稿してから。トラゾーは無事復帰した。それに、ちゃんと歌も聴いてくれていたようで、全部良かったと褒めてくれた。
その日、俺たちは泣いた。
何でかはわからない。歌を歌っただけなのに。クラリネットを吹いただけなのに。みんなで歌っただけなのに。それでも、その言葉で心から”あぁ、良かったな”って思えた。
だからさ、早くもう一つの音を加えて、その時はみんなで視聴者に教えてやろう。報告動画って、大体は真剣なものかもしれないけど、ハッピーな報告動画だって素敵だよね!
だから、俺らの音______日常組の声を、もっと聞いててくれよな。
コメント
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完結おめでとうございます!全部の作品見たんですけど全部最高でした!この話は経験が沢山あってから絆が深まったなと思います!次も楽しみにしてますね!
作品完結おめでとうございます! 色々な経験を元に 皆の絆が深まっていったお話だと思いました! 本当に天才すぎました…✨ これからも全力で応援します!
お疲れ様でした!どの話も神作品すぎて… 本当にありがとうございます😭伝えたいことがいっぱいあるのですが言語化が難しい… とにかく、これからも応援します!がんばってください!