紗奈《さな》!と、叫ぶ、包みを抱えた常春《つねはる》の姿がある。
「あ、兄様?!先程、西門を締め切り、なんだか、いっぱい、お姿が、増えてませんでした?」
「何を寝ぼけておる。寝言は寝て言え!」
兄の剣幕に押され、上野は、小さくなった。
「まあまあ、常春。紗奈姉《さなねぇ》ときたら、大活躍だったんだよ?」
「守満《もりみつ》様、また、その呼び名を。それに、地べたに座り込んで、何を活躍ですか!」
あぁ、叱られた、と、守満と上野は顔を見合わせる。
「さあ、紗奈、立ち上がれんのだろう?」
常春は、屈んで上野に背を向けた。おんぶしてやると言うことらしい。
「はい。兄様。晴康《はるやす》殿のせいで、もう、踏んだり蹴ったりで!鼻緒まで切れてしまうし」
上野は、兄の背に身を預けながら、ごちた。
「晴康が?」
「おや?何も聞いてないのかい?」
首を傾げている常春に、守満が問った。
ええ、と、常春は、相槌を打ち返す。
「妹を、房《へや》まで送りましたら、お師匠様をお迎えに伺いますので、守満様、しばし、お待ちください」
「あれ、本当に、常春は、何も知らないようだ」
「兄様、実はですね!」
と、守満と上野の思いを代弁するかの様に、
「常春、お帰り。師匠の迎えは必要ないよ」
守満の立つ縁に晴康が、突然現れて、屋敷の住人の如く、常春の出迎え事をしていた。
同時に、東の対屋《ついや》から、琵琶の音が流れて来る──。
「ああ、師匠様は、もう、お越しでしたか」
納得する常春とは、裏腹に、守満と上野は、驚きの声を挙げた。
「ちょっと!晴康殿!」
「うん、これは、どうゆうことだい?」
「まあまあ、順を追ってお話しましょうかねぇ」
晴康が、ニタリと笑う。
「お前、何をやらかした!」
怒る常春を見て、守満が言った。
「そうだ。一つ、謎解きと行こう!では、守恵子《もりえこ》の房《へや》へ移ろうか!」
「ええっ?!」
「な、なんで、守恵子様のっ!!」
声を挙げる、兄妹《きょうだい》の事など、眼中にないのか、守満と晴康は、すたすた守恵子の房《へや》へ向かって行った。