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ruruha
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ふとんがふっとんだ
#恋愛
#ホラー
天音ろっく
227
『先に進む』
珠奈が亡くなって1年が経った。
休職するか、職場を変えるか悩んだが、色んな人に支えられて今も変わらずここで教師として働いている。
一人で住むには広すぎる家も、無職だった蛍太が住むことになって気が紛れて助かった。
家にいると珠奈のことを思い出して、心が痛くなるけれど、忘れてしまうよりかはずっとマシだ。
1年前、騒がせた連続殺人事件は、調査こそ今も行われているそうだが、生徒たちがその話題を出すことは無かった。
あれだけ騒いでいたSNSも、今では見る影もない。
(まぁ…そんなもんだよな…)
当事者でなければ、どんなに凄惨な事件も風化して忘れ去られる。
だけど、巻き込まれた人間はいつまでも忘れない。忘れられないんだ。
今でも時々、あの『預言者のメモ』のことを思い出す。
以前、蛍太は俺の問いに「犯人じゃない」と、はっきりと答えてくれたが引っかかっていたことがある。
それは、「一緒に考えてくれた人がいる」という発言だ。
あのあと珠奈の事故の報告を受けて、ずっとバタバタしていたので真相を聞くことができていない。
蛍太が犯人じゃないというのなら、この”一緒に考えてくれた人”が犯人なのだろうか。
五人もの人を殺害し、右手を奪い、珠奈を殺したかもしれない、犯人。
そんな人物と、蛍太が知り合いだなんて思いたくなかった。
警察の調べでは被害者に共通点は無く、きり落とされた右手もいまだに見つかっていないという。
右手の行方も気になるが、俺としては何の罪も犯していないと思われる佐々木志保さんが殺害された動機の方が気になっていた。
彼女がけっして表に出ないような悪いことをしていたのか、逆に罪に問うほどのことでもない些細な悪行を行なっていたのか。
だが、一番目の霧島唯より先に殺害された二番目の小宮祥太は、霧島の遺体が世に出るまで冷凍保存されていた。
つまり、『預言者のメモ』の順番になるように保管されていたわけだ。
それなら、あの中に一人ぐらい特定の文字を示すためだけに殺された人がいてもおかしくはない。
(おかしくはないっていう思考自体、異常なんだが…この事件そのものが普通じゃないんだ。それぐらいのイレギュラーはあるだろ…)
俺は、綺麗に晴れた空を見上げる。
夏特有の高く澄み渡った青空に、ギラギラの太陽、遠くの山には積乱雲がかかっているのが見えた。
(だが、そんな理由で殺された彼女は…あまりにも、可哀想だ…)
額に浮かんだ汗を拭って、歩き出す。
早く帰らないとせっかく買った飲み物が常温どころか熱くなりそうだ。
ふと、公園の前を通りかかって足を止める。
太陽が照りつける中、公園で遊んでいる子供の姿は無い。
何の変哲もない場所に見えるが、ここにはかつてハムおじさんと呼ばれる化け物がいた。
「あれは……」
公園の隅、木陰になっているベンチに座っている人物を見つけた。
そこは、いつもハムおじさんが座っていた場所だ。
俺は大股で、その人物に近づいた。
彼は俺の存在に気付くことなく、齧りつくようにスケッチブックに色鉛筆を走らせていた。
「……絋くん?」
声をかけると彼─今村絋(いまむら ひろ)くんはパッと顔を上げ、笑みを浮かべる。
「あ、ノベセン」
「絋くん、久しぶりだね。その絵は?」
俺がスケッチブックを指差すと、絋くんは自慢げに絵を見せてきた。
「上手に描けてる?」
「ああ…それは…誰なんだい?」
「ボクを助けてくれたヒーローだよ」
そこに描かれているのは、上から真っ赤な花びらが舞い落ち、足元に目や口が描かれた真っ赤な花が楽しそうに笑っていた。
その真ん中に、”誰かの右手”を持った一人の男が立っている。
両の目の下に、泣きぼくろのあるその男は、楽しそうに笑って泣いていた。
その特徴的な顔は、”一度見たら忘れられない”。
俺の脳裏に、血色の悪いあの車のディーラーの顔が過ぎり、身の毛がよだった。
「絋くんを助けてくれた…ヒーロー…」
「うん。”ここに居たらダメだ”って、”今すぐ逃げろ”って言われて逃がしてくれたの」
「……でも、どうして、泣いてるの?」
俺が尋ねると、絋くんは自分の方に絵を向けて首を傾げる。
「わかんない。でもね、嬉しそうに泣いてたんだよ」
「そっか……」
俺は、そこに重要な意味があるような気がした。
「絋ーー!!」
公園の入口から絋くんのお母さんが声をかけてきた。
「あ!ママだ。行かなきゃ」
絋くんはスケッチブックを閉じて、色鉛筆を筆箱の中に収めると慌てて母親の元へと向かう。
俺が遠くから母親に向かって会釈をすると、彼女も軽く会釈する。
「もう!公園に行くなら行くって言いなさいっていつも言ってるでしょ?」
「え〜パパには言ったよ?」
「パパじゃダメなの!」
そんなことを言われて不満げな顔をしていた絋くんは、こちらに向かって大きく手を振ってみせた。
「ノベセン!ばいば〜い!」
それに応えるように俺も大きく手を振った。
俺は二人の姿が見えなくなると、ベンチに腰をおろしポケットからスマホを取り出した。
蛍太からまだ帰って来ないことを心配するメッセージが届いていた。
(あの絵に描かれていた人物は、高橋泰輝(たかはし たいき)だとしたら……彼が大西茂を殺した犯人…?)
見た目は、彼の特徴と一致していた。
(その動機はわからないが、高橋泰輝は蛍太と知り合いだった。もし、彼が蛍太と一緒に『預言者のメモ』を作った人物だったとしたら……珠奈の車のディーラーだった彼が、珠奈の車に何かしら細工することは可能だった……?)
俺は頭を小さく横に振る。
(俺は探偵でも刑事でも無い。犯人を捕まえるなんて大層なことも、思っていない。聞いて答えてくれるわけがないと思うけど…俺はただ…ただ、知りたいんだ…)
俺はゆっくりと指を動かし、電話をかけた。
「……もしもし?お久しぶりです。…ええ、少し落ち着いたので、新しい車を買おうかと。…はい、なので高橋さんと会ってお話ができればと思って───」
─END─
コメント
2件
うわあ…第24話、読み終わりました。 珠奈さんが亡くなって1年、日常が戻りつつあるのに心の傷は癒えない感じがすごく伝わってきて切なかったです。 それに、絋くんの描いた「ヒーロー」の絵がもう…怖いのに、なんで泣いてるんだろうって気になって。 高橋泰輝さんに繋がる伏線、ゾッとしました。 主人公が「ただ知りたい」って動き出すラスト、すごく好きです。 続きが気になる…!