つまりはこうらしい。あの時、手応えなく空を切ったと思った斧は、魔剣としてのチカラを発揮して断面もろとも風の刃が引き裂いていた。
だから木を切った手応えというものはなく、気付いてないわたしは失敗したのだと思った。そこをどうにか助けてくれたと思っていたけど、枝を切れるのを確信したときには最後の矢を放ち彼のなんちゃらカースを発動して止めたのだと。
「じゃあ、来るはずのない衝撃を待ちながら念仏を唱えていたんですねこの子は」
「念仏は唱えてないし!」
でも、そっか私があの一撃と同じことをしていたんだ……。
手のひらを見つめ、自然と笑みがこぼれる。
「いえ、規模は全然違うので、あれはそよ風みたいなものですね」
脳内のひとりごとに水を差すのはやめて……。
結局行きと変わらない時間で帰り着いた私たちは、魔獣の素材を持ってダリルさんのもとに来た。
「ロズウェルの仕事だ。心配などはしていなかったが、よくもここまで肥えさせたものだな。フィナ、お前の弓は間違いなく仕上げさせてもらおう」
そう言いダリルさんはロズウェルさんにお茶を淹れさせる。
ロズウェルさん秘蔵のスペシャルブレンドの紅茶はいつもより甘く、ガトーショコラはほろ苦い大人の味わいになっている。
そんな大人の味が苦手であろうダリルさんはロズウェルさんからあめ玉を貰って珍しくありがとうなんて言っている。
やはりギャップ萌え狙いか?
「フィナ、私はいつでもあなたと共にありますよ」
「うん、ありがとう店員さん」
このお店のお茶は本当に美味しいなぁ。
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フクロウの鳴く声を聞きながら、火を落とした工房にダリルがひとり。
魔獣の枝は芯を剥き出しにしていくつかのパーツに分けられ赤い水の中に浸かっている。さらにそこに金色の毛を一房、光の粒となり赤い水にさらなる力を与える。
赤く輝く魔水をその身に蓄えたパーツと魔獣の皮を組み合わせる。別口で用意していた魔獣のツタで縛り上げて整える。ダリルが魔石を手に力を込めるたび弓はしなりその身を強靭なものにする
そして数少ない友とよぶ巨鳥の羽根から取り出した繊維は、内包する濃密な魔力により切れることない弦となり魔獣の弓に取り付けられる。
出来上がった弓は濃い緑が美しく、随所に植物をモチーフとした飾りのあるロングボウだ。ただその弦はダリルを持ってしても引くことの叶わないものとなってしまっている。
この時既に日が出て街が起きはじめていた。