テラーノベル
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サンダリオス家の広間は、久しぶりに明るい笑い声で満ちていた。
暖炉の火がぱちぱちと元気に燃え、
テーブルには母エリザが朝から張り切って作った料理が山のように並ぶ。
レクトは、もうご機嫌の極みだった。
「やったー!! 」
黄緑の髪を跳ねさせながら、広間を駆け回る。
ルナが帰ってきてから一週間。
家族がまた一丸になった。
父パイオニアが「これを機に、別日にもっと盛大にみんなで祝おう。シェフを呼んだりしてさ」と提案し、
それにエリザは反応して
「じゃあもうすぐレクトの誕生日だし、その日に大きくパーティするとしましょうか!」
ルナも少し照れながら賛同して、
そしてレクトは、もうルンルンだった。
戦いが終わり、
姉が帰ってきて、
家族の視線が自分だけじゃなく、みんなに平等に注がれるようになった。
影魔法もフルーツ魔法も、どちらもサンダリオス家の誇り——
そんな当たり前のことが、ようやく取り戻せた。
だから、
今日は本当に嬉しい。
レクトの誕生日。 9月10日。
ずっとずっと待ってたんだ。
学園から帰る途中も、
レクトは鼻歌を歌いながら歩いていた。
寮ではなく、今日はもちろん家に帰る。
パーティだ。
家族みんなで過ごす、特別な夜だ。
でも——
学園の門で待っていたフロウナは、
少し眉を寄せていた。
「レクト君、ちょっと待ちなさい」
白衣のポケットに手を突っ込み、
いつもの眠たげな目で、レクトをじっと見つめる。
「どうしたんですか、先生?」
レクトはにこにこしながら振り返る。
フロウナは、そっと鼻をひくつかせた。
「……妙だな」
先生は果実アレルギー持ちだ。
フルーツの近くにいると、くしゃみが止まらなくなる。
それなのに、最近、レクトの近くにいるだけで、
症状が異常に強まっていた。
フルーツ魔法を出していないのに。
最初は気のせいかと思った。
でも、今日も——
レクトが近づくだけで、鼻の奥がむずむずし、
目が痒くなり、
喉が少し腫れるような感覚。
まるで、レクト自身が、
フルーツの匂いを強く放っているかのように。
「レクト君…最近、フルーツを食べ過ぎたりしていない?」
「え? しないですよ?」
レクトは首を傾げる。
フロウナは、目を細めた。
(いや、違う。
これは……ただのフルーツの匂いじゃない。
もっと、こうなにか深いところから……)
一瞬、先生の脳裏に奇妙な仮説が浮かぶ。
でも、すぐに振り払う。
まさか、そんなはずはない。
「まあ、いい。気をつけなさい。
体調が悪くなったら、すぐに私に相談するんだよ」
「はーい! じゃあ、先生、失礼しまーす!」
レクトは元気に手を振り、
スキップするように家に向かった。
フロウナは、その背中を見送りながら、
小さく呟いた。
「……何か、おかしい」
──
家に着くと、すでにパーティの準備は万端だった。
ルナは少し照れくさそうに新しいドレスを着て、
父パイオニアは珍しくネクタイを締め、
母エリザはエプロンを外して優しく微笑んでいる。
「ただいまー!!」
「おかえり、レクト!」
家族の声が重なる。
テーブルに着き、
グラスを手に取り、
乾杯の瞬間——
「それじゃあ、家族がまた揃ったことを祝して——」
パイオニアの声が響く。
突
然、
レクトの体がぐらりと揺れた。
「うっ……」
小さな呻き。
グラスが手から滑り落ち、
床に落ちて粉々に砕ける。
パリン……
ルナが最初に駆け寄る。
レクトはテーブルに手をつき、
必死に体を支えようとしたが、
膝が崩れ、床に倒れ込んだ。
「レクト!!」
エリザの悲鳴。
パイオニアが慌てて息子を抱き起こす。
その瞬間、みんなが息を呑んだ。
レクトの体——
腕から、首筋から、頰から、
白と緑の、ふわふわとしたカビが、
みるみるうちに広がっていた。
柔らかく、湿った、
まるで熟しすぎた果実の表面に生えるような、
不気味なまでに美しいカビ。
「な、何これ……!?」
ルナの声が震える。
レクトの瞳は焦点を失い、
苦しそうに息を荒げながら、
自分の腕を見つめる。
カビは、どんどん増殖していく。
エリザがすぐに声を発した。
「アルフォンス校長を呼んで!!!!!」
パイオニアは炎魔法でサンダリオスの城に白い炎を出した。
アルフォンス校長への緊急メッセージだ。
もしもの時のために、レクトとの関係修復後に交していたものだった。
数分後——
校長室から記憶の鏡で急いで駆けつけたアルフォンス校長が、
広間に飛び込んできた。
白い髭を震わせ、眼鏡の奥の目が、
驚愕に見開かれる。
校長は、倒れたレクトに近づき、
慎重にその体を観察した。
カビはもう、胸から腹、脚まで広がり、
黄緑の髪の根元にも、細かな白い菌糸が絡みついている。
校長は、息を呑み、
低く、震える声で呟いた。
「これは……
まるで彼そのものが、
果実かのような……!」
家族の悲鳴が、
広間に響き渡った。
「マジカル共鳴でもサンダリオスの血でも、フルーツ魔法でもない……、
…………まさか本当の、果実少年……!?」
次話 2月14日更新!
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