テラーノベル
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直樹に「死なせてなんてあげない」という手紙を送り届けてから数日
彼は結局、死ぬこともできず
精神病棟の併設された独居房で、誰にも届かない叫びを上げ続けているという。
私の帳簿から、彼への感情は完全に「欠損」として処理された。
一方、外の世界では激震が続いていた。
高木常務の逮捕と「マッチポンプ倒産劇」の報道により
直樹たちの元勤務先である大手IT企業の株価は底なしに暴落。
取引先は次々と手を引き、倒産は秒読み段階に入っていた。
そんなある日、私のオフィスに意外な来客があった。
あの会社の現社長と、数人の大株主たちだ。
「……詩織さん。いえ、今はもう、旧姓の高橋さんでお呼びすべきですね。……突然の訪問、失礼します」
かつては雲の上の存在だった彼らが
は私に対し、椅子に深く腰掛けることもできず、顔を強張らせて頭を下げている。
「私たちの会社は、高木や直樹が犯した罪によって、今まさに崩壊しようとしています」
「ですが、内部調査を進める中で、彼らが独占していた基幹システムのロジックや、顧客管理の脆弱性を最も深く理解していたのは……直樹が『家計簿』と称して分析させていた、あなただったと判明しました」
私は、思わず冷ややかな笑みを漏らした。
直樹は私を支配するために、会社の機密を含むデータさえも私に分析させ
1円のズレも許さない私の「精緻さ」を、自分の手柄として利用していたのだ。
「お願いです。顧問として、あるいは……再生担当の役員として、この泥舟を救ってはいただけないでしょうか。あなたなら、この組織の『毒』を抜き、再生させることができる」
「……お断りします」
私は一秒の迷いもなく答えた。
「私が守りたいのは、その会社の利益ではなく、奪われた私の人生と、陽太の未来だけです」
「……あなたがたが守ろうとしている組織は、私の父を食い物にし、私を檻に閉じ込めた場所。それが潰れるのは、ただの『正当な精算』ではありませんか?」
株主たちが絶句する。
かつては「女のくせに」と私を嘲笑っていたその組織が
今やその「女」の慈悲がなければ一歩も進めない。
この構図こそが、私にとって最大の復讐だった。
「ただ……もし、本当に再生を願うなら、条件があります」
「な、なんでも言ってください!」
「高木と直樹が隠蔽していた全ての裏帳簿を公開し、私の父のような被害者全員に、相応の賠償金を支払うこと。……それができなければ、一円の支援も、一字の助言もいたしません」
彼らは青ざめながらも、必死にメモを取っていた。
◆◇◆◇
帰宅後
私は陽太と並んでリビングに座った。
かつては、直樹が帰宅する足音に怯え、家計簿の数字を隠すように生きていたこの時間。
今は、窓から入る風が心地いい。
直樹は檻の中で、自分がいかに「無能」だったかを思い知っているかしら。
あなたが私の能力を搾取し、自分の手柄だと思い込んでいたその知識が
今、あなたを永遠に過去へと葬り去るための剣になっているのよ。
私は、新しい家計簿の「余白」に書き込んだ。
「利益:敵対組織の屈伏。資産:自分自身の価値の証明」
【残り65日】
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