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6話 「頭がおかしいのは、暑さのせいだと思いたい」
「……先輩、りんごは何色?」
トキの目線に耐えかね、両手で顔を覆いながら震える声で尋ねる。
「は?赤、だろ?…頭大丈夫?」
これで、先輩がおかしいという疑いが晴れてしまった。
「うう」
自分は唸りながら、思考を巡らせる。
前からトキの赤い瞳について、誰も反応しない事に違和感を感じていた。しかし、信じられないことに、自分にだけトキの目が赤く見えていた可能性がある。
その一言に、縋っていた望みが完全に潰える。
昴も、赤はちゃんと赤として見えている。つまり、おかしいのは自分だけということだ。
「いや、なんでもない。大丈夫」
誤魔化すように笑ってみせたが、昴の顔は険しいままだった。
「大丈夫には見えないけど」
「ほんとに、大丈夫だから」
昴はしばらく自分をじっと見つめたあと、小さくため息をついた。
署に戻ってからも、昴の視線はずっと自分に張り付いていた。
事情聴取は、というと拍子抜けするほどあっさりしたものだった。
「…目撃した状況を、簡単で構いませんので」
数分程度で終わり、担当の警官は妙に優しい声で「大変でしたね」と付け加えた。まるで、話の中身より自分の様子を見ている、そんな感じがした。
「あの、それだけですか?」
「はい、十分です。それより――」
警官は言葉を切り、静かに続けた。
「よろしければ、カウンセラーとお話しされませんか?大きな事件を目撃された直後ですので」
「え、いや、俺は」
自分は特に取り乱してもいないし、話したいことがあるわけでもない。そう言おうとしたが、昴が横から口を挟んだ。
「お願いします。こいつ、さっきから様子おかしいんです」
「先輩っ」
抗議する間もなく、そのまま奥の部屋へと案内されてしまった。
パイプ椅子に座らされ、向かいには柔らかい笑みを浮かべた女性のカウンセラー。
「今日は大変な思いをされましたね。無理に話さなくても大丈夫ですよ」
「…はい」
正直、何を話せばいいのか分からなかった。事件のことは、確かにショックだった。でも今、自分の頭を占めているのはそっちじゃない。
――トキの目が、自分にしか赤く見えていないかもしれないこと。
それを話せるはずもなく、当たり障りのない相槌だけを返し続けた。
「今、何かお辛いことは?」
「…特には」
自分としては、至って冷静なつもりだった。混乱はしているが、取り乱してはいない。むしろ今は、頭の中を整理したくて仕方なかった。
なのに、誰もそれを分かってくれない。
あれから数時間が経った今も、思い出すだけでどっと疲れが押し寄せてくる。
カウンセラーの、あの困ったような微笑み。事情聴取もそこそこに、精神状態ばかり気にされたこと。極め付けは、署を出る間際にそっと渡された、心療内科のパンフレット。
「…俺、そんなにやばかったか?」
誰に聞かせるでもなく呟く。
自分としては、終始冷静だったつもりだ。動揺していたのはむしろ、目の前で人が刺されたことより、トキの目が誰にも赤く見えていないという事実の方だった。だから、周りが心配するようなショック状態とはちょっと違う。
なのに、昴もカウンセラーも、まるで自分がおかしくなったみたいな目で見てくる。
このギャップは何なんだろう。
自分の内側では筋が通っているつもりでも、外から見た自分は支離滅裂だったということか。
「…いや、まあ、元から人よりちょっとズレてる自覚はあるけど」
突然現れた無口な少年を拾って一緒に暮らし始める時点で、まともとは言い難い。それは自分でも分かっている。
でも今回のは、そういうのとは種類が違う気がする。
それに、どうしてトキはあの女性を見つめていたんだろうか。────あの事件を目の前にして表情1つ変えないで居られたんだろう。
────これは後から知った話だが、あの三つ編みの女性は救急車の中で亡くなったらしい。
コメント
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**はる。:** うわ、これ6話か…!主人公の認識が周りとズレてる不気味さがじわじわ来るな。トキの目が赤く見えるのが自分だけって、ヤバすぎる。カウンセラーとか昴の「心配してる」目線と、主人公の「俺は冷静だ」ってギャップが逆にリアルで怖い。あと、あの女性が亡くなったってのと、トキの無表情が重なってなんか嫌な予感する…続きめっちゃ気になる🔥
玖(キュウ)
355
ruruha
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