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(本気で言っているのなら、たちが悪いことこの上ない)
ラヴァインの言動で凍りついた場は、納めようがなく、グランツは鋭く目を光らせ、ブライトも情状酌量がないと呆れてものも言えないようだった。
根っからの悪か、善悪のつかない子供か、どっちでもよかったが、取り敢えずグランツに対しても、議せになった人達に対しても言ってはいけない事を言っていることに気づかないとでも言うのだろうか。まあ、元から何を言っても気づくような奴じゃないと、私も諦める。
(こいつと話そうとした私が馬鹿だった)
話せば分かるなんて簡単なことじゃない。ラヴァイン何で自己中で傲慢で救いようがない。滅茶苦茶に言っているが、当を得るだろう。
「アンタそれ本気で言ってるの?」
「そうだね、わりと本気で言ってるよ。さすがに俺にも、一応の良心やら、善の心は残ってるかも知れないけどさあ、別に悪いことしてないだろ」
「悪いことだって、気づかないぐらい馬鹿なのかって聞いてるのよ」
そういえば、ラヴァインの方が何故か呆れたというようにフッと鼻で笑っていて、本当に頭にきた。
「ブライト、魔法といて」
「で、ですが」
「彼奴殴らないと済まないのよ」
「……一応、彼も貴族です。聖女とは言え、殴ればどうなるか分かりません」
と、ブライトに止められる。あっちの味方をしていないことは分かっていても、何か嫌だった。私は貴族でも皇族でもないからそういう勝手は分からないけど、もう家にも戻っていないようだし、殴っても裁判にかけられることは無いんじゃないかって勝手に思っている。それがダメなら、犠牲になっていった人達の無念はどうやって晴らすのだろうか。
「そもそも、今回被害を被った此奴らは、自分の意思で入信してる。だから、信者だし、混沌のために死ねるなら本望じゃないか」
「だったとしても、そんな人を駒みたいに」
「ヘウンデウン教の信者の割合知ってる?」
そう、ラヴァインは言ってきた。何が可笑しいのか、口を開いて馬鹿にするように、その目を細める。挑発されていると分かっていても、想像もつかなかったから、素直に聞くしかないと思った。
「何人だって言うのよ……」
「何人って数じゃないよ。何万といるよ。何十万かも知れないけどね……まあ、その殆どが、ラジエルダ王国の国民さ」
そうラヴァインがいった瞬間、またも場の空気が一気に氷点下に落ちる。
滅ぼして占領した、と言うところまでは知っていたけれど、まさかそんなことまでしているとは思わず、絶句する。
「それって、洗脳……」
「違うよ。混沌や災厄の可能性、そういうのをえらーい人達がといて自主的に入信させただけだからね。洗脳じゃないよ」
「絶対違う……」
ラヴァインはみていないのだろうが、詳細は知っているはずだ。そんなの絶対に、洗脳したに決まっているし、じゃなかったとしても極限状態で捕虜となっているときにそんな甘い言葉を囁かれた誰だって堕ちてしまうに決まっているだろう。それを洗脳と言わずして何というのか、こっちが聞きたいぐらいだった。
(グランツは……大丈夫だよね)
自分の故郷のそれも自分たちを慕っていてくれただろう国民がそんなことになっていて何て思っただろうか。きっと苦しくて、辛くて、また彼の中の復讐の炎が燃えてしまったのではないかと思った。どれだけ、火に油を注げば満足なのだと、私はラヴァインを睨み付ける。
「俺がやったんじゃないし、俺は悪くないでしょ?」
「だから、そういう問題じゃないの。アンタが、ヘウンデウン教の幹部の時点で同類よ」
そういえば、酷いなあ。何て笑うラヴァイン。どれだけ人の心がないのだろうか。
「だって、エトワール考えてみてよ。この間の調査だっけ?あの時殺した肉塊達も、ラジエルダ王国の元国民を元に作った化け物だよ。それを討伐したのは、エトワール達だし。といっても、あの姿になって人に戻れるなんて思わないけど。後、肉塊になった彼奴らは、別に嫌々やらされたわけじゃないからね。そういうの考えたときにさ、別に悪いことしてるって感覚にはならないんじゃない?」
「本当に、言っている意味が分からない」
何故、ラヴァインが私達の災厄の調査のことを知っているのか。あの場にいたのか、誰かに聞いたのかは別としても、そんな言い訳が通用すると思っているのかと思った。
確かに、自分たちでやると言ってあの姿になったとして、それでも、それは洗脳されて善悪の判断も自分の命の尊さも忘れたからであって、そうなった原因を作ったのはヘウンデウン教だ。どれだけ悪の教団だと知らしめれば気が済むのだろうか。
私達はそんな教団と戦っているのかと、こちら側のメンタルが潰れないか心配で心配で仕方ない。リースが知ったらどう思うか、一緒に戦ってくれている騎士や魔道士達が知ったらどう思うか。戦争は、人と人が争いあうものだけど、ここまで裏がドロドロとしていたら誰もくじけてしまうのではないかと思った。私も真実を知って平然としている風に見えるけれど、この怒りが中ったら恐怖と絶望で立ち上がれなかったに違いない。
(本当に狂い過ぎていて同じ人間だとは思えない)
ゲームではそんなに濃く内容が出てこなかったため、こんなに残酷で残忍な教団だとは思わなかった。混沌を倒せばそれでいいと思っていたが、そうならなさそうで、頭が痛い。
「後、さっきからさ、俺が悪い悪い言っているけど、俺だけじゃないよ」
「まだ何か言いたいの!?」
「じゃなくて、俺が全部とりしきっているわけじゃないし、他にも幹部はいる訳じゃん。例えば、そこのブリリアント卿のお父上様とか?」
と、ラヴァインはブライトを指さした。
動くな、とグランツに剣先を向けられているのにもかかわらず、ラヴァインは勝手に動こうとする。余裕過ぎて、きっと何かあるんだろうなと勘付きつつ、それをブライトに向かって言うかと、私はブライトの方を見た。ブライトは、わかりきっているように、苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
ブライトは、父親が行方不明になっていたと言って、もしかしたら……の可能性の話をしてくれた。でも、ラヴァインが言うのだから、きっと嘘ではないだろう。こういう嘘をついても得しないのはラヴァインも分かっているし、嫌がらせをするなら徹底的にするだろう。
「可哀相に。光魔法の魔道士が闇落ちって、ほんと出来すぎてると俺は思うよ。まあ、少しの良心が残ってるのかは知らないけど、俺達闇魔法の奴らとは話さないけど。でも、彼がやった事は完全に人の道を反れている」
「貴方が何を知っているというのですか」
「今、ブリリアント卿のお父上様は、ヘウンデウン教の幹部。こっちとしては、本当にありがたいし、動きやすくなったよ」
そうラヴァインは言ってにこりと笑った。
悪意の籠もったその笑みに、ブライトに今すぐ魔法を解いてと言ったが、ブライトは私の話を無視した。確かに、そんなことを面と向かって言われたら誰だって固まってしまうだろう。尊敬していた父親が敵の手に堕ちて、非道なことに手を染めていると言われたら、何のために頑張ってきたのか守ってきたのか分からなくなる。
「ブライト……」
彼が、どれだけ父親を尊敬しているか知っているから、なおのこと心が痛かった。それを分かっていたから、わざと口にしたラヴァインもラヴァインだ。ラヴァインの兄の方がよっぽど人のことを考えていると今ここにいないあの燃えるような紅蓮のことを思い出す。
「貴様は本当に、人を陥れるのが好きなのですね」
「楽しいじゃないか。分かるだろ?グランツ・グロリアス」
「俺には、理解しえない」
と、グランツは怒りを露わにする。
ラヴァインは、グランツもブライトの心も土足で踏み荒らした。それが何を意味するか分かっているだろう。どれだけ、人を傷つければ彼は満足するのだろうか。でも私に関しては何も言わないところをみて、もしかしたら、私の情報などたかが知れているのではないかとも思った。
(まあ、言われたくもないから別にいいんだけど)
正直顔もみたくないから。と、目を閉じれば、ブライトがポンと肩に手を置いた。
「ブライト、ど、どうしたの?」
「いえ、久しぶりにこんなにも人に不快感を覚えたもので……すみません、エトワール様」
「そ、そうだよね」
温厚なブライトがそこまで言うのだから、相当な事を言っているに違いない。取り敢えず、此奴を捕まえて色々情報を吐かせなければと、グランツにラヴァインを捕まえるよう言う。グランツは、小さく頷いて、ラヴァインに立ち上がるように命令を出した。それに素直にもラヴァインは立ち上がって両手を挙げたが、次の瞬間彼の足下に魔方陣が現われる。
(しまった、逃げられる)
私達と話しながらバレないように魔力をため、転移魔法を発動させたのだと分かった。だから、分かったときには遅く彼の身体は光に包まれる。グランツがすぐさま剣を振るう。
「逃がすかッ!」
しかし、それは見えない障壁によって防がれてしまい、ラヴァインの身体は完全に光に包まれた。もう手も足も出ない。
「じゃあね、エトワール。また会おう」
「会いたくないわよ!クソ野郎!」
「ハハッ、俺って愛されてるなあ」
何て捨て台詞を吐いてラヴァインは完全に消えてしまった。残ったのは、残骸と、血の臭いばかりだった。ブライトは魔法を解き、ようやく光の立方体から出れた私は、ギシィ……と教会の扉が開く音を耳で捉えた。
「誰?」
「……ッチ、一足遅かったか。んで、何でお前らまでここにいるんだよ」
「あ、アルベド!?」
闇の中から現われたのは、濁った偽物の紅蓮ではなく、本物の燃えるような紅蓮の持ち主、アルベドだった。