テラーノベル
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カジノに賊が侵入した翌日、俺はすぐさまカジノへと駆け込んでいた。
突然の俺の来訪に慌てふためく警備員達。ドリコも対応に出てきた。
「ラ、ラウル様、本日はどのようなご要件でしょうか? 金庫は明日開きますので、今日来られましても――」
「ギルドより連絡があった。そなたが血相を変えて、カジノに賊が入ったと怒鳴り散らしているとな。相当な宝が盗まれたと聞いて、余は嫌な予感がしている」
「はは、何かの間違いでしょう。そのような事実はございませんよ」
「そんなわけがない。昨日そなたが貧民街でも問題を起こしたと聞いている。そなたが貧民街に行く理由などない」
「それは、その視察でして」
「余には、なくなった聖剣を貧民街で探していたように見えるが?」
ドリコは汗だくになり、口は半開き。『この豚王子め、なぜこのような時だけ勘が鋭いのだ』と言いたそうだ。
「聖剣が無事ならばそれでいい。金庫を見せよ。ママ上が透視魔法で、本当に聖剣が金庫内にあるか確認させてもらうがな」
「困ります王子、勝手に中へ入られては!」
「やかましい、早く金庫を見せろ!」
ずんずんカジノを進むと、警備も引き止めることが出来ず道を開ける。
わざと金庫を探すふりをして右に左に。当たり前だが、金庫の場所は調べて知っている。
地下階段を降りて、金庫室へと入るとそこには帝国紋章が刻まれた巨大金庫が鎮座していた。
「これがゴールドロックか」
全高は5メートルを超える鋼鉄製の扉。表面は鈍く光る黒金で覆われ、まるで砦のような威圧感を放っている。
扉中央には、竜のレリーフが彫られており、目には赤い宝石が埋め込まれていた。魔力封印の一種だろう。
ドリコの金の匂いと虚飾への執着が滲み出たような、無意味に華美な装飾が随所に見られる。
更に近づいてみるとわかる、頑強に見える扉がまるで出窓みたいに、無防備に開いていたのだ。
「……開いてるじゃねえか。余もなめられたものだな」
眉を寄せ怒りの表情を浮かべる俺の横で、ドリコが冷や汗を滝のように流し始める。
警備員たちは目を泳がせながら、誰かが動くのを待っているように身を硬直させていた。
「どけ」
警備員を押しのけるように金庫室の中へと足を踏み入れる。
広い内部には金の延べ棒が高く積まれた黄金のピラミッドや、宝石の類がぎっしり。
更に奥に進むと豪奢な台座が設けられていた。本来ならばそこに帝国の象徴であり、最重要魔具でもあるはずの聖剣ドラゴンヘッドカリバーが鎮座しているはずだった。
だが、そこには空っぽの台座だけが残されていた。
「して、ドリコ市長、余の聖剣はどこだ?」
「それが、その……昨日賊が入りまして」
「ふむふむ」
「聖剣だけを盗み出して、逃げ出した様子で……」
「そなた言ったはずだ、このゴールドロックは自分でも開けられないセキュリティになってるから安全と。ガバガバに開いとるじゃないか! どうなってるんだ!?」
「も、申し訳ございません!」
「その上隠蔽工作をしようとするとは。すぐにバルト将軍を呼べ!」
「お、王子、兄を呼ぶのだけはご勘弁を!」
「馬鹿者、万引き犯みたいなことを言うな!」
バルト将軍を呼んでいる間、俺は聖剣を盗まれてイライラが止まらない王子を演じる。
聖剣を盗ませたのは俺だが、今の俺は本当に盗まれたと思って怒っている。時折自分が多重人格なのではないかと思えてくる。
「賊はどうやってこの金庫を開けたのだ! そなたの話だと上級魔道士が10人くらい必要なはずではないのか!?」
「な、なぜ開けられたのか、我々も不明で……」
「金庫に不具合があって、鍵がかかっていなかったんだろ、しらを切るな!」
「な、なぜそれを!?」
やべっ、裏事情全部知ってるから、ついポロッと出てしまった。
「そんなことはどうでもいい! 鍵が開いていたのは事実なんだな!」
「は、はい。左様でございます」
「そなた、嘘ばっかりついているな!」
やばいやばい、なんとかパッションで乗り切った。
ドリコは一体誰がバラしたんだと、一瞬苦々しい表情を浮かべる。
「余は最初から何かきな臭さを感じていた。ドリコ市長、なぜ鍵のかかっていない金庫の前で余を数日も待たせた?」
「それは、その……鍵はかかっていなかったとはいえ、扉の重量は4トンを越え、容易に開くものではなく……」
「自分で苦しい言い訳してるって気づいているだろう?」
手札がないドリコからすると、金庫の構造を理由にする以外に逃げ道はない。
その話をしていると、バルト将軍もカジノの金庫へと駆けつける。
「ドリコ、どういうことだ!? ワシはお前が聖剣を保管しているなんて聞いていないぞ! あまつさえ、それを盗賊にとられるとは! どう責任をとるつもりだ!!」
バルト将軍は、ドリコの胸ぐらを掴み上げると乱暴に放り投げる。
「このアイゼンヴェルグ家の面汚しめ死んで詫びろ!」
「ち、違うんだ兄さん」
「ええい、ワシを兄と呼ぶな面汚しめ! 先代が積み上げてきた功績を無に帰すような愚行をしおって!」
「ちなみにドリコよ。余はタレコミで、VIPルームで違法レートのカジノをさせていると聞いておる。それは本当か?」
「なんだと!? 本当か!?」
バルト将軍は再びドリコの胸ぐらを掴み上げると、金庫の壁に叩きつける。
「ご、誤解ですよ、VIPルームで行われていたゲームは、ただの余興でそもそも賭けを行っていません」
「そんなこと誰が信用するのだ! カジノでVIPを集めたゲームをして、賭けていませんなんて通じると思っているのか!」
「に、兄さん痛いですよ」
「兄と呼ぶな、この犯罪者め!」
パンパーンと、ドリコの頬を叩くバルト将軍。
「そんな根も葉もないデマでございます! 王子、長年帝国軍騎士を務め、退役後はエスタ市長として身を粉にしてきた私と、素性もわからぬタレコミ、どちらを信用するのです!?」
「余に情報提供したのはフリーデ将軍だ」
「!?」
これを言ったことで、ドリコの中で全てがつながる。
「あの女、王子に泣きついたか!?」
「王子、どういうことだ!?」
俺はバルト将軍にも経緯を教える。
「彼女の夫であるトニーが、カジノのVIPルームで違法レートで賭けを行い大敗した。アイゼンヴェルグ家の資産にも手を付け、その穴埋めのため聖剣を質に出した。それをドリコ市長が買い取り、フリーデ将軍に対して脅迫行為を行った」
「な、なんと!?」
「彼女のプライバシーに関わることだから、深くは言わぬが肉体的非道行為があったと聞いている」
肉体的非道で、すぐに性的暴行と結びついたバルトはドリコの首を締め上げる。
「貴、っ様ぁぁぁぁぁ!!」
「誤解です、誤解です!! 私が実の姪に手をかけるなんてありえない! これは彼女が私を貶めようとしている策略だ!」
俺は一枚の写真を取り出す。そこにはフリーデ将軍と、ドリコ市長が半裸で映っている。
「これは貴様が脅迫に使おうとしていた写真だ。トニーが一枚所持していた。このような証拠を残すとは、そなたは相当な阿呆だな」
「ぐっぐぐぐぐ」
実際はトニーからではなく、ナハトに直接ドリコの家から盗んできてもらったものである。
そこに該当のフリーデ将軍も到着。
彼女は、いつも通り冷静な表情でドリコを睨む。
「私は聖剣を失うという、償いきれない罪を犯しました。その罪を償うためには、ドリコの言いなりになるしかないと決意致しました。ですが、王子の慈悲により卑しくも救って頂きました」
「嘘だ! 全部でたらめだ! この女を牢にいれろ!」
俺は往生際が悪いなとしかめっ面を作ると、ママ上を手招きで呼び寄せる。
「どうしたのラウルちゃん?」
「ちょっと失礼」
俺はママ上の胸を鷲掴みにして、胸の中からハートカリバーを引っ張り出す。
杖状の聖剣で、これを装備すると俺の魔力が大幅にアップする。
俺は硬貨に紐がついた、催眠増幅器を取り出すとドリコの前で揺らす。
「ドリコよ、余の問に真実を答えよ! そなたがフリーデを脅迫し、追い詰めていたな!?」
聖剣の力によって、本来ならまじない程度しか効果がない俺の催眠術は、強力な効果を発揮する。
ドリコは催眠にかかり瞳の色が紫に輝く。
「……その通りだ。これは兄への復讐なんだよ」
「なんだと?」
「兄は優秀だった。帝国軍でも、政務でも、何をやらせても完璧だった。私は……その背中に、ただ霞のように存在していた。誰も私を見てくれなかった。兄の弟としてしか扱われなかった。それでも、まだ我慢できた。だが……フリーデが生まれてから、すべてが変わったんだ」
ドリコは憎悪に満ちた目でフリーデを見やる。
「娘まで、兄の理想そのものだった。軍人としても、人としても、あまりに完璧だった。民は称える、兵士は慕う。兄はそんな将来有望な娘を誇りだと言う。その瞬間、決まったんだよ。兄の誇りを、」
泥の中に沈めてやる――
「ゆっくりと、少しずつ追い詰めた。トニーをギャンブル依存症にして、金を吸い上げて、逃げられないようにした。自分の手で夫を救えない無力感を、何度も何度も叩き込んでやったんだ……その表情が堪らなかった。冷静さが剥がれ落ちていくたびに、美しかった。完璧なものが崩れる様は、何よりも芸術だ! 皆が完璧だと言う女が、土下座する姿は滑稽だったぞ」
「狂ってやがる」
「そして最期には私の助けを選ばせるつもりだった。あの誇り高い女が、私の足元に跪いて、お願い、ドリコ様お助け下さいと雌豚のように――ふふ、はーっはっっはっは、ふべらば!」
イカれたドリコに鉄拳制裁を喰らわせたのは、バルト将軍だった。
「貴様は頭の病気だ! ワシが今ここで殺してやる!!」
バルトは背中に背負ったアックスを構えると、ドリコに向かって振りかぶる。
「バルト将軍、やめよ。これはリガルド帝国王子として命じる」
「ぐっ……」
「そ奴を殺せば、そなたも罪人。余は優秀な騎士を失うつもりはない」
いかに殺意を持っていたとしても、バルト将軍は帝国の将。俺の命令に従わなくてはならない。
彼は唇を噛み締めながら斧を下ろす。
「了解致しましたマイロード。ドリコを牢屋へとぶち込め!!」
騎士たちが市長の両脇を掴む。
「は、離せ、私は市長だぞ。貴様らなんかより偉いのだぞ。ええい触れるな~」
催眠状態のドリコは、まるで酩酊しているようにわめき続けた。
ま-ん-て-ん
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コメント
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第81話、めちゃくちゃ面白かったです! ラウル王子が聖剣盗ませた本人なのに「本当に盗まれたと思って怒る」って心境、思わず笑いました(笑) ドリコ市長の悪事が次々バレていく流れが気持ち良くて、特に催眠で真実を語らせるシーンは痛快でしたね。 「兄の弟(おまけ)」って表現に、悪役なのに少し切なさも感じました…。でもフリーデ将軍への執着はやっぱり狂ってる! ラウルとうっかりポロッと言っちゃうところも人間味があって好きです。次回も楽しみにしてます🤍