テラーノベル
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時を遡る事、今から4年前。
絹は姉の家へ駆け込むなり、感情を抑えきれず叫んだ。
「姉さん!どういうつもりなの!?」
絹の問いかけに姉は沈黙を貫く。
「私から朝陽を奪って、私に何の恨みがあるのよ!」
ようやく姉はゆっくりと口を開いた。
「だって不公平でしょ?」
その一言に、絹は耳を疑った。
「はぁ?不公平?」
姉は淡々と、自分の胸の内を吐き出していく。
「私は不妊を患って、旦那からも
愛想尽かされて捨てられたって言うのに
あんただけ子宝に恵まれて」
絹は呆然と立ち尽くす。
「そ、そんなしょうもない理由で?」
姉は鼻で笑った。
「しょうもないですって?」
その目には、長年積もり積もった嫉妬と憎悪が宿っていた。
「不妊に悩んでないアンタには
私の苦悩なんて分からないわよね?」
言葉を失う絹を尻目に姉はなおも続ける。
「義両親から孫を産めない女には用はない
息子の為にさっさと離婚してくれ
って言われた私の気持ちなんて・・・」
絹は拳を握り締めた。
「だったら実の妹の虐待をでっち上げて
警察に突き出しても構わないって言うの?
頭どうかしてんじゃないの?」
怒りを隠そうともせず睨みつける。
しかし姉は肩をすくめるだけだった。
「なんとでも言いなさいよ」
そして冷たく言い放つ。
「朝陽は私が引き取るから!」
絹は即座に言い返すが、姉は鼻で笑うだけだった。
「それは無理じゃないかしら?」
絹が眉をひそめる。
「何でよ!?」
姉は真っ直ぐ絹を見据えた。
「朝陽には私から、アンタは虐待で逮捕された
朝陽を殺したいから協力してって
相談された事もあるって吹き込んどいたから」
その言葉に、絹の全身から血の気が引く。
「な、何でそんなある事ない事平気で言える訳?」
しかし姉は平然と遮った。
「でも実際に朝陽の癇癪に悩んで 手にかけよう
とした事・・・一度くらいあるんじゃない?」
絹は怒りで肩を震わせる。
「バカにするのも良い加減にして!」
息を荒くしながら叫んだ。
「確かに逃げ出そうと思った事はあった」
その声は苦しみに満ちていた。
「でも朝陽を殺そうだなんて
思った事は一度たりとも無いわ!!」
涙を滲ませながら、必死に訴える。
「女手ひとつで朝陽を立派に
育てようって 必死にやってたわ!」
姉は冷笑を浮かべた。
「でも逃げ出そうと思ったのは事実よね?
アンタが本当に逃げ出していたら
朝陽は今頃どうなっていた事か
考えただけでも恐ろしいわよ・・」
絹は悔しさに唇を噛む。
「子育て経験ない姉さんに言われたく無いわ!」
姉は憎しみや嫉妬に満ちた目を絹に向ける。
「なんですって!?」
「本当の事でしょ!?」
絹は一歩も引かない。
「子育てしてる母親が、みんながみんな
苦悩を抱えずに楽しくやってるとでも思ってんの?」
その言葉には、母として生きてきた重みが込められていた。
「みんな必死に食らいつきながら
寿命削る覚悟で子育てやってんのよ!!」
姉は小さくため息をつく。
「ふっ・・・言いたい事はそれだけ?」
あまりにも冷めた反応だった。
絹は信じられないという表情を浮かべる。
「はぁ?」
姉は踵を返し、背を向けたまま呟く。
「そろそろ帰ってくれるかしら?
夕飯の支度しなきゃいけないから」
姉が背を向け、歩き出そうとした瞬間だった。
「待ちなさいよ!」
絹は咄嗟に声を張り上げ、姉の腕を掴む。
「まだ話は終わってないわ!」
しかし姉は振り返ることなく、冷たく言い放った。
「私は終わったわ」
その足取りは止まらない。
「早く夕飯作りたいのよ」
そして薄く笑みを浮かべながら続ける。
「そろそろ『愛する我が子』が『母親』である
私の 手料理を心待ちにして帰ってくる筈だから」
その言葉に、絹の中で何かが切れた。
「お前・・・」
怒りと悔しさが入り混じり、声にならない。
姉はそんな様子を面白がるように振り返った。
「あんまり粘着する様なら警察に通報するから」
絹は唇を強く噛み締め、姉はさらに畳みかける。
「いい? 忘れないでね?」
その目は勝者のような余裕に満ちていた。
「朝陽を虐待していた母親」
その一言が、絹の胸を深く抉る。
姉は静かに続けた。
「その事実があるだけで、 警察は私たち
親子の味方をしてくれるんだからね?」
絹は何も言い返せなかった。
ただ拳を震わせながら、その場に立ち尽くす。
姉は最後に振り返り、突き放すように言い放つ。
「分かったら金輪際、私たちに関わらないで」
そう言い残すと、姉は一度も振り返ることなく、キッチンに向かう。
残された絹は、遠ざかっていく背中を見つめることしかできなかった。
胸の奥で燃え盛る怒りと、朝陽を奪われた喪失感。
そして、自分の無力さだけが重くのしかかっていた。
絹に出来る事といえば、精一杯悲しい表情をしながら家から出ていく事だけだった。
#ボカロ
ありあ
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ありあ
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コメント
1件
×××さん、第80話読みました。4年前の回想、姉の嫉妬が「不公平」という一言に凝縮されていて凄まじかったです。絹が「逃げ出そうと思ったことはあっても♡♡♡うとは思わなかった」と涙ながらに訴える場面、母としての必死さが胸に刺さりました。姉の冷笑と「朝陽を虐待していた母親」というレッテルで追い詰める狡猾さ……この過去が現在にどう繋がるのか、すごく気になります。姉の歪んだ正義感も、不妊の苦しみを思うと複雑な感情が残りますね。次が楽しみです。