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夜はまだ深く、窓の外は静寂に包まれていた。
エアコンの微かな音と、時折鳴る時計の針の音が、寝室にリズムを刻んでいる。
俺はいつものように康二と隣同士で眠っていた。
不意に聞こえた低いうめき声に、静かだった空気がわずかにざわつく。
「…ん゛〜……やめて……っ…」
その声にうっすらと目を開けた。
暗がりの中、隣にいる康二が眉を寄せ、苦しげに唇を震わせているのが見えた。
「……康二?」
優しく呼びかけるが、反応はない。
悪夢だ、とすぐに察した。
額には汗がにじみ、手はぎゅっとシーツを握っている。
その様子が痛々しくて、そっと身体を揺らした。
「康二、起きて。……康二」
何度か名前を呼ぶと、康二がゆっくりと目を開けた。
「……めめ……?」
「大丈夫?ずっと唸ってたけど」
なるべく優しい口調で話しかけた。
康二はぼんやりと目を瞬かせ、少ししてから苦笑を浮かべる。
「……ごめん。起こしてもうて……」
「謝らなくていいよ」
康二の頭を軽く撫で、優しく引き寄せた。
「ほら、もっかい寝よ」
ぎゅっと抱きしめると、康二の身体から力が抜けていくのが分かる。
そのまま、二人して布団の中に潜り込んだ。
まるで世界から切り離されたような、あたたかな繭の中。
康二の寝息がすぐに戻る。
今度は穏やかで、心地よさそうなリズム。
その髪にキスを落としながら、そっと祈るように目を閉じた。
——今度は、悪夢なんか見ていませんように。
静かな夜の中、腕の中で眠る康二は、もう苦しげな顔はしていなかった。