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うわあ……30話、一気に核心に迫りましたね。神崎の機転で一花が救われた場面、本当にヒヤッとしたけど、あの冷静な対応が神崎らしくて好きです。それにしても奈緒の「少しくらい不幸になればいい」という動機、すごく生々しくて……日常に潜む嫉妬の怖さを突きつけられました。伏線として張られていた水野の情報源が奈緒だった回収の仕方も、自然で納得感がありました。続きが気になります。
落ちる――。
そう思った瞬間、一花の腕に強い衝撃が走った。
「……っ!」
身体が宙で止まる。
何が起きたのか理解するより先に、手首を掴む強い力と、聞き慣れた声が耳へ飛び込んできた。
「桜井さん!」
一花が顔を上げる。柵へ身体を押しつけるようにして、神崎が一花の腕を掴んでいた。
「そのまま動かないでください」
いつもの落ち着いた声だったが、その表情には余裕がない。
神崎は一花の腕をしっかりと掴み直すと、力を込めて身体を引き上げた。
柵を越え、足が地面へ戻った瞬間、一花の膝から一気に力が抜ける。
崩れ落ちそうになった身体を、神崎がすぐに支えた。
「大丈夫ですか? どこか痛むところは?」
「……大丈夫、です」
そう答えたものの、声は震えていた。あと少し遅ければ、自分はそのまま下へ落ちていた。
その事実を遅れて理解した途端、身体の芯から血の気が引いていく。
一花は神崎の腕に支えられたまま、浅く息を吐いた。
「……ありがとうございます」
「間に合ってよかった」
神崎は、一花を一人で奈緒に会わせるのは危険だと、ここまで同行してくれていた。
ただ、「最初は二人で話したい」という一花の意を汲み、少し離れた場所から様子を見守っていたのだ。
だからこそ、異変に気づいてすぐに駆けつけることができた。
神崎は短く息を吐くと、一花を自分の後ろへ庇うように立った。
その視線の先で、奈緒が顔面蒼白のまま立ち尽くしている。
「だ、誰……?」
戸惑う奈緒へ、神崎は答えなかった。ただ冷たい目を向けると、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「違うの。本当に、そんなつもりじゃなかったの!」
奈緒が必死に訴えても、神崎は取り合わない。そのまま画面を操作した。
「警察に連絡します」
奈緒の顔から、さらに血の気が引く。神崎が番号を押そうとした、その時だった。
「待って!」
奈緒が悲鳴のような声を上げた。
「お願い! 警察はやめて!」
神崎は手を止めたものの、スマートフォンを下ろさなかった。
#切ない恋
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「桜井さんは、転落寸前でした」
「でも……わ、わざとじゃない!」
「仮にここから落ちていたら、死は免れなかったでしょう」
奈緒が息を呑む。
「どちらにせよ、判断は警察に委ねます」
「お願いだから……!」
先ほどまで一花へ向けていた怒りは、もうどこにもなかった。
奈緒の顔に浮かんでいるのは、自分のしたことが取り返しのつかないものになりかけたと理解した者の恐怖だった。
一花は神崎の背中越しに、そんな奈緒を見つめた。
怒りも悲しみも、まだうまく整理できていない。それでも、このまま何も聞かずに終わらせることだけはできなかった。
「……だったら、全部話して」
奈緒が顔を上げる。
「え……?」
「水野に何をしたのか。どうして私のことを話したのか」
一花は震える息を整えながら、奈緒から目を逸らさなかった。
「もう嘘はつかないで。全部話して」
奈緒は答えなかった。
逃げるように視線を彷徨わせたあと、神崎がスマートフォンを手にしたまま動かないのを見ると、とうとう力が抜けたようにその場へへたり込んだ。
両手で顔を覆い、しばらく何も言わない。
「奈緒」
一花が呼びかけると、指の隙間から掠れた声が漏れた。
「……何回か、会った」
一花の胸が痛む。
「水野と?」
奈緒が小さく頷く。
「どうやって会ってたの?」
「時間と場所を決めて……直接」
「誰が決めてたの?」
奈緒はすぐには答えなかった。
「奈緒」
「……私が決める時もあった」
その言い方に、一花はわずかな引っかかりを覚えた。
「私が決める時も?」
奈緒は唇を噛んだものの、それ以上は答えずに続けた。
「水野は、一花のことをすごく知りたがってた。最近どうしてるとか、俊介とうまくいってるのかとか……」
一花の身体が強張る。
「それで、話したの?」
「……少しだけ」
「何を?」
「最近大変そうだとか……俊介に借金があるとか、それで一花が悩んでるとか」
奈緒は俯いたまま、さらに続けた。
「実家にいることも、話した」
一花は何も言えなかった。水野が口にしていた言葉が、次々と頭の中に蘇っていく。
『俊介くん』
『借金、いっぱいあって』
『一花ちゃん、かわいそう』
あの時は、どうして水野がそこまで自分の事情を知っているのか分からなかった。その答えが今、目の前にある。
「どうして……」
喉が詰まり、声が思うように出なかった。
「どうしてそんなことしたの?」
奈緒の手が、膝の上で強く握られる。
「……一花が、少しくらい不幸になればいいって思った」