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そして、焼きたての魚に箸を伸ばす。
「おいしそうだな……」
そう言って、微かに目を細めて微笑む姿。
(……本当、尊さんって綺麗に食べるな)
そのギャップにやられ、俺は内心思わずニヤっとしてしまった。
と、そのとき
器を持つ尊さんの右腕、その袖口からチラリと覗く金属の輝きに目が止まった。
革ベルトの落ち着いたものではなく、重厚感のあるステンレスの輝き。
「あれ? 尊さん、その時計初めて見ますね」
箸を止め、思わず尋ねる。
尊さんは手首を軽く返し、光を反射させて見せた。
「ああ、最近買い替えたんだ」
「……なにかのブランドですか? すごく綺麗ですけど」
俺が目を丸くして尋ねると、尊さんはいつもの淡々とした、けれど少しだけ誇らしげな口調で答えた。
「これはグランドセイコーというブランドの、ヘリテージコレクションというモデルだ」
「ぐ……ぐらんどせいこー?」
言葉を繰り返してみる。
時計に疎い俺でも、名前くらいは聞いたことがある気がした。
「日本の老舗メーカーだ。言っていなかったな。こういうのを集めるのが昔からの癖で、家にもいくつかコレクションがあるんだ」
「そうだったんですか! コレクションなんて凄いです……。時計のこと詳しくないですけど、なんだか凄く『尊さん』って感じがします。上品で……」
素直な感想を口にすると、尊さんは少しだけ意外そうに目を見開いた。
「ふっ……そうか」
彼が身につけている時計は、確かにただの道具を超えた美しさがあった。
光の当たり方で表情を変えるシルバーの文字盤、そして迷いのない滑らかな秒針の動き。
それが尊さんの端正な指先と相まって、一つの完成された美術品のように見えた。
「すごい……見れば見るほど、高そうです……」
「まあ、値段はそこそこしたが、時計の世界では、これでも入り口みたいなものだ」
尊さんはさらりと言ってのける。
その器の大きさに、俺はただただ感心するしかなかった。
◆◇◆◇
退社後
エントランスで、トイレに向かった尊さんを待つ。
ふと、昼間に見たあの時計の残像が蘇ってきた。
「グランドセイコー……ヘリテージ……」
スマホを取り出し、好奇心に勝てず検索窓に打ち込んでみる。公式のショップページが一番上に表示された。
「えーと、これかな……マットな輝きが似て……」
次の瞬間、俺は息を止めた。
「……え?」
表示された数字を、二度、三度と見直す。
桁を数え間違えたのかと思った。
682,000円
「ろ、ろっぴゃく……はちじゅう……!?あっ、いや……68万円…?で、でも高……っ!」