テラーノベル
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朝。
カーテンのすき間から光。
すちは先に目が覚める。
(……)
一瞬、状況理解できない。
あったかい。
近い。
安心するにおい。
──思い出す。
(昨日)
なでられた。
声、聞いた。
「ここにいてくれてありがとな」
(うわあああああああああああ)
内心大爆発。
でも。
顔は無表情。
完全に無。
プロ。
みこと、まだ寝てる。
ちょっとだけ口開いてる。
髪ぼさっとしてる。
すち、見て。
(……かわいいとか思ってないし)
(全然思ってないし)
(昨日のあれも夢だし)
自己暗示フル回転。
でも胸はドキドキしてる。
みこと、もぞっと動く。
「……ん……すち……?」
寝ぼけ声。
名前呼ばれた瞬間。
(しんだ)
すちの心、蒸発。
でも外側。
「……おはよう」
声、いつも通り。
奇跡の平静。
みこと起きて、普通に伸びする。
「よく寝れた?」
なにその通常テンション。
すちは思う。
(なんで普通なの????)
(昨日あれあったよな???)
「……まあ」
短く返す。
クールを装う。
しかし内側。
(よく寝れたどころか一生忘れられない夜なんだけど)
みこと、近くで髪直しながら
「今日学校だるいな〜」
距離、近い。
近い近い近い。
でも口。
「……遅れる」
通常営業。
朝ごはん中。
みこと普通に話す。
昨日のこと一切触れない。
それが逆にやばい。
(触れないってことは覚えてるよな!?)
(覚えててスルーって何!?)
すちのメンタル一人ジェットコースター。
家出る前。
みこと、靴履きながら
「ほら行くぞ」
って軽く袖つかむなって
でも顔。
「引っ張るな」
冷たい風を装う。
内心。
(もう無理むりムリ無理)
外歩きながら。
距離ちょっと近い。
すち、気づいてる。
でも離れない。
(これ、俺から詰めてるのバレてないよな)
(昨日も俺からだったし)
思い出して。
(やめろ記憶再生すんな)
一人で悶絶。
みこと横で普通に
「今日帰ったらゲームする?」
何事もない顔。
すちは思う。
(この人、爆弾置いて普通に生活できるタイプだ)
「……別に」
興味ないフリ。
でも耳赤い。
本人だけが大事故。
みことだけが平常。
この温度差が一番やばい。
夜。
電気を消したあと。
部屋は静かで、
昼のドタバタが嘘みたい。
布団に入って、背中向け合ってる形。
でも。
(近い)
体温を感じる距離。
すちは目を閉じてる。
けど眠れてない。
昼間のこと思い出す。
袖つかまれた時。
並んで歩いた時。
当たり前みたいに隣にいること。
(……これが普通になってくの、こわい)
嬉しいのに、怖い。
失う想像が先にくる。
胸の奥が、じわってなる。
「……すち」
小さい声。
みこと、起きてる。
すち、心臓止まりかける。
でも動かない。
寝たふり継続。
「寝てるか」
少し笑った声。
布団が、ふわっと揺れる。
そっと。
本当にそっと。
頭に手が触れる。
なでる、ってほど大きくない。
髪を整えるみたいな、やさしい動き。
(起きてる起きてる起きてる)
(でも動いたら終わる)
全神経、頭に集中。
「……がんばってるよな」
小さな声。
独り言みたいに。
「ちゃんとここにいるし」
「えらい」
すちの目の奥、熱くなる。
(それ言うな)
(それ、だめなやつ)
涙、にじむ。
でも寝たふり。
意地。
みことの手、止まる。
離れるかと思ったら。
今度は、少しだけ近づく気配。
布団越しに背中が触れる。
寄り添う、って感じ。
抱きしめるとかじゃない。
ただ、「ここにいるよ」って距離。
すちの内心。
(……あったか)
(安心する)
(やばい)
(離れられなくなる)
怖さと安心が一緒にくる。
これがいちばん厄介。
「……必要とかさ」
みこと、ぼそっと。
「むずいけど」
少し間。
「俺は、お前がいると助かる」
静かな声。
強くもない。重くもない。
ただ、本音。
すちの限界。
涙、こぼれる。
音立てないように、必死。
(そんな言い方ずるい)
(“必要”じゃなくて“助かる”って)
(選べる感じするじゃん)
心が、ほどける音がする。
みこと、それ以上何も言わない。
ただそのまま。
同じ向きで。
同じ温度で。
同じ部屋で。
すちは思う。
(必要って、縛る言葉だと思ってた)
(でも)
(隣にいてほしい、ってことなのかも)
初めて、
「いてもいい」じゃなくて
「いたい」
が、胸の中に残る。
小さく、聞こえないくらいで。
「……みこと」
寝たふりのまま。
みこと、たぶん気づいてない。
でも。
背中の距離が、少しだけ縮まった。
それが返事だった。
甘いけど、静かな夜。
爆発じゃなくて、
しみ込むみたいに進むやつ。
カーテンの隙間から光。
すちは、ゆっくり意識が浮いてくる。
(あったかい)
まだ半分夢の中。
布団も、空気も、ぬくい。
でも違う。
(……近い)
背中に重み。
腰のあたりに回ってる腕。
完全に、抱き枕扱い。
思考停止3秒。
そのあと一気に覚醒。
(え?)
(え??)
(これ、みことの腕では???)
心臓、爆音。
でも体は動かせない。
動いたら終わる気がする。
みことは、まだ寝てる。
寝息、規則正しい。
無意識でくっついてきたやつ。
すちの脳内:
「離れろ」
「いや待て」
「でもこれ」
「安心する」
混線。
そっと、自分の手を見る。
みことの服の裾、ぎゅって握ってる。
(俺もか)
記憶なし。
本能犯。
顔が一気に熱くなる。
でも。
逃げない。
逃げたくない。
(……やっぱ、ここ落ち着く)
昨日の夜の言葉が、よみがえる。
“助かる”
“ここにいる”
胸が、じんわりする。
必要かどうかじゃなくて。
「一緒にいる」って状態そのものが、
もう答えな気がした。
みことが、少し動く。
「……ん」
すち、フリーズ。
「すち……あったけ……」
寝言。
終わった。
尊さで致命傷。
すちは観念する。
小さく、背中を預ける。
ほんの少しだけ、自分から。
(……これくらい、いいよな)
逃げない選択。
それだけで、胸の奥が少し強くなる。
教室。
いつもと同じ景色。
でも、すちの中はちょっと違う。
机に座って、ぼーっと窓の外を見る。
(前はさ)
(“帰る場所”って言葉、ピンと来なかった)
今はある。
あの部屋。
あの朝の温度。
あの距離。
思い出すだけで、呼吸が深くなる。
後ろの席の子が椅子を引く音。
前ならビクッてなってた。
今日は、ちょっとだけ反応が弱い。
(……あ)
自分で気づく。
怖さがゼロじゃない。
でも、飲み込まれてない。
足元が、少しだけ地面についてる感じ。
ノートを開く。
端に、無意識で小さく書いてた言葉。
「いる」
自分でもびっくりする。
前なら、
“いなきゃいけない”
“迷惑じゃないように”
そんな言葉だった。
今は違う。
ただの「いる」。
存在の許可みたいな文字。
(必要ってさ)
授業の声、遠くで流れる。
(役に立つ、とかじゃなくて)
(隣にいて落ち着く、とか)
(いないとちょっと寂しい、とか)
(そういうのも、含まれるのかも)
みことの顔が浮かぶ。
寝ぼけた声。
あったかい腕。
胸の奥が、静かに決まる。
(俺は)
(ここにいていい、じゃなくて)
(ここに、いたい)
その違いが、
今日、初めてちゃんと形になった。
チャイムが鳴る。
すちは、ゆっくり立ち上がる。
前より少しだけ、背筋が伸びてる。
劇的じゃない。
ヒーローでもない。
でも。
ちゃんと「戻る場所」がある人の歩き方。
心の中で、小さく思う。
(帰ったら)
(今日は俺から隣行こ)
それだけで、
午後の時間が、前よりずっと、やさしく見えた。
そろそろ完結
コメント
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ん〜さいこうすぎでおうてん(❛ᴗ❛(❛ᴗ❛♡”