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【場面】 東京のターミナル駅近くのカフェ。再会から数時間後。
悠太と葵は、人通りの多い駅を離れ、落ち着いたカフェに入った。
向かい合って座る二人の間には、7年間の空白があるはずなのに、まるで昨日の続きのように自然な空気が流れていた。ただ、あの頃と違うのは、悠太がもう背伸びをする必要がないこと、そして葵の瞳に迷いが一切ないことだ。
「それにしても、あのカブトムシの標本、まだ持ってたのか」悠太は笑った。
「持ってるさ。**『約束の証』だからな」葵はテーブルに置かれたアイスコーヒーを一口飲んだ。「アンタが夢を叶えるまで、私が勝手に『お守り』**にしてたんだ」
「俺も、絵日記は全部とってあるよ。『ときめき要素100点』の最終ページも、もちろん」
悠太はそう言って、再び葵の目をまっすぐ見た。7年前に果たせなかった**『恋』を叶える**という意思を込めて。
葵はアイスコーヒーのグラスをそっと置いた。
「悠太。7年間、アンタの絵日記を勝手にチェックする暇はなかったけど、アンタが頑張ってるのは、SNSや雑誌の記事で知ってたよ」
「え?」
「『東京で活躍する編集者・佐伯悠太』。地元の誇りだ。でも、今のアンタの瞳は、仕事の成功じゃなくて、あの夏と同じ、**『私』**を見ている目だ」
葵は、悠太の視線をしっかりと受け止めた。
「あのとき、私、アンタにキスをした。『ときめき要素』の罰ゲームだ、って言ってな。でも、あれは違った」
葵は少し照れたように、顔を赤らめた。
「あれは、私の初恋だった。アンタを都会に送り出すために、『もう戻ってこなくていいよ』って、自分自身に言い聞かせるための、私なりの決別だったんだ」
悠太は胸が熱くなった。あの夏の、自分にだけ向けられた、葵の不器用な優しさ。
「俺は、あのときからずっと、**『葵を迎えに行く』**ことだけが、唯一、成し遂げたいことだったよ」
悠太は、自分の正直な気持ちを伝えるために、テーブルの上にそっと手を伸ばした。
葵は迷うことなく、その手を握り返した。彼女の指先は、都会で働くようになった今も、どこか土の温もりを感じさせた。
「じゃあ、この夏は、**『あの夏の続き』**ってことでいいんだな」葵は微笑んだ。
「ああ。もちろん」
「じゃあ、明日、アンタの休みは?」
「明日は休みだ。仕事はもう、今日で全て終わらせてきた」悠太は笑った。
葵は目を輝かせ、まるで秘密基地への冒険に誘う、あの夏と同じ声で言った。
「よし! じゃあ、明日は私が、アンタを**『秘密の場所』**に連れて行ってやる」
「東京にも、秘密基地があるのか?」
「ふふっ。あるさ。私の職場だよ。アンタの疲れた心を癒やしてやる。そして、その後に、もう一つ、アンタが絶対に忘れていない、あの夏の場所に連れて行く」
悠太は、その言葉の意味を理解した。
「わかった。じゃあ、明日の待ち合わせは、午前十時でどうだ?」
葵は、その提案に満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、あの夏の灼熱の太陽そのものだった。
「いいよ、悠太。ただし……今度こそ、二度と逃がさない」
悠太は、7年間、自分の心の中に深くしまい込んでいた恋の切なさが、ようやく解放され、甘い喜びに変わっていくのを感じた。彼の、そして葵の**『ぼくらのなつやすみ』**は、7年の時を超え、今、この東京の片隅で、静かに、そして確かな愛と共に再スタートを切ったのだった。