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奇蹟あい
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瀬名 紫陽花
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春の心地よい風が大きな桜の木を揺らし、無数の花びらを散らせている。
私、林翠珠(はやし・すず)は、県内2番手の進学校である壮柊(そうしゅう)女子高校にはれて合格し、この春から高校1年生になった。今、教室から桜の木がちょうどよく見える席になれたことに心から大感謝している。
スイー、パタパタパタ……。
かすかに羽音が聞こえた。
(……あ! ハシボソガラスが桜の木に巣を作ってる!)
しかも、学校の庭には定期的にオナガが訪れる。ウグイスやヒヨドリ、ムクドリにキジバト、シジュウカラやメジロなどは常連だ。実は私、大の鳥好きなのである。パンパンに膨らんだサブバッグには、常に双眼鏡とフィールドノート、鳥類学者のエッセイや鳥類図鑑が入っている。流石に重い。
「部活動入部届の用紙です。来週までに入りたい部活の顧問に提出するように」
天然パーマで厳しそうな、社会科の女教師の声で現実に引き戻される。担任の中根先生だ。今はホームルームの時間で、部活動の入部届について説明しているところだった。
部活か……この学校、吹奏楽部がないんだよね。中学時代は吹奏楽部でホルンを担当していた。狂ったように毎日自宅で練習していたので、どうしても楽器への執着が抜けない。数日間悩み抜いた末、とりあえずホルンが吹けるオーケストラ部に入ることにした。
壮柊女子高校オーケストラ部、通称「壮女(そうじょ)オケ」は、毎年8月に男子校である壮柊高校のオーケストラ部と合同で演奏会を行う。もう60年ほど続いている伝統行事らしい。正直、何が目的なのかよくわからないイベントだ。
それはともかく、今年の演奏曲はチャイコフスキーの組曲『くるみ割り人形』に決まったそうだ。組曲の中でも、特に『アラビアの踊り』は聴いていると心臓がバクバクして大好きだ。
放課後。
「す〜ずちゃ〜ん、どうしよ! 本当にどうしよう!?」
同じホルンパートになったゆるふわな同級生、田沼木子(たぬま・ここ)ちゃんだ。さっきからあからさまに挙動不審になっている。
「どうしたの?」
「さっき先輩から聞いたんだけど、6月から壮高(そうたか)オケが壮女に来て、合同練習が始まるんだって……!」
「そうなんだ。で、なんでそんなに焦ってるの?」
「男子校生だよ!? この出会いの少ない女子校での唯一と言っていいビッグイベント……この機会を逃すわけにはいかないでしょ! しかも県内トップの男子校ってことは、いい感じの人がいるかもしれないじゃん!」
「うん、そっか……まあ、頑張ってね……!」
正直、その手の話題にはいまいちついていけない。でも、それでいいと思っている。
そういえばこの前、歴史ある神社の近くで手相占いをしてもらった時のことを思い出す。
『何を占いますか?』
『えっと……今後の人生について』
『おお、だいぶ深いですね。わかりました、手を見せてください……おっ、これは非常に珍しい手相ですね! あなたには他の人と違う何かがある。いい意味で、ずば抜けています』
『えっ、そうなんですか?』
『ええ! 昔からこれだけは夢中になれる、誰にも変えられないあなただけのものが、何かあるでしょう?』
『……鳥』
『鳥? あのパタパタ飛ぶ、鳥?』
『はい。小5のときからずっと好きなんです』
『なるほど。じゃあもう5、6年は観察し続けているのね。あのね、この手相は本当に、いい意味で周りと違いすぎているの。だから他人と比べる必要は一切ないわ。自分の好きなことだけを追求していけば、自然と道がひらけていく。あなたはすごい人になれますよ』
占い師の言葉に頷いていると、さらにこう続けられた。
『交友関係は狭めで、少しシャイ。でも、「この人さえいればいい」と思える人生の相棒に出会うかもしれない。それは女性かもしれないし、男性かもしれない。高校、大学で出会って、数年付き合って、30代で結婚して……とか、とても穏やかで素敵な人生になると思うわ。ほかに悩みはある?』
『……うーん、なんのために学校に行っているんだろうって考えることが多くて。不登校になりたいわけじゃないんですけど、単純に疑問で』
『ああ、それは「学校は社会性を学ぶ場所」だと割り切っちゃえばいいの。周りの女子高生はメイクや恋愛に夢中になり始める時期でしょ? でも、人と比べる必要はないの。大学生になれば似た価値観や興味を持つ人が集まるけれど、今の時期は「自分とは違う価値観を持つ人たち」と関われる貴重な機会。だから学校は社会性を身につける場だと割り切って淡々と通って、鳥の探求は自分自身で進めていけばいい。探求し続ければ、将来すごい研究者になれるかもしれないわよ。まあ、占いの結果だから参考程度にね』
あの言葉を聞いてから、心がだいぶ楽になった。自分が今やるべきことが、鮮明に見えた気がしたのだ。
だから、木子ちゃんの恋話に無理して合わせる必要はない。ついていけなくていいのだ。これも「社会性の勉強」の一環。そして私は、今まで以上に能動的に鳥を探求していけばいい。
だからこそ、私のサブバッグは今日もパンパンなのだ。
コメント
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わあ、翠珠ちゃん、すごく素敵な子ですね!鳥への愛情がサブバッグの重さにまで現れてるのがもう愛おしいです。占い師さんの「学校は社会性を学ぶ場所」という言葉、すごく響きました。自分らしさを大切にしながら、他人と違う価値観とどう向き合うか——この子の今後の成長が楽しみです。くるみ割り人形の合同練習、どんな出会いがあるのかワクワクします🕊️