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奇蹟あい
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瀬名 紫陽花
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6月。壮高との合同練習が始まった。今月は壮女で、来月は壮高で、それぞれ週に一回のペースで練習を進めていくらしい。
両校合わせて90人近くいるせいか、音楽室での合奏はとにかく狭く、熱気で暑苦しい。そんな劣悪な環境(?)の中でも、木子ちゃんは背筋をピンと伸ばし、いつも以上に丁寧で美しい音色を響かせていた。その背中には、あからさまな闘志が満ちあふれている。
そういえば最近、音楽室の大きな窓から見える池に、カワセミがよく訪れていることに気づいた。休憩時間になったらじっくり眺めようと思っていたのだが、室内は人が多すぎて窓辺まで辿り着くことすらできない。
仕方なく、私は隣にある楽器庫の小さな窓から観察することにした。
重い扉をそっと開けると、室内から丁寧で繊細なオーボエの音色が聴こえてきた。
(誰か練習してる……あ、壮高の人だ。……うまっ)
ふと見ると、彼は楽器を置くと小さな窓から外を覗き込んでいた。
(ん……? なにしてんだろ。……あ、もしかして鳥を見てるのかな?)
「あの……」
私が声をかけると、そのオーボエ男子が振り返った。サラリと前髪を揺らし、どこか気まずそうな表情でこちらを見つめてくる。
「もしかして、鳥を見てました?」
「え……あ、はい。そうです」
「えっ!? 鳥、好きなんですか?」
「まあ……結構好き、です」
「私も鳥、大好きなんですよ!!」
――しまった! 同世代で鳥好きな人なんて滅多に出会えないから、ついテンションが上がってしまった。引かれたかもしれない……。
「えっ! 本当ですか!?」
焦る私をよそに、彼は思いのほか嬉しそうな声を上げた。
「そうなんです! この窓から見える池、よくカワセミが来るんですよ」
「今、いる」
「え! どこどこ……!?」
吸い寄せられるように、二人で並んで小さな窓を覗き込む。
ちょうどその時、一筋の美しい青い光が池の水面をかすめた。いた、カワセミだ。
『翡翠』という漢字のパーツに自分の名前(翠珠)が入っていることもあり、私はカワセミに勝手に親近感を抱いている。
カワセミは水辺の木枝に止まると、一瞬の隙をついて水中に飛び込み、見事に魚を捕らえて枝へと戻ってきた。かっこいい……! ていうか、あの池って魚いたんだ。あ、また飛び込んだ! やばい、ずっと見ていられる……。
――その時、上空に鋭い影が差した。
(あ! オオタカだ! まずい、逃げて……!)
カワセミは異変を察知したのか、一瞬でその場から飛翔した。幸いにもオオタカには気づかれなかったようだ。食べられてしまうのではないかと、手にじっとりと冷や汗がにじむ。
『ふう……』
溜め息が完璧に重なった。思わず顔を見合わせる。
「危なかったですね……まさかオオタカが来るとは」
「いや、本当に……」
流石だな、と思う。あの一瞬の影だけで「オオタカ」だと識別できるなんて、普段からかなり観察していないと絶対に不可能だ。やるな、オーボエボーイ。
そういえば彼、何年生なんだろう。名前すら聞いていなかった。
「あの、私、高1の林翠珠(はやし・すず)っていいます。ホルンパートです。あなたは……?」
「あ、僕は高1の小鳥遊優人(たかなし・ゆうと)です。オーボエパートです」
「あ、同級生だったんだ! よろしくね、小鳥遊くん」
「うん、よろしく」
(……待って。小鳥遊(たかなし)……?)
小鳥が遊ぶと書いて、たかなし。鷹(タカ)がいないから小鳥が安心して遊べる、という由来の超・鳥関連苗字じゃないか。
なんて羨ましい苗字なんだ。私なんて林だぞ。木が生えてるだけだぞ。
一瞬で苗字への嫉妬とリスペクトが溢れ出したが、初対面で「苗字かっこいいですね」なんて言ったら流石に変人だと思われるので、ぐっと呑み込んだ。
その時、ガラッと音を立てて楽器庫のドアが開いた。
「すずちゃーん、合奏始まるよーってえぇっ!」
入ってきた木子ちゃんが、目を丸くして私と小鳥遊くんを交互に見つめている。
薄暗い楽器庫の中で、小窓を二人で並んで覗き込み、いい雰囲気を醸し出している(ように見えた)私と、県内トップ進学校のイケメンオーボエ奏者。
「す、すずちゃん……!? いつ間にそんなビッグイベント発生させてたの……!?」
「えぇ、木子ちゃん落ち着いて、 鳥見てただけだよ」
「鳥!? 男子高校生と二人きりで!? どんな高度な言い訳!?」
必死に木子ちゃんを落ち着かせようとする私の横で、小鳥遊くんはただただ気まずそうに「じゃあ、僕戻るね……」と逃げるように音楽室へ去っていったのだった。
コメント
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第2話、めっちゃ良かった…! カワセミとオオタカの一瞬の攻防、すごくリアルで手に汗握った。しかも二人の“鳥好き”がちゃんと共通点として繋がってるの、尊いよ…「小鳥遊」って苗字の由来に嫉妬してる翠珠ちゃんの心情、めちゃわかる(笑) 最後の木子ちゃんの誤解も含めて、青春って感じがするエピソードだった🥀