テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
41
5,678
零 .
3,089
その日の夕方。
龍斗は廊下を歩いていた。
「……今日は何も起こらへんやろ」
昨日までの出来事を思い出し、ひとりで苦笑する。
少佐に呼び出された。
妙な質問をされた。
自分について細かく記録されていた。
普通なら、もう関わりたくないと思うところだ。
「……せやけどなぁ」
なぜか、気になって仕方がない。
そのとき。
「やあ」
「うわっ!?」
突然、背後から声がした。
振り返る。
そこには少佐が立っていた。
「驚いたようだね」
「驚くに決まっとるやろ! いつからおったん!?」
「少し前からだよ」
「全然気づかんかったわ……」
少佐はいつものように微笑んでいる。
「今日は一人なんだね」
「せやけど?」
「なら、少し話そう」
「……また?」
「嫌かな?」
「嫌やないけど……」
そこで主は言葉を止めた。
「……なあ、少佐」
「何かな?」
「これって、偶然なん?」
「何がだい?」
「俺がここ通ると、あんたが現れること」
少佐は黙った。
ほんの数秒。
それだけだった。
しかし龍斗には、その沈黙が妙に長く感じられた。
「……偶然だよ」
「ほんまに?」
「ああ」
「……怪しい」
「疑っているのかい?」
「そら疑うやろ」
龍斗が腕を組む。
「昨日も今日も、俺が来たらおるやん」
「君が私のいる場所へ来ているだけかもしれない」
「それは……」
反論できない。
少佐が一歩近づく。
「君は私のことを気にしているんだね」
「……っ」
図星だった。
「そ、そんなんちゃうし」
「そうかな?」
「そうや!」
「なら、なぜ顔を逸らす?」
「うるさいな!」
主は顔を背ける。
少佐は楽しそうに笑った。
「君は分かりやすいね」
「……ほんま腹立つわ」
「それでも、君は私のところへ来る」
「……」
まただ。
その言葉に、主は何も返せなかった。
確かにそうだった。
嫌なら来なければいい。
怖いなら離れればいい。
それなのに、自分はここにいる。
「……俺、何で来てもうたんやろ」
ぽつりと呟く。
少佐の表情が少しだけ変わった。
「それを私と一緒に考えてみないか?」
「……またそれかいな」
「嫌かい?」
龍斗は少しだけ考えた。
そして、小さく笑う。
「……まあ、ええわ」
「そうか」
少佐も笑った。
二人は並んで歩き始める。
夕暮れの廊下に、二人分の足音が響く。
その距離は――昨日より少しだけ近かった。
そして龍斗はまだ知らなかった。
この出会いが、偶然ではなかったことを。
コメント
1件
読んだ読んだ!第3話、めっちゃ良かったわ✨ 龍斗くん、少佐に「気にしてる」ってバレて顔そらすとことか、完全に図星やんってニヤニヤしたわ(笑) 「偶然ちゃうやろ」って疑いながらも結局ついていく感じ、じわじわ距離縮まってるのがいいなあ。 タイトルの「偶然ではない」がラストで効いてきて、続きが気になりすぎる🔥 次話も楽しみにしてるで!