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零 .
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夕暮れの廊下。
龍斗と少佐は、並んで歩いていた。
「……なあ、少佐」
「何かな?」
「さっきの話、やっぱ気になるんやけど」
「どの話だい?」
「俺がここに来るんが、偶然やないって話」
少佐は答えなかった。
「……黙るってことは、なんか知っとるんやろ?」
「さてね」
「その『さてね』やめてくれへん?」
「気に入らないかい?」
「めちゃくちゃ気になるわ!」
龍斗がため息をつく。
すると少佐は足を止めた。
「龍斗」
「……なんや?」
「君は、最近誰かに後をつけられていると思ったことはないか?」
龍斗の表情が変わった。
「……え?」
「質問に答えてくれ」
「いや……」
龍斗は少し考える。
「そういや、何回か視線を感じたことはある」
「いつ頃から?」
「数日前……いや、もっと前かもしれへん」
少佐は黙って龍斗を見る。
「……やっぱりか」
「やっぱりって何やねん!」
龍斗が詰め寄る。
「知っとったんか?」
「確証がなかった」
「だからって黙っとくなや!」
「君に余計な不安を与えたくなかった」
「もう十分不安やわ!」
龍斗が頭を抱える。
少佐はそんな龍斗を見ながら、静かに言った。
「だが、もう一つ分かったことがある」
「……何?」
「君を見ていた人物は、私の周囲にも現れている」
「は?」
「つまり――」
少佐は廊下の先へ視線を向けた。
「君だけを見ていたわけではない」
「……どういうことや」
「私たち二人を見ていた可能性がある」
龍斗は言葉を失った。
さっきまでの軽い会話とは、明らかに空気が違う。
「……それ、ほんまに?」
「ああ」
「じゃあ、俺がここに来るたびにあんたがおったんは……」
「偶然ではない」
少佐が答える。
「君を守るためだよ」
「……」
龍斗はしばらく黙っていた。
そして。
「……最初から言えや」
「すまないね」
「ほんまやで」
「だが、君が素直に私のそばにいるとは思えなかったからね」
「そらそうやろ!」
龍斗は思わず声を上げる。
「何も説明されてへんのに『はい、少佐についていきます』なんてなるか!」
少佐は笑った。
「その反応を見る限り、まだ大丈夫そうだ」
「何が大丈夫やねん……」
龍斗は呆れながら歩き出す。
しかし、数歩進んだところで立ち止まった。
「……なあ」
「何かな?」
「もしほんまに俺を守るためやったんなら」
龍斗は振り返る。
「次からは、ちゃんと説明してくれへん?」
少佐は少しだけ目を細めた。
「分かった」
「約束やで」
「ああ」
短い返事。
けれど龍斗には、それが昨日までとは少し違って聞こえた。
二人は再び歩き出す。
その背後。
誰もいないはずの廊下の角で――
一瞬だけ、人影が動いた。
少佐は振り返らない。
ただ、口元だけが僅かに笑った。
「……見ているのなら、もう少し上手に隠れたまえ」
龍斗には聞こえないほどの、小さな声だった。
コメント
1件
第4話、読み終えました!少佐が「偶然じゃない」「君を守るためだ」って明かす場面、じわじ来ましたね。龍斗の「次からはちゃんと説明してくれへん?」って訴えも、関西弁の軽さの中に本音が見えて好きです。最後の「見ているのなら、もう少し上手に隠れたまえ」――少佐、全部把握してるやつですね。この空気、続きが気になりすぎます…!