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■呪画怪談:『花骸(はながら)』
■資料挿入
郊外マンション管理人からの証言
(※原文を整理して掲載)
あの、これ大丈夫ですよね?
絶対、会社には名前とかバレないようにしてくださいよ。
数年前の話です。
うちは郊外にある、ごく普通の分譲マンションです。
住人同士も挨拶するし、特別トラブルもない、どこにでもある建物です。
ある部屋に、一人暮らしの男性が住んでいました。
40代くらい。
会社員。
特に目立つ人でもなく、むしろ静かな方でした。
異変があったのは、ある時期からです。
夜になると、部屋の中から声が聞こえる、という苦情が来ました。
怒鳴り声というより、何かを繰り返しているような声。
最初は、通話かテレビだと思ったそうです。
でも苦情が増えて、一度注意に行ったんです。
インターホンを押すと、少し間があってから、ドアが開きました。
普通でした。
顔色も。
服装も。
話し方も。
ただ、少しだけ疲れているようには見えました。
事情を説明すると、男性は少し考えてから、こう言いました。
「……すみません」
それから、
「でも」
「僕らは、
悪いことはしていません」
その時、
少し違和感はありました。
その人は、一人暮らしのはずだったので。
ただ、それ以上は何も言いませんでした。
その後しばらくして、声の苦情は、ぱったり止みました。
ただ今度は、生活音が、まったくしなくなりました。
水の音も。
足音も。
ドアの開閉も。
やがて、「もう誰も住んでいないのでは」という噂が出始めました。
確認しようと思ったのは、五年ごとの国勢調査の時期でした。
調査員は管理人である私がやる事になっています。
ドアの前で呼びかけても、返事はありません。
何気なくドアノブを捻ると、鍵はかかっていませんでした。
中に入りました。
部屋の中は、真っ暗でした。
家具がありませんでした。
カーテンも。
照明も。
家電も。
ただ。
壁に、一枚だけ。
あの絵がありました。
正直、どこかで見たことがある気がしました。
近づいた時。
目が、合った気がしました。
嫌な感じがして、すぐに出ようとしました。
玄関に向かって、歩き出したとき。
背後から、声がしました。
静かな声でした。
はっきり聞こえました。
「もう 覚えましたからね」
振り返りませんでした。
その部屋は、今でも誰も住んでいません。
──
この証言から数ヶ月後、
その管理人より、またその部屋に入ったと連絡があった。
後日、話を聞く予定である。
コメント
2件
面白かったです! 続き、気になります……楽しみにしています!