コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
苦しい。
息ができない。
気持ち悪い。
寒い。
様々な感情が入り交じって、頭の中がぐちゃぐちゃで訳が分からない。頭蓋骨を直接ハンマーで殴られているような酷い頭痛で、考え事もままならない。
「…ッぅ、え」
今まで沢山の二日酔いを経験してきたおかげで吐くことにはとっくの昔に慣れていた。体に溜まった異物を吐き出そうと、胃が勝手に痙攣を始める不快感。とにかくこの気持ち悪さから逃れたくて、慌てて便器に顔を突っ込んだ。
びしゃ、と口から出たのは無色透明の水。吐き気と頭痛の軽減のためにさっき飲んだはずの水が、そのまま出てきていた。無理矢理吐き出したせいで、胃がひっくり返ったような鈍い痛みが強くなる。ついには足が震えて体を支えなくなり、痛むお腹を抑えて冷たいタイルの床に座り込んだ。
まるで人間水上置換法だな、と心の中で思った。遠い昔に理科の授業で習った知識が今出てくるなんて。これが走馬灯なんだろうか、と本気で思ったりした。
「……さむい、」
どうしようもなく寒い。身体中が寒くてガタガタ震えている。暖房の温度は29℃ 風量は最強のはず。一人暮らしの安い賃貸の部屋なら、トイレに居ても暖房の風はいやでも入ってくる。だというのに、寒くて寒くてたまらない。体の震えが止まらない。
「…つかれた。」
ぽつりと漏れた独り言は、吐き続けた後遺症でガラガラに枯れていた。もう6時間も吐き続けている。死ぬことを決意したのが夜の0時。そこから気持ち悪さから吐いてしまい、ろくに意識も失えず、ただただ吐き続ける地獄のような時間を過ごしている。もう窓の外は薄明るくなっていて、壁に掛けられた時計の針は6時を指していた。
苦しくて、気持ち悪くて、助けて欲しかった。どうしようもなく孤独だった。頼れる恋人も、友達も、今の私にはいなかった。
そう、疲れたのだ。
人生に、疲れた。もう20年も生きた。辛いことばかりの人生で、それでも生にしがみついて泥臭く生きてきた。小学校5年生の時、人生の選択肢に「死」を入れてからずっと、死ぬことばかりを考えて生きてきた。
それなりの高校に行き、それなりの大学に入って、それなりの成績を収めて、親孝行も十分したつもりだった。
だからもう、死んでもいいと思ったのだ。
入念に市販薬の致死量やODによる死亡例を調べた。
最寄りのドラッグストアで、カフェイン剤1箱と、ストロング系酎ハイのロング缶を2本買った。
錠剤は思っていたよりも大きかった。飲む瞬間にやっぱり怖気付いてしまい、ロング缶の1本を一気に流し込んだ。酒の勢いに任せてしまえば、ちゃんと意識を失って眠るように死ねると思った。
残りの1本で、カフェイン剤2箱を流し込んだ。
多分、泣いていたと思う。
それなのに
「…こわい。」
今は死ぬ事が、こんなにも怖い。
三浦葵(仮名)。20歳。大学2年生。
人生初めての自殺未遂(OD)、失敗。