テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
第30話、読み終わりました!浴衣姿で出迎えるシズカちゃんの可愛さにまず胸がときめきました…。七夕飾りを一緒に作るシーン、お互いの短冊に書かれた願い事の対比が本当に素敵で。天利さんの「シズちゃんが明日も笑っていられますように」という願い、切なくて優しくてじんわりきました。ラストの黒い短冊の真相、まさかの推し漫画新刊祈願で思わず笑顔に。シズカちゃんらしい愛らしいオチにほっこりしました🌷
数日後、マンションに帰るとシズちゃんは浴衣姿で出迎えてくれた。
シズカ「おかえりなさいませ」
天利「ただいま。
その浴衣どうしたの?」
シズカ「うふふ」
照れたように恥ずかしそうに笑いながら、その場でゆるりと1回転する。
黒い薔薇の模様の真紅の浴衣と黒と赤の帯。
まるで、俺が普段着ているスーツのような色合い……。
シズカ「外出先でたまたま見かけて衝動買いしてしまって……。
今日、こちらにお戻りになるとご連絡いただいたので、お見せしようと急いで着替えたんです」
天利「そっか……似合ってるよ」
シズカ「ありがとうございます」
ダイニングテーブルには多種多様な折り紙と
折り紙製のオーナメント、折り鶴が散らばっている。
シズカ「あ、それ、七夕飾りを作ってたんですよ。
雑貨屋さん、百均、その他扱っていそうなお店ハシゴしてみたんですけど時期が時期なので全滅で……。
ないなら作るしかないと折り紙買ってきたんです!」
天利「なるほどね……」
差し出された麦茶を飲みながら1つ手に取る。
天利「器用だね〜」
趣味の編み物で培われた手先の器用さがここでも発揮されているようだ。
天利「俺も何か作ろうかな?
不器用だから、超初心者向けの物だけど」
俺はダイニングチェアに腰を下ろし、折り紙を手に取る。
シズカ「では、私も……。
次は何を作りましょうか……」
俺は慣れない手つきで折り紙を4等分に折り、ハサミを入れる。
シズカ「七夕というのは元来、機織りや裁縫、手芸の上達を願う行事で、
そこから転じて、勉学や書道の腕前を上げるためのものに」
天利「……なるほどね。
じゃあ、俺も『技術向上』を願わないとね」
シズカ「何の技術ですの?」
天利「(人間を捌く技術じゃなくて、こういう紙を切る技術が上がるのを願う日が来るとはね……)」
天利「……できた」
シズカ「網飾りですね。素敵です。
網飾りは豊漁、食べ物に困らないように。
『幸運をかき集める』という意味もあるんですよ」
天利「へぇ〜……幸運……ね……」
俺の幸運は、シズちゃんと出会えた時に使い果たしてるだろうし、俺みたいな男がこれ以上の幸せを望むなんて、おこがましいにも程がある……。
だからこれは、シズちゃんの幸運を願って……だ……。
天利「(……俺のこの手で、彼女の幸せをすくい上げられるなら、悪くない)」
数時間後。
天利「……できた」
シズカ「ふふ、素敵ですわ」
2人で作った多種多様な七夕飾りが飾られた笹がリビングダイニングに鎮座する。
シズカ「では、短冊を書きましょうか」
俺はシズちゃんが用意してくれた短冊に
『シズちゃんが、明日も笑っていられますように』
『この城の平穏が、1日でも長く続きますように』
『いつか、堂々と彼女の手を引いて歩ける日が来ますように』
『シズちゃんが健康でありますように』
『敵対組織の瓦解(再起不能)』
としたためた。
天利「……。よし、完璧だ。
技術向上としては『敵を効率よく潰す技術』ってことで!」
シズカ「非常に天利さんらしい願い事ですわね。
……しかしこれ、彦星様もびっくりして天の川から落ちてしまいますわよ」
一方、シズちゃんは
『天利さんの胃腸が、健やかでありますように』
『家内安全・無病息災』
『来年の今夜も、お隣にいてもよろしいでしょうか』
nappa
762
nappa
65
と短冊にしたためていた。
シズちゃんらしい願い事と可愛らしいカミングアウトに思わず顔が綻ぶ。
天利「……ん?これは?」
シズカ「見ちゃダメですわ! 」
裏返しに置かれたままの黒い短冊を手に取ろうとするとシズちゃんは慌てて隠す。
シズカ「願い事は、人に見せると叶わなくなりますのよ! 」
天利「ご、ごめん……本当に見てないよ。
文字が小さすぎて『黒』っていう不穏な一文字以外は見えなかったし……」
シズカ「やっぱりそこは見てるじゃないですか!!」
彼女は唇を尖らせ金魚のように頬を膨らませ上目遣いで睨んでくる。
天利「ああ……。
見ない!見ないから!」
慌ててそう言ったものの、プイッと顔を背けそのまま書斎へと逃げてしまう。
天利「シズちゃ〜ん!出てきてよ〜!
ごめんて〜!」
慌てて追いかけるが応答はない。
天利「(あれは怒ってるの?それとも怒ってるフリ?
もしかして駆け引きを仕掛けてるつもりなのか?
いずれにしろ可愛いけど、本気で怒ってる場合ヤバいし短冊に書かれた『黒』の文字が気になりすぎる……。
まさか、俺が黒い世界の人間だから、何か悪いことが起きるのを予感してるのか……?)」
天利「シズちゃん……『黒』って、俺の稼業が嫌になったとか、そういう意味じゃないよね?」
─── ───
その日の深夜、天利が寝静まったのを見計らい、シズカは忍び足でリビングダイニングへ戻る。
そして、椅子によじ登り、月明かりに照らされた笹の、最も高く、かつ天利の目からは決して届かないであろう枝の根元にむかって145cmの体を目いっぱい背伸びさせ、その『黒』を裏返しに、神への祈りを込めて固く、固く結びつけたのだった。
シズカが必死に隠した、その『不吉な色』の真相。
そこに記されていたのは、世界の理(ことわり)でも組織の陰謀でもなく、彼女の魂の叫び、購読している漫画雑誌と推している漫画作品『「〇ファン」の来月号と「黒い執事」と「妖怪先生」の新刊が無事に発売されますように!』だった。