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翌朝。俺がリビングに行くと、シズちゃんはいつも通り、身支度を整えた状態でキッチンを右往左往していた。
シズカ「あっ、おはようございます。
天利さん、全粒粉パン苦手ではないですか?
苦手でしたら他の物を……」
天利「おはよう。苦手じゃないよ。
あんま食わないから正直よくわからないけど……シズちゃんが『美味しい』と思って作ってくれたものなら、俺はそれが1番嬉しいよ」
シズカ「もし、お口に合わなかったらおっしゃってくださいね?
厚さはどうしますか?」
天利「シズちゃんのオススメで。
……昨日はごめんね、短冊見ようとして」
シズカ「えっ!?いえ……あの……怒っていませんよ……。
ただ……その……天利さんの反応が見たくて……。
拗ねたフリで、天利さんの気を引こうだなんて……!」
普段の凛とした雰囲気と威勢の良さはどこへやら、もごもごと口篭りながらモジモジしてる。
シズカ「そもそも隠すようなことでもないですし……。
ただ……その……恥ずかしいというか……。
知られたら天利さんに幻滅されそうというか……。
だからその……私の方こそ、ごめんなさい」
天利「ああ、謝らなくていいよ。
そっか……フリか……良かった……」
シズカ「……」
天利「俺の気を引きたかったのか〜。
可愛いな〜シズちゃ〜ん。
大丈夫だよ、シズちゃんが俺に幻滅する事はあっても、俺がシズちゃんに幻滅することはないよ?」
シズカ「……そんなのわからないじゃないですか」
天利「わかるよ。
俺はあの時……シズちゃんが俺の毒を飲み干すと言ってくれた時……すごく……。
……いやなんでもない。
誰しも知られたくないことはあるし無理に言わなくていいよ。
俺もシズちゃんに言えない事とか結構あるしね。
あ、でも、本当に嫌な事とか俺に腹が立つ事があったら我慢せずその場では言って欲しい」
シズカ「……かしこまりました」
〜本日の朝食〜
・全粒粉のトースト(少量のオリーブオイルと岩塩かヨーグルトを乗せて)
・ギリシャヨーグルト(カットバナナ、ナッツ、冷凍フルーツ各種、はちみつなどをご自由にトッピングスタイル)
・ブラックコーヒー
シズカ「名付けて『手抜きでごめんなさい!』セットです」
天利「これ手抜きなの?
ヨーグルトにトッピングがある時点で全然手抜き感ないよ」
シズカ「実は昨夜、夜更かししちゃって、寝坊してしまって……。
バナナと全粒粉パン切り、パンをトースターに投入する以外、一切調理的なことしてません!」
天利「切って焼くだけでも充分調理だよ!
いつもありがとうね」
シズカ「あっ、天利さんご覧下さい!
デーツがニコイチになってました!」
天利「ニコイチ……?ああ、車を繋ぎ合わせるやつ?」
シズカ「車?いえ、デーツが2つくっついていて……」
天利「あ、本当だ……」
天利「(俺達みたいだな……)」
シズカ「おひとつ差し上げますね」
天利「あーうん、ありがとうありがとう。
……ん、甘いね」
シズカ「デーツはカリウムや食物繊維が豊富で、天然のキャンディと呼ばれているんですのよ。
天利さんの胃腸にも優しいはずですわ」
天利「(昨日、俺が短冊に不穏なことを書いたから、気を使って洋風の明るい朝食にしてくれたのかな?」
俺は巨大な笹を見上げ「(あの黒い色は、俺の歩いてきた血塗られた道への警告か……それとも『黒塗り』とか『黒星』を予感してるのか……?)」と遠い目をした。
シズカ「(劇場版『黒い執事 カンパニア号編』見直すんじゃなかった!!
お金ないのに豪華客船クルーズへの憧れが再熱したし、寝坊したし、口が洋食の口になっちゃったし!!
まぁ、伯爵さまは全粒粉パン食べないだろうけど!!
あー!!ヌン活したい!!クロテッドクリームとジャムたっぷりのスコーンと紅茶のマリアージュを味わいたい!!)」
天利「(全粒粉……噛みごたえがあるな。
まるで、これから来るであろう苦難を噛み締めているようだ……。
あと、普通にバターかマーガリン塗って食いたいな……。
でもシズちゃんは健康のために避けてるんだろうし、俺も彼女の健康志向に合わせなきゃな……)」
シズカ「やはり、全粒粉パンはお口に合いませんか?
それとも何か……あっ!バターかマーガリンの方がいいですよね……?」
天利「いや、食べ応えあるなぁって思ってるだけだよ。
バターやマーガリンもいいけど、こういう食べ方も新鮮だしさ。
個人的にはオリーブオイルと岩塩よりフルーツとヨーグルトを乗せた方が好きかも……」
シズカ「無理は禁物ですわ。
次にいらっしゃるまでにご用意しておきますね。
バターとマーガリンどっちがお好きですか?」
天利「大丈夫だって!そんな俺に気を使わないでいいよ。
っていうか生活費足りてる?必要な物もあったら手配するから遠慮なく言ってね」
シズカ「充分すぎるくらい足りてますよ!
むしろちょっと贅沢させていただいてます!」
天利「それが普通になるくらい贅沢になって欲しいな。
俺の我儘でここに住んでもらってるようなモンなんだからさ……」
シズカ「もう天利さんという最大の贅沢をいただいていますもの。
充分です」
突然の殺し文句に俺はパンを喉に詰まらせそうになった。
シズカ「大丈夫ですか?」
天利「……大丈夫大丈夫」
シズカ「贅沢といえば天利さん。
いつか、大きな船に乗って旅をしてみたくありません?」
天利「……!?」
天利「(……高飛びの相談か?
あるいは逃亡生活への覚悟か!?)」
天利「……ああ、必ず連れて行くよ。
俺が刺されても、君だけは救命ボートに乗せる」
シズカ「なんで天利さんが刺されるんです?!!
え?タイタニックにそんなシーンありましたっけ?
……もしかして、部屋の中覗きました?」
天利「えっ!?覗いてない覗いてない!!
あの部屋はシズちゃんの聖域だから、家具搬入後のチェック以降は入ってないし見てない!!」
俺がそういうとシズちゃんはホッと胸を撫で下ろしたが、次の瞬間にはキリッとした目をさらに釣り上げて俺を睨む。
シズカ「天利さんが刺されるなんて不吉なこと言わないでください!
今度は本当に拗ねますよ!」
天利「ごめんごめん」
シズカ「昨日、豪華客船を舞台にした映画を見てて、私も優雅なクルーズに行きたいな〜海を見ながらアフタヌーンティーしたいな〜天利さんと行けたらな〜って思っただけですよ」
天利「タイタニック?」
シズカ「notタイタニック。
あれは逆に豪華客船に乗るのが怖くなるかと……」
その後、シズちゃんを職場近くまで送り届けた俺は「シズちゃんが望むなら、いつでも高飛びできるよう準備を急がねば……」と下調べを始めた。
シズカ「(いつか天利さんと豪華客船でヌン茶する日のために、もっと自分を磨かなきゃ!
どうせなら服と靴も新調して……あっ、スーツケース買わなきゃ!
……って!!気が早ーい!!)」
コメント
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ああ、このエピソード、すごく良かったです。朝食のやり取りからふたりの距離感がじわじわ縮まってるのが伝わってきて、胸が温かくなりました。特にシズカちゃんが「拗ねたフリでした」って素直に認めるシーン、可愛すぎてにやけましたね。天利さんの「俺が幻滅することはない」って言葉も、誠実さが滲んでて好きです。 あと、ふたりの脳内が全然違う方向に飛んでるのが面白い。天利さんは「高飛びの準備」、シズカちゃんは「ヌン活とスーツケース」……このすれ違い、微笑ましいですよね。デーツの「ニコイチ」も、思わず「俺達みたいだな」ってなる気持ち、わかります。