痛い
鼻や目に染みるような痛みを感じる。前がよく見えない。自然と涙が出て、声にならない叫びをあげた。暗闇の中に大きな赤い塊が歪な音を立てた。建物を焼き尽くす炎がこちらを威嚇する。最早前の面影はない。
「 」
何度も叫んだ。煙を吸って喉が詰まる。
叫んだ。叫んだ。叫んだ。叫んだ。叫んだ。叫んだ。叫んだ。叫んだ。
怖いくらいの快晴と優しさを隠した風が頬を撫でた。ベットから体を起こして横を見た。
女性かと見間違うような顔立ちで、全てを見透かすような漆黒の瞳、はたまた何にも興味が無いような哀しい眼を見つけた。
「ロロ。」
さっきまでの黒い泉に光が反射した。
「ルツ!!」
無邪気な笑顔がこちらに近づいた。
「おはよう!」
「うん。おはよう。」
寝巻きから仕事の服に腕を通し、ロロが作ってくれたサンドイッチを食べた。
「美味しい?」
「うん。美味しい。」
満足そうな顔に笑みが溢れた。
ルツ、俺をそう呼ぶのは彼だけだ。
本当の名はカルツェル。今考えても変な呼び方だ。でもシクロロの事をロロと呼ぶ俺も同じ感性なのだろうか。
シクロロは物心ついた時からの友人、いや家族と言っていい。孤児だった俺を引き取ってくれたロロと先生と呼ばれる男性の元で6年間過ごした日々はかけがえのない思い出だった。
二十歳になった俺達はある株式会社で住み込みで働いていた。
「大丈夫?ルツ、何か元気ないよ?」
「えっ?」
驚いた。ロロはいつも俺の異変に気づいてくれる。
「大丈夫だよ。少し眠いだけ。」
怠い体を伸ばして言った。
「そう?無理しないでね。」
「ありがとう。」
開けていた窓から風が吹いた。
ロロの真っ黒な髪がたなびく。
「いこっか。」
促されるままドアに手をかけた。
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