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高村鈴子は12歳で天蓋孤独になった
ある晩、阪神一帯を揺るがす大地震がおきた夜・・・
実の父を兄が猟銃で撃った
父は即死
そして兄はその場で心臓発作で亡くなった
いずれも鈴子はなぜあの優しい父と兄が殺し合ったのか・・・その原因は分かっていた
あの女のせいだ
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高村鈴子が幼い日の体験でよく思い出すのは、 父親の経営する金型工場へ連れていかれた出来事だった
小学校の体育館10個分のその巨大工場はあちこちに削った鉄くずが散乱していた、どこへ行っても工業用油の匂いがし、父親の隆二は社員食堂に鈴子を連れて行き、カウンターの高い椅子の一つに座らせてから、自分には大きなカップのコーヒーと娘にはオレンジジュースを注文した、集まって来た父に雇われた金型職人達はこぞって鈴子を褒めそやした
「おやおや、どこの王女様のおでましかな」
「可愛らしいねぇ、社長に似てますやん」
「いや、お母さんも美人なんだろう」
娘の可愛らしさを従業員に褒められた時の父の誇らし気な顔を、鈴子は今でもはっきり覚えているその時寄り集まった人達の飲み物代は父のおごりになった
しかし嬉しそうに娘を自慢する父と裏腹に、鈴子は自分の腕を懸命に父親の腕に回し、父が少しでも離れないように祈り続けていたのだった
なぜなら、父は昨夜、帰国したばかりなのに、すぐにまた中国の父の所有する工場に出かけるのを知っていたからだ
「発展途上国で金型を作る方が、安くて沢山出来るんだ、彼らに技術を教えてやれる人間が必要だ、何か月も家を空け、お母さんやお前に寂しい思いをさせるのも、お前達に良い暮らしをさせてあげたいためなんだよ」
父親はよく鈴子にそう言って聞かせていた
「私、良い暮らしなんかいらないから他の家のお父さんみたいに、パパに家にいて欲しい」
鈴子は真剣になって父親と取引しようとしたが、父は笑うだけだった
「お前は本当に可愛い子だね、鈴子」
父親は鈴子のアゴの下を軽くこちょこちょして言った
「お父さんは、毎日お前のことを考えているからね」
そう言い残して父はまた外国に行ってしまうのだった、そして帰って来るのは三か月後だった
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