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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「えーー!な、なんですかっ!嘘でしょおおお!!!」


と、実に都合良く、紗奈《さな》が、戻って来た。息を切らしているのは、守恵子《もりえこ》のことを聞いて、廊下を駆けて来たからだろう。


「な、なんで、この一大事に、守近様は、沓《くつ》を履いたままで、それに、斉時《なりとき》様までいるんですか!」


「おー、紗奈、久しぶりだなぁ」


愛想を振りまく斉時など、無視して、紗奈は、守恵子が寝かされている座所へ駆け寄った。


「おーい、紗奈よー!お前と俺の仲じゃねーか!つれないなあー」


「あなた様など、知りませぬ!」


えっ、と、紗奈の冷えた返答に、斉時は、どう対応したら良いのかと、辺りを見回す。


「そうです。おまえ様、私も、このお方とは、まるっきり関係ございませぬゆえに、ご安心あそばせ」


橘が、肩を怒らせ、動揺しきっている髭モジャへ、語りかけるとニッコリ笑った。


「……そ、そうじゃ、そうじゃのぉ、女房殿よ、女房殿とは、な、何も関係ない、そうじゃ、そうじゃっ……」


そうじゃっ、そうじゃっと、髭モジャは、呪文のように、唱えつつ、己を落ち着かせようとし始める。


「あれは、なんなんですか?」


柱の影で、若人タマが、童子、晴康《はるやす》に問うた。


「うん、あれは、と、言いたいところだけど、私も大納言家の内側までは詳しく知らないんでねぇ、なんだろう?」


「だから」


常春《つねはる》が、変わりに答える。


「あっ!常春様!お気づきになりましたか!」


いや、まいった。うっかり、失態を晒してしまって、と、いいつつも、斉時様がいるのかあ、と、ささっと、さらに、奥へと身を隠しながら、昔の因縁って、やつかなぁ。と、ぼやいた。


「なんだか、余計、わかんないんですけど?」


不思議がる、若人タマへ、常春は言った。


「ああ、だからね、橘様は、髭モジャ殿と出会う前は、女房職だった訳で、もちろん、お若かったから、お屋敷を訪ねて来るお客人の引く手あまた、だったんだよ。で、斉時様も、泊まりの時は、橘様を、召されていてね……、私も紗奈も、まだ、子どもだったから、当時は、意味がわからなかったんだけど……」


「なぁるほど、橘様が、実権を握られているのは、召人《めしゅうど》だったからか……」


晴康は、見かけの童子らしくない、呟きを漏らす。


「え?なんですか?召人って?」


若人タマが、分からぬと、首をひねっている。


「あー、タマには、難しいかなー男と女の世界の話だからねー」


「なんですかーー、晴康様、タマだって、めおとに、なったんですから、それぐらい、わかりますってーー!」


ふふふと、意味深に、若人タマは笑うと、そうだったんだーと、どこまで理解しているのか、頷いている。


「えっ、タマ、っていうか、若人、って、言うか、タマなんだろけど、めおと、って、それは、夫婦って、ことだろう?タマ?!」


常春が、まだ、少し、ぼんやりしつつも、タマの言い分に、反応し、呆然としている。


それは、童子晴康も、同じくで、


「えーー!タマ!ちょっと、夫婦って、どうゆうことだよーーー!!!」


と、大きく叫んだ。


「あら、まあ、そんなところに、隠れて」


何故か、童子の叫びに、徳子《なりこ》が、気がついた。


「ありゃ?!なぜに?いつも、まあ、そうですの?と、鈍な返事をなさるお方が、今に限って、なぜに?なぜに?というか、童子が、なぜに?」


「……斉時よ」


いきなり、守近は、沓を脱ぎ、竹馬の友の胸ぐらを掴むと、空いた手で掴んだ沓を、斉時の頭へ振り落とした。


コンと小気味好《こぎみよ》い音がする。


「あっ、頭、ゴンだ。あれ、けっこー痛いんですよねー」


と、言うタマは、若人から、犬の姿へ戻っていた。


「タマ、持久力が、短くなってるぞ?」


タマを抱き上げながら、童子は言った。


「うーん、多分、晴康様のお力が……」


「そうだねぇ、童子、ということは、大人より、力が足りないってことだよね」


「……じゃあ、やっぱり、その、童子は、晴康ということ……」


柱の影で、常春達が、こそこそしている間も、守近は、さらに、沓を、斉時の頭めがけて、振り下ろしていた。


「よくも!お前は!その、口で!!!徳子姫のことを、侮辱しおってからにっ!!!」


せまる守近から逃れようと、斉時は、手で、沓を振り払い必死になっている。


そんな、二人の姿に、困惑する者がいた。


先程から、縁で控えている、若者だった。


「あれ?薬院《やくいん》様?!」


守恵子の枕元で、紗奈が言う。


「あっ、薬院殿、いかがなされました?!」


常春が、柱の影から飛び出して、若者の元へ駆け寄るが、


「紗奈!!!どうゆうことだーーー!!!も、守恵子様がっーーーー!!!」


座所で、横になる守恵子の姿に、常春は驚いた。


「あっ、姫君は、池ヘ落ちられ、わたくしが、お助けしたのです」


紗奈とも常春とも、顔見知りのような若者は、そわそわしながら、言った。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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