テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『せっかく買ってくれたんだろ。じゃあ、もらう』
私はうなづいた。
リビングのローテーブルに両手をついて立ち上がって、冷蔵庫に向かった。
ビールを出して、グラスに移そうとしたら、
『いい、そのままで』
そう言われ、私は缶のままよく冷えたビールを本宮さんに手渡した。
『いただきます』
プルトップを開けて、本宮さんは美味しそうにゴクゴク飲んだ。
さっき帰りにスーパーで買ったお弁当を温め、2人で食べた。
いつもは1人なのに、今日は2人。
しかも…恋愛映画やドラマで主演をはれそうなくらいのイケメンが…
すぐ目の前にいるんだ…
本宮さんは、ようやく上の服も着てくれた。
でも、お風呂上がりの男性に冷えたビールを手渡しする感じって…
これって…まるで夫婦みたいなやり取りだよね…
お父さんとお母さんがいつもしてた。
『じゃあ、私もお風呂入ってきます…あの…スッピンになりますけど…引かないで下さいね』
そう、これが一番嫌だった。
『気にするな。そんなこと』
また…
だから、気にするなって言われても…気にしちゃうんだって…
『恭香は…恭香だから』
『そんなこと言いますけど…自分がカッコイイから、そうじゃない私の気持ちなんてわからないんですよ』
ちょっと言い返してしまった。
『俺って、カッコイイの?』
私は必死に言ったのに、本宮さんはニヤリと笑う。
私が、黙ってうろたえてたら、
『俺は普通の男だ。カッコイイって…嶋津君みたいな男性を言うんじゃないのか?』
普通って…
あなたが普通なら世の中の他の男はどうなるの?
本宮さんの感覚、おかしいよ…
それに、一弥先輩の名前を出すなんて…
そりゃあ眼鏡の良く似合うかなりのイケメンだけど…
それについては今は触れたくないんだ…
まあ、いろいろ考えても仕方ない。
『と、とにかく、お風呂入ってきます』
私は、逃げるようにお風呂場に走った。
自分の部屋なのにさっきから全然落ち着かないよ。
ちょっと疲れる…
私は、洋服を脱いでお湯に浸かった…
本宮さんが入った残り湯。
お父さん以外の男性の後のお風呂なんて、入ったことないけど…
本当に…
嫌悪感は無かった。
わざわざ入れ替えるのももったいないし…
このままでいいか…
私は少し長めに入浴した後、お風呂から上がって鏡を見た。
うわ…
スッピン…このまま本宮さんに見せるなんて…
何だか…憂鬱。
菜々子先輩や梨花ちゃんなら、そんなこと気にしなくても全然平気なんだろうな。
美人や可愛い女性は得だ。
う~ん、せめて化粧したいけど…
それは嫌だし…
とにかく、美容液、化粧水などいつものように保湿をした。
髪を乾かして、とりあえず準備は出来たけど…
今まで男性に素顔を見せたことなんてなかったから、しばらく躊躇した。
いつまでも悩んでたって仕方ないか…
私は、いよいよ決意した。
よし!って、自分に気合いを入れて…
本宮さんのいるリビングに、深呼吸してから向かった。
壁にもたれ、さっきと同じ場所に座って、携帯を見てる本宮さん。
私に気づいてサッと顔をあげた。
ドキドキする…
出来ることなら見ないで欲しい。
思わず、下唇を噛んで下を向いてしまった。