皆さんこんにちは!こうちゃです。
ヒーロードの続編になります。注意事項に関しましては前編をご覧下さい。
前編でも書きましたがかなり甘めになってます…ヒーローもロードもすっごく素直です。バチバチしてる2人はいません。一応恋人未満として書いてますが、見方によっては恋人なので苦手な方お気をつけください…!
トントンと肩を叩かれる感覚で目が覚める。
「……っん…ぅ…?」
「ロード、着いたぞ」
ヒーローは既に荷物を持ってタクシーを降りて、ドアを開けてくれていた。熱で蕩けた頭で何とかヒーローの言葉を噛み砕く。
「立てる?」
「……っぁ…あぁ…」
シートベルトを外し、グッと全身に力を入れる。しかし、危惧していた通り1度座って力が抜けきってしまった身体では思うように動かなかった。
「……はぁっ…はぁ…ふ…っぅ…」
「……ロード、ちょっと我慢して」
立ち上がるのに苦戦していると、ヒーローが荷物を背負い直してそう言った。困惑していると、ヒーローの手が俺の足の下と背中に添えられる。
「……えっ…は…ちょ…?」
状況が飲み込めずに固まっていると、ふわりと宙に浮く感覚があった。驚いて下を見ると、俺の身体は地面から遠く離れて浮いていた。
「Thanks!!助かったよ」
ヒーローがそうお礼を言うと運転手は微笑ましそうに笑ってタクシーを走らせた。熱で回らない頭で必死に今の状況を考える。これは、ひょっとして、もしかして…俗に言うお姫様抱っこというものではないか…!?
「やっ…やだっ…おろせよっ…!」
先程の運転手の生暖かい視線を思い出してカッと顔が熱くなる。恥ずかしくて情けなくて、必死に降りようともがいた。
「……君、自分がどういう状況かわかってる?」
冷たく鋭い声に身体が強ばる。恐る恐る見上げると、怒りをたたえた静かな瞳とかち合った。
「頼むから、大人しくしててくれないか」
いつもの明るい彼とは全く違う低い声でそう制されてしまえば黙っているしか無かった。
ヒーローの自宅を訪れるのは久しぶりで、少し増えていた家具や置物を眺める。その間もずっと彼は無言で、なんだか怒ってるみたいだった。それもそうだろう。これ程迷惑をかけられたならば、怒りたくもなる。それに行きたい場所があるって言ってたのに、俺が寝こけてたせいで行きそびれてしまったに違いない。俺なんてほっておけばいいのに、ヒーローは優しいから自宅に連れ込んで、今もこうしてソファに寝かせてくれた。俺の方が年上なのにこんなに面倒を見させてしまって、不甲斐なくて唇を噛む。
「……ひ、ひーろー…っその、ごめんな…?」
「…君のそれは何に対してのごめんなんだい?」
「えとっ…はぁっ、その、めいわく、かけたからっ…っ…」
「……そう、君はなんにもわかってないね」
ヒーローはそれだけ言って俺に背を向けた。彼の酷く冷たい声に、胸が押しつぶされそうな痛みを感じた。
「…まっ…まって…っ…かんがえるから、だから…じかんを、くれ…!」
ズキズキと痛む頭で必死に解決策を出そうと躍起になる。…が、熱で蕩けきってしまった頭では良い解決策なんて出るはずもなく。ヒーローは俺の声に全く耳を貸さず、部屋の扉へとどんどん歩いて行ってしまう。それが、どうしても嫌で…悲しくて苦しかった。ヒーローに嫌われてしまうことが、何より怖かった。
「…っひ、ろー…おねがっ…げほっ…まって…!」
手を伸ばし、ヒーローに近づこうと身体を起こした瞬間だった。力の入らない腕では到底自分の身体を支えることなんてできず、カクンッと前に倒れる。やばい、と思った時にはもう遅かった。気づけば冷たい床の上にいて、同時に強かにぶつけた肩に鋭い痛みが襲ってきた。
「…ぅ…はぁっ…い、た…っ…」
「何やってるんだい!?ロード!!」
視界の端でヒーローが慌てて走ってくるのが見えて、ほっと息をつく。
「…げほっけほ…ひ、ろー…」
ソファから落ちた衝撃からか、咳が酷くて上手く声が出ない。ヒーローが顔を辛そうに歪めて、俺を抱き起こして背中を撫でてくれる。そのお陰で少しずつ咳が収まり、段々と呼吸がしやすくなってきた。
「…ごめっ…ごめ、ん……」
きっと俺に迷惑かけられて、それが嫌で、だからヒーローは怒っていたんだろう。申し訳なくて、謝罪の言葉ばかりが口からこぼれ落ちる。
「…いや…その、ごめん…俺も悪かったよ」
「…なんでっ…?ひーろーは、悪くないだろ…俺がっ…」
「違う…そうじゃ、なくて…」
いつもはっきりと物を言うヒーローが珍しく視線を泳がせて口ごもる。熱で茹だって使い物にならない頭を必死に持ち上げると、ヒーローはやっと俺の目を見た。
「今日、いつから具合が悪かったんだい?」
「……ぇ、と…それはっ…」
「朝からだろう?遅れてきたのもそのせいだよね?」
もう流石に誤魔化しが聞かないため素直に頷く。ヒーローは眉間に皺を寄せたあと、静かに1つため息をついた。
「……なんで、言ってくれなかったんだい」
「……そ、れは…」
「…俺は、そんなに頼りない…?」
ヒーローは悔しそうに唇を噛んで俯く。それが痛々しくて、辛そうで…俺は慌てて首を振った。
「ちが、うんだ…おれは…めい…わく、かけたくなくて…」
「迷惑くらい、かけてくれよ」
「……っご、めん…」
「……君が…謝らないでくれよ…」
そう言いながらヒーローはそっと俺を抱き上げたあと、さっきと同じように優しくソファに寝かせてくれた。
「俺は…ロードの体調に気づけなかったことが悔しいんだよ…それに苛立って…君を傷つけた…本当、ヒーロー失格さ」
「…そ、んなこと……」
「…ロード」
ヒーローの大きな手が俺の頭を包み込む。さっきからじくじくと蝕んでいた頭の痛みが、それだけで大分楽になった。
「俺のこと、少しは頼って欲しいんだぞ…もう子供じゃないんだ。俺は君を抱きかかえて運ぶことだってできるんだぞ」
じわりと俺の目の端に滲んだ生理的な涙を、ヒーローはその人差し指でそっと拭った。こくりと素直に頷くと、ヒーローは満足したのかいつもの調子に戻って微笑んだ。
「君ももう若くないんだし、身体には気をつけてくれよ」
「…っばかぁ……」
「君、もう眠いんだろう?ほとんど目が開いてないぞ」
くすくすと笑うヒーローを睨むが、あまり効果はなかったようでより笑われてしまった。まだ起きていたいのに身体は正直なもので、強く疲労を訴えてくる。まどろみの中で、ふとタクシーに乗る前の会話を思い出してヒーローの袖を掴む。
「おま、え…いきたいところは…?」
「ん?あぁ、あれは嘘だぞ。ああでも言わないと君は休まないだろう?」
「…いえ…で…」
「君、自分の家だとちゃんと寝ないじゃないか。強制的にうちでこうして寝かせるのが確実なんだぞ」
何も言い返せなくて黙っていると、ヒーローは俺の頬を両手で包み込む。その手がひんやりと冷たくて気持ちよかった。
「ほら、お話してないで早く寝るんだぞ」
ヒーローの片手がさっきのタクシーのときと同じように、俺の両目をすっぽりと覆う。
「Good night.ロード」
ヒーローのその優しい声を聞いて、俺の意識は夢の中へと沈んで行った。
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