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君の瞳の中のガラスには一体何が映っているんだろう。
「うははっ!まじやばいんだけど!わら」
隣で楽しそうに笑う瞳を見つめる。
長いまつ毛に縁取られてる瞳は、本当にガラスみたいに見える。
その瞳の先にいるのは、俺じゃないのかもしれない。
もし本当にそうなら俺は、瞳の先にあるものを砕いてしまいそうだ。
その相手が誰であろうと、俺はそれが許せない。
「照!これやばくない?!わら」
「ん?どれ?」
「何だよ、聞いてなかったの〜?」
笑いながら腕の裾を引いてくる。
…….やっと、俺だけのことを見てくれた。
ふっかと付き合ってから2年ちょいが経つ。
俺は嫉妬深くて重い男だっていうことをちゃんとわかってる。
そのことについてふっかはもちろん、みんなわかってくれてる。
告白は俺からだった。
戸惑いながらも、ふっかの答えはOKだった。
晴れて恋人になったことを、メンバーには伝えてない。
佐久間とか康二がうっかり言っちゃう可能性とかもあるからね。
でも、何となく勘づいてるのはいるんだろうな、なんて思う。
幸せだった。
ずっとふっかが好きだったから、ふっかも同じ気持ちだってことを知れて本当に嬉しかったんだ。
ふっかがすごく大切で、俺がふっかを幸せにするんだって。
ふっかはよく照なら守ってくれるって言ってくれる。
その通りだよ、俺がふっかのこと守るよ。
ふっかと付き合った後、大きく関係性が変わることはなかった。
周りから見てもいつも通り、ずっと近くにいるわけではないけど隣にいるのが当たり前な2人だった。
最初はちょっとだけ不満ではあったけど、それでもよかった。
だって、そっちの方が2人きりになった時にふっかを独占できる優越感が増すじゃん。
でも、俺の独占欲は恐ろしいくらい強いものだった。
理解はしてるけど止められない。
ふっかが誰かと楽しそうに話してるのを見ると腹の奥が煮えたつような感覚がする。
俺以外を見ているのが嫌だ。
俺以外にそんな顔しないで欲しい。
ふっかはみんなから愛されてる。
メンバーはもちろん、同じ事務所の人、共演者、1回だけ会っただけの人すらもふっかの虜になってるんだ。
わかってる、そんなことわかってんだよ…
厄介な性格だってことはわかってる。
俺が1番わかってる。
「………る…?照?大丈夫そ?」
「………ふっか…」
小声でふっかに腕をつつかれる。
そうだった、今はYouTube撮影中だ。
企画で盛り上がるメンバーやスタッフさん、この動画を見る人も気づかないくらいの小声で俺の意識を目の前に戻してくれる。
「うん、大丈夫。ありがとね」
「あんまり抱えんなよ〜」
俺がそう答えると、ふっかも安心したように頬を緩ませた。
ふっかだけが、俺のことに気づいてくれた。
ふっかだけが、俺のことを見ててくれた。
ふっかの視線は、意識は確かに俺だけに向いてた時間。
………そんな時間も、すぐに終わるんだ。
「阿部ちゃん!もうやっちゃってよ!わら」
「行け行け阿部ちゃん!!」
「ちょ、プレッシャーかけんなって!笑」
ふっか、佐久間、阿部を中心に笑い声が広がってる。
……俺だけが、ちゃんと笑えてない。
俺に見せる笑顔とはまた違うふっかがいる。
俺以外に見せる楽しそうな笑顔だ…
知ってるよ、みんなその笑顔に惹かれるんだ。
ずっとそうだ。
いつもそんな顔をするから周りはふっかのことを好きになる。
誰彼構わず、そんな笑顔で甘えてたんでしょ?
俺にはふっかだけなのに、ふっかはそうじゃないんだね。
「今日もおっつ〜!いやぁ、みんな調子良かったじゃ〜ん?笑」
「そういう佐久間が1番調子良かったじゃん」
「俺ここのセリフ噛んだかも」
「康二、この後予定空いてる?」
「めめからのお誘い?!空いてる空いてる!!」
「つっかれたー!!」
「翔太もう帰んの?!笑」
動画の撮影が終わって、本来なら俺も翔太みたいにすぐに帰るんだけど…
「………ふっか」
「…ん?何、どうかした?」
まだ椅子に座ったままのふっかに声をかけると、ふっかはふんわり笑いかけてくれた。
「ふっかさ、この後さ……」
「ふっか、照!!この後空いてる〜?」
俺が言い終わる前に佐久間が乱入してきた。
……邪魔が入ってきたな…
「ちょ、佐久間!2人が話してる途中だよ?」
「あっ、2人ともごめん…!」
すぐに阿部が佐久間を回収しにくる。
ふっかと2人きりになれるはずだったのに…
「いやいや、全然大丈夫だよ?照も俺もこのあとは暇だし!ね?」
いつも通りの笑顔で……佐久間に笑いかける。
「い、いやいやいや!」
阿部が必死になって首を振ってる。
俺は顔には出してはいないけど、雰囲気か何かから感じ取ったんだろう。
何もわかってない顔のふっかと佐久間に慌ててる。
「ほら佐久間!俺もこのあと一本収録が終わったらオフだからさ!それまで待っててくんない?」
「お、おん、なら待ってよっかな…」
「あれ?でもそれって3時間くらいの収録だよね?それまで俺と照と佐久間で…」
「佐久間!待ってられるよね?!」
「そりゃ、まぁ、待ってられるけど、?」
「………」
阿部は俺に気を遣ってくれてる。
佐久間だってあと少しで引くとこだっていうのに……
「俺は問題ないんだけどなぁ?わら」
ふっかが余計なことしか言わない。
ほんとに、何なんだよ……
「…阿部、そろそろ移動始めないとでしょ」
「…でも…」
「いいから、早く行って」
「………わかった」
時間も時間で、阿部をここで立ち止まらせるわけにはいかない。
正直、一緒に佐久間も連れてって欲しいけどそんなこと言えるわけない。
「阿部ちゃん、お仕事頑張ってね〜!」
ふっかは笑顔のまま部屋から出ていく阿部に手を振る。
俺がどんな気持ちでいるのかも知らずに……
「………あ」
佐久間が急に声をあげる。
「俺ちょっと先輩からご飯の誘い来ちゃった〜!ごめん!俺もお先しつれーい!」
そのまま、すごい勢いで部屋を出てく。
佐久間も、察しが悪いわけじゃない。
さっきの阿部の焦り具合とそろそろ顔にでてた俺に気づいたんだろうな。
佐久間が最後だったみたいで、この部屋には俺とふっかの2人きり。
「ありゃりゃ、行っちゃったね、わら」
「そうだね」
ニコニコ笑ってそんなことを言ってる。
「久しぶりに佐久間とゆっくり話せると思ったんだけどな〜」
「………そうだね」
帰り支度を始めるふっかを見つめる。
さっきだって楽しそうに話してたじゃん…
「そうだ、照、さっき何か言いたそうだったよね?」
ふわふわした笑顔のまま振り返る。
「………」
さっきの続きなんてどうでもいい。
足は自然とふっかの方に動いてる。
「…?照?」
何も言わずにふっかの顎を掴む。
驚いたように目を見開いてるけど、抵抗はしない。
知ってる、ふっかは優しいもんね。
ふっかの瞳の奥、映ってるのは俺だけだよね?
そのまま、艶のかかった唇に俺の唇を近づける。
ふっかの甘い匂いを感じる。
「………照、ストップ」
「…何で」
でも、ふっかに口元を押さえられて止められる。
「何でって、ここではだめ」
「ここでダメならどこがいいの?」
「どこって……」
戸惑ったように視線をキョロキョロさせてる。
こんな顔は俺にしか見せないよね。
「………人のいない場所…?」
「ここだって誰もいないじゃん」
「メンバーとかスタッフさんが戻ってきたらどう説明すんの?」
「別にいいし」
「俺がよくないの!」
そんなこと言いながら、顎を掴んでた手をあっさり払われる。
「照、最近疲れとか溜まってるんじゃない?早く家帰って休も?」
………溜まってるのは疲れじゃない。
ふっかには分かんないよね。
俺がどれだけふっかを必要としてるか、ふっかには分かるわけない。
「それこそ、疲れてるんだったら俺も今日は照の家に行かないからさ。ゆっくり休みたいよね」
「…………」
「ごめん、もっと早く気づくべきだったよな。今日はもう休みな、明日もオフだったよね?」
ふっかなりの優しさなんだと思う。
俺に気を遣ってくれてるのも分かる。
ふっかだって鈍感なわけじゃない。
むしろ、誰よりも周りの変化に気づくくらい敏感だ。
その優しさが、ムカつくんだよ……
「…それとも、さ。照、俺に何か話聞いて欲しいとかあったりする?そう言うことだったら何時間でも付き合うよ」
「………」
ふっかの綺麗な手が俺の頬に触れる。
そういうとこだよ。
そんなことするから、俺はふっかから離れられなくなる。
「照、1人で抱え込まないでよ。俺は照の味方なんだからさ」
「………ふっか…」
味方、俺の味方、ね……
1人で抱え込むなって言ったね?
どんな時でも、俺の味方でいてくれるんだよね…
「何か嫌なことあった?」
ふっかの細くて白い指が頬をなぞる。
「……まずは家に帰うよ。照、俺と2人きりがいいんだよね?家に帰ってから、お酒とか飲んだりして、ゆっくり話そう?」
家に帰ってからゆっくり……
ほんと悪い男だよ、お前は。
その優しさが俺をお前から離さない。
俺の顔を覗き込むふっかから甘い匂いが香ってくる。
この匂いも俺だけのものにしたい。
ふっかの匂いと俺の匂いを混ぜてみたい。
「………照?」
「………ふっか、ごめん」
ふっかの肩に手を置いて、そのままもたれかかるように抱きしめる。
ふっかを俺だけのものにできるなら、ふっかに苦しんでほしい。
俺の感じてるものを感じて欲しい。
鈍い痛みとか、苦い何かで苦しんで欲しい……
こんなに醜くて弱いなんて、知りたくなかった。
何で上手くいかないんだろう…
「………照、大丈夫。俺はここにいるからさ」
「………っ…」
俺の背中に、温かいふっかの手が置かれる。
ふっかは、俺のこんな感情も受け止めてくれる。
俺は、そんなふっかを好きになった。
だからこそ、俺のすべてをふっかのすべてで受け止めてほしい…
君の頭の中のフィルムには一体何が刻まれているんだろう。
「で、最近ご飯一緒に食べに行ったのよ!」
「えぇ、いいな〜!!」
「俺も誘ってくれよ!!」
「俺も行きたかった!!」
「…………」
あの日から、また数週間経つ。
結局俺は何も伝えられないまま。
それでも、ふっかと2人きりの時間を過ごせた。
今ふっかが話してるのは先輩とご飯に行ったって話。
何気ない話だし、俺だってそう言う話はする。
「めっちゃ盛り上がっちゃってさ〜、わら」
「………」
今、ふっかの頭の中にいるのは俺じゃない。
頭の中にいるのは先輩、目の前にいるのは康二たち。
俺は、どこにもいないんでしょ。
俺以外にふっかの頭の中にいるなら、それを砕いてしまいたい。
できることなら、全部砕いて俺がそれを飲み干したい。
ふっかの全てを、余すことなく俺のものにしたい。
「………ふっか」
「んふ?どした?わら」
小さく呟いたつもりだったけど、ふっかにはバッチリ聞こえてたらしい。
ふわふわした声で俺のところに近付いてくる。
「………」
ふっかの声は、誰もが認めるキャラメルボイス。
甘くて優しい声色で癒される。
誰にでもそんな声で話しかけるんでしょ。
俺だけじゃない、俺の知らない誰かにも。
でも、俺にはまだ安心材料は残ってる。
夜のふっかは俺しか知らない。
これこそが恋人の特権ってやつ。
誰も知らない、俺だけが知ってるふっか。
かわいい顔で、声で俺に善がる。
俺だけのふっか、だったのにな……
「ふっかさんの寝言ってマジでやばくない!?笑」
「ねぇ!何かエロいですよね?笑」
「だはっ!!そんなことないって!!わら」
楽屋に響き渡る楽しそうな声。
………俺には、雑音に聞こえてくる。
最近の撮影で、ふっかのいわゆる夜の声が全世界にバレた。
寝言がたまたまそうだったってのと、何よりふっか本人は無自覚だ。
無自覚ってのが1番タチ悪いんだよ……
俺以外に、そんな声聞かせないでよ。
その相手がふっかの知り合いだろうが友達だろうが親友、恩人、メンバーだろうと許せない。
俺だけがいい。
俺だけのふっかでいてほしい。
もし、もし俺以外の奴にそんな声で善がってたら……
「…………」
そんなの、想像もしたくない。
「照、最近どう?」
「……そこそこ、かな」
「え〜?何だよそこそこって!わら」
俺の家で、ふっかと2人きり。
あの日から、ふっかは頻繁に俺のことを気にかけるようになった。
俺のことを、心配してくれてる。
ふっかの優しさは、みんな知ってる。
メンバーに1番優しい人は誰って聞いたら、必ずふっかの名前が上がる。
メンバーだけじゃない、事務所の人、今まで番組とかドラマとかで共演したことのある人、他にも関わりのある人、全員が口を揃える。
ふっかは優しい人だ、って…
俺が告白した時、ふっかは戸惑ってた。
長年一緒に過ごしてきたメンバーからの急な告白。
断ればきっと仕事にも影響が出る。
不仲説とか喧嘩とか、そういう疑いも出てくるかもしれない。
何よりもこのグループを守ろうとしてきたふっかが、その可能性を考えないわけがない。
だから、OKしたんじゃないの……?
表面上の関係性が変わらないのもそう。
あの時、キスを拒まれたのもそう。
夜の行為も、2人きりでいる今だってふっかにとっては、このグループを守るための行動なんじゃないの…?
「………照?おーい、照〜?」
「……」
隣には、困ったように眉を下げて笑うふっか。
「最近ぼーっとする時多いよね。やっぱり疲れちゃってるんじゃない?」
「そう、かな…」
「あんま無理すんなって言ってるのに………はい」
一つため息を吐いて、ふっかは軽く自分の膝を叩く。
「……..何?」
「膝枕だよ。こうでもしないと照は寝れないじゃん」
ふにゃふにゃした笑顔のまま、ふっかに頭を引き寄せられる。
「今が大事な時期ってのは分かるけどさ、照自身が無理して倒れたらダメでしょ?」
「……ごめん…」
「もう、謝んなって。無理したくなるのは俺も同じだからさ」
ふっかの柔らかい膝が心地いい。
ふっかの優しい声と、細くて綺麗な手が俺の疲れを癒してくれる。
「………照、いつもお疲れ様」
「……っ…」
額のやわらかい感触と、ふっかの甘い匂い。
膝枕もそうだけど、ふっかからのキスなんて、付き合ってから4回目くらいじゃない?
ふっかは、俺が仕事ですごい疲れた時にいつもこうやって休ませようとしてくる。
普段は絶対やらないのに。
………この優しさも、全部俺のものにしたい。
もし、ふっかの優しさが俺を選んだって言うならそれでいい。
その優しさが後悔に変わるまでふっかを愛したい。
俺を選んだのはふっかだ。
優しくて可哀想なふっか。
俺に好かれて、俺を選んじゃったんだもん。
俺のこんなにも醜い心の内を吐き出せたら、俺はどれだけ楽になれるんだろう?
………ふっかの優しさは、どこまで後悔に染まるんだろう…
「照、眠れそう?」
「…………」
「ありゃ、もう寝ちゃったのかな?」
目を閉じてるから見えないけど、ふっかが柔らかく笑ってるのを感じる。
離れる気配はない。
多分次に起きたら、ふっかはこの体勢のまま寝てるんだと思う。
「………いい夢見るんだぞ〜」
囁くような声と一緒に、今度は頬に柔らかい感触が落ちる。
ほら、やっぱりふっかは優しい…
この優しさを、俺はどう受け止めればいいんだろう?
ふっかは、本当に善意でしか動いてない。
今の俺に何をすれば最適かを考えて行動できる。
それは、俺だけにじゃない。
そんなふっかが大好きだった。
周りのことばっか考えて、自分のことは後回しにするふっかだったから守りたかった。
守りたかったのに………
今じゃ、俺はそんなこともできない。
ただ、ふっかのすべてを俺のすべてで歪ませたくてしょうがないんだ…
俺は、ふっかにすべてを受け止めて欲しいだけなんだ。
ふっかを好きになった事に後悔なんてない。
でも、ふっかと付き合ってから俺は変わった。
そんな俺でも受け止めて欲しい…
こんなにも醜いんだ。
砕けて尖った心も、隠しきれない咎でさえも、今にも溢れ出しそうな想いも、全部……
ただ、受け止めて欲しい……
アニメとか漫画とかで見るような、よくある幸福なんて期待してない。
こんな俺、もう普通じゃないんだよ。
いや、違うな…
普通だなんて、最初から持ち合わせてなかったんだ。
ただ、ふっかのことを想うと胸が痛くなる…
「………ふっか…?」
「…グスッ…ん…あ、あぁ……照、!」
練習終わり、何となくでレッスン室に戻ったら、まだふっかがいた。
……泣いてる…?
鏡の前で、1人でうずくまってたふっかの目元は分かりやすく赤くなってた。
「どうかしたの?」
「うぅん!!全然何ともないよ!わら」
慌ててその場から立ち上がって、帰り支度を始める。
何かあった……?
「照に無理すんなって言ったくせに、俺自身も結構疲れちゃってたみたいでね。今日は帰ってちゃんと休むつもり」
早口に続けて、じゃ、お疲れ〜!なんて言って俺の横をすり抜けてく。
………いかないで
そう思って伸ばした手は空を切るだけ。
誰もいない、静かなレッスン室。
目の前にあるのは大きな鏡だけ。
その鏡に映るのは、醜い感情を持つ俺……
そう思った瞬間、漠然とした不安感に襲われる。
何で、何でふっかは泣いてたんだ……?
違う、そうじゃない。
泣いてた理由なんかよりも、俺はふっかに何も言えなかった。
違う…違う違う違う………!!!
そうじゃない、そうじゃない…!!
ふっかは、何に苦しんでる……?
俺は……俺の、せい……?
違う……俺は、ただ……
ふっかの涙なんて見たくない。
俺は、ただふっかに笑っていて欲しいだけだったのに…
ふっかの笑顔を守りたかった…守りたかっただけだった…
どうして、どうしてこうなったんだ…?
どうして俺はふっかの笑顔を俺だけのものにしたいんだ…?
何で、俺はふっかの全てが欲しい…?
「………ふっか…?」
「おかえり、照…」
家に帰ってすぐ、玄関に見覚えのある靴があった。
すぐにリビングからふっかの声が聞こえてくる。
家に帰って休むんじゃなかったのかよ…
「ふっか、さっきさ……」
「照の顔見れたし、俺、帰るね」
「………え?」
さっきのことを聞こうと思ったけど、ふっかはそれを遮るように笑う。
このまま帰るつもりかよ……
何か悔しくて、ふっかの腕を強く引っ張る。
「……は?」
その勢いか何なのかで、ふっかのフードが揺れる。
白い首筋に目立つ赤い跡……俺のじゃない…
頭がおかしくなりそうだ。
誰のだ、誰と……
考えたくない、考えたくなかった……
そっか、やっぱりふっかには俺だけじゃなかったんだ…
「……ふっか、ねぇ…これ…」
「……ぇ?」
「とぼけんなよ、これ何って聞いてんの…!」
頭に血が上る感覚がする。
俺の指差す場所にようやく気づいたふっかが顔色を変える。
「……っちがっ…!!!」
慌てて否定しようとするふっかの口を抑える。
今欲しいのは言い訳なんかじゃないんだよ。
「…ひかっ…お願い、聞いて……んんっ、?!」
無理やりふっかの唇を奪う。
今まで悩んでた俺がバカみたいだ。
ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと……
もっと早くからこうすればよかった。
最初から、ふっかを俺だけのものにすればよかった。
他の誰かに、俺のふっかを奪われた。
俺だけのふっかだったのに、俺だけが知ってるふっかだったのに…!!
最初から、壊しとけばよかったな…
俺以外見えないように、俺以外の選択肢なんて与えないようにすればよかった。
最初から邪魔なものを全部消しておけばよかったんだ。
悩んでる暇があるなら、行動にすればよかった。
ふっか、俺のこと受け止めてよ。
前に言ってたじゃん、ふっかは俺の味方だって。
俺のこんな心も全部受け止めて、ちゃんと全部味わって…
俺1人で抱えきれないんだよ。
だから、ふっかも一緒に抱えて、引きずって。
半分こじゃ嫌だ、俺と同じ重みを抱えて。
受け止めてくれるよね?
だって、ふっかが選んだことだから。
ふっかの優しさが後悔に変わるかな…?
俺を選んだことを後悔してるかな…?
ほんとに、ほんとに報われないよね。
ふっかの優しさが、今になって俺とふっか自身を苦しめてるんだよ…
でも、大丈夫だよ。
俺の苦しさを味わってもらう分、俺もふっかの後悔を一緒に味わうからさ。
「……ひ、かる…」
まだ温かいふっかの手が俺の頬に触れる。
「…そんな顔、すんなよ……」
「………」
やんわり笑うふっか。
何だよ…何だよその顔……
「何で、照が泣いてんのさ…?わら」
「………っ…」
俺に手酷く抱かれて、苦しいのはふっかのはずなのに……
何で笑ってんだよ……
何で俺は、泣いてんの……?
どうすればよかったんだよ…
どうすればこんなことにならなかったんだよ……
俺は、みんなから愛されるふっかが好きだった。
ふっかの柔らかい笑顔を守りたかった。
それなのに、俺はふっかに対して醜い感情しか生まれない。
「……照のせいじゃない…俺だって、同じだからさ…」
「………」
ふっかも、同じ……?
ふっかが俺の首に腕を巻きつけて俺を引き寄せる。
そのまま、ふっかの額が俺の額に触れる。
俺の、見たことのない顔してる。
……この顔は、多分誰も知らない顔だ。
「俺には、ずっと照だけだったよ…?」
ずっと……?
ずっと、俺だけだった…?
でも、ふっかには俺以外にいっぱいいるじゃん…
俺とふっかは価値観が違う。
俺は、ふっかとひとつになりたい。
俺だけのふっかであってほしい。
他の何でもない、俺だけのひとつであってほしい。
俺と、俺と終わってほしい……
「…ふっかは、俺と終われるの…?」
「終われるよ」
ふっかは、何も悩まずに笑顔で答える。
まさかの即答で、聞いた俺が困る。
俺がどう言う意味で聞いたかわかってんの?
「何回でも言う。俺には照だけ。俺はずっと照のものだよ」
声音は全く変わらない。
いつも通りのふわふわした甘い声なのに、目の前にいるのは俺の知ってるふっかじゃない。
「照も、そうでしょ?」
「………」
「照だって、俺なしじゃ生きていけないじゃん」
ほんとに、その通りだよ。
俺は、もうふっかのいない世界なんて考えられない。
でも、まさかふっかからそんな言葉出てくるなんて思ってもなかった。
「……変なの、わら。照が求めてんのに、何でそんな驚いてんのさ、わら」
目の前にいるふっかはいつもと変わらない笑顔を浮かべてる。
なのに、俺はこんなふっかを知らない。
もしかして、本当に俺はふっかのことを壊したのかな…
望んでたことだ、壊したいってどれだけ願ったか…
なのに、どうして……
どうして、こんな怖いんだ…?
「そんな顔すんなって。俺は、ずーっとずーーっと照と同じ気持ちだったのに」
「……ほんと?」
「当たり前じゃん?わら」
そうか……そうだったんだ…
「……ははっ…」
なんだ、そうだったんだ。
ふっかも同じだった。
俺だけじゃなかったんだ。
ふっかは最初から俺の全部を受け止めてくれる。
ふっかの優しさが俺を選んだんじゃない。
ふっかも俺も、お互い戻れないくらいまで狂ってる。
「で、このキスマは?」
これも、答えは出てる。
「……わかってるくせに、わら」
ふっかは笑顔のまま。
こんなに分かりやすいところにつけて、見つけたらわざとらしく焦って…
全部、俺のこの醜い感情を煽るものだったんだ。
「自作自演とか、ほんと何考えてんだか…」
「こうでもしないと照も俺も本性見せらんないしね」
舌を出して笑うふっか。
ほんとに、悪い男だな…
俺もお前も狂ってる。
俺の醜い感情が消えることはないし、ふっかが俺以外の誰かと笑い合うこともなくならない。
それでも、俺には確証がある。
ふっかは俺だけのもの。
他の誰のものでもない。
ふっかは、俺と終わってくれる。
絶対に離さない。
一生一緒だからね。
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うわ、第2話も重たい……でもすごく引き込まれた。照の独占欲がどんどん牙を剥いてる感じがして、読んでるこっちが息苦しくなる。特にキスマークが“自作自演”ってわかった時のゾッとする感じ、でもふっかも同じ穴の狢ってのがもう……お互い狂ってるのに、それが“愛”なんだって納得してしまう、この歪な関係性の描き方が本当に上手い。伏線の張り方も巧妙で、引き続き気になる。