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第5章:扉の丘
丘の上には、朝の霧がまだ薄く漂っていた。
カイは昼猫ソラスと並んで、息を整えながら立っている。
港町から続く崖道を越え、いくつもの廃墟を通り抜けた末に辿り着いたこの場所――そこに、扉があった。
古びた石造りで、表面には無数のひびが走っている。それでも扉は倒れず、この丘の頂に静かに立っていた。
ソラスは扉の前に座り、じっと東の方角を見つめている。
カイもつられて視線を向けた。
霧の向こうから、月色の髪が風に揺れるのが見えた。
リシアは夜猫ルナに導かれ、丘を登ってきた。
森と川を越え、月明かりの下を何夜も歩き続けた末、ついに辿り着いた場所。
扉は想像していたよりも大きく、そして冷たそうだった。
ルナは足を止め、霧の向こうを見つめる。
そこに――少年の姿があった。
二匹の猫が、扉の前で向かい合った。
ソラスの金色の鍵と、ルナの銀色の鍵が同時に光を放ち、互いを引き寄せる。
金と銀がぴたりと重なり、一つの大きな鍵へと変わった。
光は扉全体に広がり、刻まれた紋様を浮かび上がらせる。
カイとリシアは、扉を挟んで立ち尽くした。
互いの顔を見た瞬間、胸の奥で何かが強く鳴った。
知らないはずなのに、ずっと探していた人――そんな感覚が全身を包む。
「……君は……」
「……あなた……知ってる……」
けれど、自分の名前は出てこない。
空白が、記憶の大部分を覆い隠している。
そのとき、霧の中から足音が近づいてきた。
灰色の外套を纏ったエルデが、静かに扉の前へ歩み出る。
「……来たな」
低く響く声に、二人は息を呑む。
「さあ、開けてみろ。この扉の向こうに、お前たちが探していたものがある」
ソラスとルナは扉の脇に下がり、じっと二人を見守った。
丘の上の空気は、もう霧ではなく光に満ち始めていた。
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