それから、以前までの美蘭の帰っている事はなかった。しかし、これはあくまで感覚的なものでしかないようで、その変身を感じたのは俺と東雲の、ただ二人だけであった。そのため、この事を誰に話すこともなく三週間が経過した。
この時の俺は、これまた不思議なことに。いや、単なる思考停止でその問題を勘違いとして片付け、少し時間が経てば解決すると認識していた。
思えばここでもっと考えを巡らせていれば、このような事態は防げたのかもしれない。この今の美蘭は、それまでエゴとしていた『愛を愛し、それを問いただし、深める姿勢』を完全に忘れてしまっていた。一言でいえば、愛に対し、妄信な姿勢へと変わり果ててしまっていたのだ。
その日は、珍しく関東で雪が降った。交通機関の一部が止まり、大学講義の予定もなくなった。そんな忙しそうで、とても暇の多い日だった。
二度寝から目覚めると、彼女からの通知が溢れていた。俺はそれをどうせこの天気の事か何かだろうと軽く思っていたため、一度後に回して朝食の準備にかかった。朝食とはいっても時刻は十時で、昼食が近く、シリアルに牛乳を入れたものを適当な量。それと、健康のために習慣としているプロテインも並べた。
レコードを回し、わかっていそうな音楽で洒落に気取ると、椅子についた。何口か食べたあたりでただ黙っての食事に飽き、ここでようやくスマホを取り出した。
すくったシリアルが垂れ戻った。彼女からのメッセージを確認し、思わす口が開いたまま固まった。
『妊娠した』
そのおびただしい量のメッセージは、どれも違う言葉であったものの、その内容は全てその事についてであった。
俺は当然ながら美蘭を愛していた。しかし、その交際理由を占めるものとしては性欲が大きく、結婚となると話が変わってくるのであった。それに美蘭が変わったように感じてからは、どうにもその気になることができず、一度も行為には及んでいなかった。
結果として俺は大学を中退し、責任を取ることとした。その選択には、至極常識的な倫理観と、今後美蘭は以前のように戻ってくれるという淡い期待が含まれていた。