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「カラカラ……?お前は、何者だ」
「何者かって? 俺はただの――断捨離が趣味の勇者、立町 静照だ!」
ステルは目の前の強大な魔物にも物怖じせず、力強くそう言い放った。
「ス、ステル!生きてたのね、良かった……!
私たち、スケルトンに捕まったんじゃないかって、ずっと心配してたのよっもう……!」
ミカは涙声を混じらせながら、ステルに向かって叫んだ。
「ミカ、パコ。遅くなって悪かった。
道中思わぬアクシデントがあって、時間がかかってしまった。 だがもう心配するな…一瞬で終わらせる」
「カラカラカラ…笑わせるな。お前は嘘つきだ。
勇者のくせに鎧はおろか、剣も盾も持っていないではないか。 それにお前からは、魔力の魔の字も感じられぬ。 その程度で我に挑むなど、笑止千万!!
あの世で仲間と悔いるがいい」
骸の王は、両腕を前へと突き出した。
すると、瞬時に両の手から巨大な魔法陣が錬成される。
「く、くるぞステルっ!」
パコはなんの構えもとっていない無防備なステルに向けて叫んだ。
「カラカラカラ……その無謀な勇気、僅かながら敬意を表そう。 よって――我が最大魔術をもって葬り去ってやる。 永遠に凍てつくがいい……!
“アブソリュート・ゼロ・マキシマ”!!」
パキパキパキ……ッ!
詠唱の声と共に、空気が悲鳴を上げるように凍りついていく。 周囲の温度が急激に低下し、吐息すら白く凍るほどの寒気が満ちた。
次の瞬間、天井を覆う無数の氷柱が一斉に光を反射し、鋭い殺意を宿してステルめがけて降り注いだ。
ヒュンヒュンヒュンヒュン――!!
ステルは持ち前の脚力で急発進すると、襲いくる氷柱をかわしながら骸の王の元へと走り出す。
「カラカラカラ…!いつまでよけられるかな?」
だが、そんな骸の王の予想をも遥かに超える反射神経で、ステルは迫り来る全ての氷柱を紙一重で躱しながら、少しずつ距離を詰めていった。
「す、凄い。どんな動体視力してるのよアイツ…」
それは仲間たちでさえ息を呑むほどの光景だった。
まるで氷の刃の中を舞う、華麗な踊り子のような立ち回りだった。半ケツなのは一旦置いておいて。
「いけるぞっステル!!」
パコの振り絞る様な声援のお陰か、ステルはさらにギアを上げ、あっという間に骸の王の目の前まで迫った。
「うぉおおぉおおぉおおーー!!!」
自らを鼓舞するように、ステルは大声を上げながら拳を振り上げた。
骸の王には、もはや身を守る術は残されていない。
魔法も、今から唱えていては間に合わない状況だ。
「くらえー!オ、レ……!?」
パキィンッ!
「カラカラ…残念だが、終わりだ」
そこで、ステルの動きが突如としてピタリと止まった。 全身は瞬く間に凍りつき、氷の結晶に覆われていく。 骸の王の頭蓋骨まで、あと数センチ――
その一撃が届く寸前のところで、ステルは完全に静止していた。
その目からは生気が消え失せ、氷の彫像と化している。
「カラカラカラ……!コヤツは、我に近づき過ぎたのだ。 我が領域魔術――”ニブルヘイム”は、近づけば近づくほど対象を急速に凍結させる。
お前たちが魔法や弓で距離をとって戦っていたのは、ある意味では正解だったと言えよう……
もっとも――お前たちの魔法ごときで、我に傷をつけることなど叶わぬがな」
「そ、そんな…嘘……」
ミカは、ステルの変わり果てた姿を見て、力無くヘナヘナとその場に座り込んだ。
「安心しろ、すぐにお前達もコヤツと同じ場所に送ってやろう」
完全に戦意を喪失した二人へ向けて、骸の王は両手をかざすと、空間に魔法陣が出現し、二対の氷槍がゆっくりと現れる。
パキパキパキ――。
「終わりだ」
これが本当の終わり。
無慈悲な氷槍が無抵抗の二人へと襲いかかるその瞬間。
「終わるのは……お前だ」
その声の主は、紛れもなく氷漬けになった筈のステルだった。
「な、何故だ!?何故、お前は動くことができる!?」
骸の王は、そのあり得ない状況に動揺を隠せない様だった。
「なぜ動けるかって?そんなの簡単。
俺にまとわりついた氷をまるごと”断捨離”した。
ただそれだけだ」
「だ、だ、ダンシャリ?なんだそれは!?そんなヘンテコな術で我の領域魔術をどうにかする事など、できるわけは…」
「出来るんだよ、レベルアップした今の俺ならな」
ステルはそう言うと、今度こそ身を守るものが何もない状態の骸の王に向かって、力強く拳を振り上げた。
「な、何をする気だっ!我は不死種のスケルトンだぞ?そんな拳でいくら殴ろうとも、意味など…」
ステルは容赦なく顎骨の辺りへ強烈なストレートを叩き込む。
「グボハァアアッンーー!!!」
その瞬間、骸の王の体はいとも簡単に宙に浮き、二十メートルほど先の壁まで勢いよく叩きつけられた。 頭に被せていた王冠は遥か彼方まで吹っ飛び、未だかつてない程の衝撃と激痛が王を襲う。
(デーーウッソ〜ン!何これ痛過ぎムリムリムリ!殴られるのってこんなに痛いノ〜〜!?)
心の奥で情けない声を叫ぶ。
だが、それでもステルの攻撃は止まらない。
すぐに距離を詰めると、もう一度拳を振り上げる。
「これはパコの分だ」
「ブゥホッッ!!!」
今度は、頭蓋骨へ強烈なゲンコツを浴びせる。
その衝撃で、骸の王の体は地中深くまでめり込んだ。
「しぶといな、さすが骸骨だ」
ステルがもう一度、大きく振りかぶろうとしたその時、骸の王は情けない声でこう叫んだ。
「ヒィイイィイイィイイィイイ〜〜!!か、勘弁してくださいッ!!そんな殴らんでも!ほれ、魔力核《コア》!!これあげたらワシ死ぬから!お願いだからもうヤメテ〜〜!!」
そういうと、自らの頭をパカっと開き、禍々しく光り輝く石の様なものを差し出した。
「なんだお前、本当はビビりなんだな」
「カラカラカラ…そ、そうなんデス〜村人達を攫ったのも、”ある魔女”に指示されたから仕方なくやっただけで、本当は家でひっそり骨仲間とボドゲをやるのが趣味なんデスッ!」
その口調には、もはやかつての王の気配は微塵もなかった。 威厳も誇りも失われ、ただの一体のスケルトンに過ぎなかった。
そして、魔力核を失ったその身体は、音を立てながら徐々に崩れ始める。
「ちょ、ちょっと待て!その”ある魔女”とは、誰のことだ?」
「それは、いずれ分かります。あの魔女は勇者を――さ…」
ガランッーー。
あとほんの少し、最後の重要な一言を言い終わる前に、骸の王はただの骨山へと成り果てていた。
「ステル〜!!」
戦いが終わったところで、二人がステルへ駆け寄っていく。
「やったわね!やっぱりアンタは勇者よ!これで、断捨離スキルも復活ねって…あれ?そういえばステル、さっき氷を断捨離したって…」
「ああ、それは色々あってな…落ち着いたら話すよ」
「ひとまずは一件落着と言いたいところだが、パコ達にはまだやることがあるぞっ。早く村人達を助けねばっ!」
「ああ、そうだったな!」
「私達、これで英雄になれるんじゃない?あ〜早くスコット村に帰っておもてなしされたいわ〜ん」
と、調子のいいことを言うミカに、俺とパコは思わず吹き出した。
ああ、二人とも無事で本当によかった。
仲間ってのは案外悪くないもんだな。
そうしみじみ思いながら、俺は心の中で二人に感謝を告げる。
そして捕らわれた村人たちを救い出すため、三人で四階へと駆け出した。