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「俺は、君と一緒にドライブに行きたいから誘った。落ち込んでいる恵菜さんが……」
純は言葉を詰まらせ、逡巡しつつ下を向き、フウッと息を吐き切った。
「少しでも元気になって…………君の笑顔が見たいと思ったから誘った」
顔を上げながら、純に眼差しを向けられた恵菜。
「俺とドライブに行くの…………嫌?」
「…………」
初めて見る、彼の強い眼差しを受け止めながらも、彼女の胸の奥が、重く沈み込んでいく。
返事をすぐにしたいけど、喉の奥に何かが痞えているようで、うまく言葉にできない。
「嫌…………じゃない……です……」
やっとの思いで、消え入りそうな声音で答えた後、恵菜は辿々しく首を横に数回振った。
「じゃあ…………海を見に行こうか」
「海…………ですか?」
「冬の海は寒いけど……広大な景色を眺めたら、少しは恵菜さんの気が晴れるかもしれない、と思ってさ」
鋭い眼差しを送っていた純が、穏和に目を細め、助手席のヘッドレストに置かれていた手が、恵菜の頭へ伸びていく。
「来週の土曜日……楽しみにしてるよ」
筋張った手に頭を優しく撫でられ、恵菜は頬を薄紅に染まらせている。
「さて、もう戻っても良さそうだな。恵菜さんの家まで送るよ」
彼は、シフトレバーをDモードに切り替えると、緩やかにアクセルを踏み出した。
純の愛車が恵菜の自宅前に到着し、彼女は、シートベルトを外して純と向き合った。
「谷岡さん、今日も助けてくれて……本当にありがとうございました。すごく助かりましたし…………楽しかったです」
申し訳ない、という気持ちとともに、恵菜は深々と一礼した。
「今日は色々あったけど、俺も楽しかった」
彼は唇を緩め、微かに白い歯を覗かせる。
車を降り、恵菜が自宅の門前に立つと、純が窓を開けた。
「じゃあ、土曜日。楽しみにしてる。おやすみ」
「ありがとうございました。帰り、気を付けて下さいね。おやすみなさい」
純が窓を閉めた後、車を発進させると、恵菜は軽く会釈をし、彼の車が見えなくなるまで見送り続けた。