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ねむ
尊さんは俺を背中に庇うように立ちはだかり、床で呻く亮太さんを完璧な手際で制圧した。
やがて駆けつけてきた警察官たちに彼を引き渡し、現場は一気に騒がしさに包まれる。
「尊……さん……っ?」
尊さんは、未だ腰が抜けて震えが止まらない俺と同じ目線になるように、ゆっくりと膝をついてくれた。
尊さんの姿がはっきりと視界に入り、名前を呼ばれた瞬間。
張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、俺はそのまま、差し出された尊さんの広い胸の中に崩れ落ちた。
「ひっ……ひぅ……っ……尊ざん……っ………お…っ、おれ……」
泣きじゃくる俺を、尊さんは何も言わず、壊れ物を扱うような優しさで抱き寄せた。
頭を大きな手で包み、背中をゆっくりと一定のリズムでさすってくれる。
その体温が、死の淵から俺を引き戻してくれるようだった。
「もう大丈夫だ。……一旦ベッドまで送る。起き上がれそうか?」
尊さんは俺の脇を支え、肩を貸してくれた。
産まれたての子鹿のようにガクガクと震える足で、一歩ずつ自分の部屋へと進む。
寝室のベッドに横たわると、尊さんは毛布を優しくかけてくれた。
「なにか冷蔵庫にあるか? 飲み物とか」
気遣うような声。
けれど、今の俺はショックで喉が塞がり
ただ弱々しく首を横に振ることしかできなかった。
「そうか。ならポットの湯を借りるぞ。少し待ってろ」
尊さんがリビングへ行く。
ひとりになった部屋。
静寂が訪れると、また亮太さんの声が聞こえてきそうで、心臓の鼓動は速いまま、震えが止まらない。
しばらくして、尊さんが湯気の立つコップを持って戻ってきた。
「喉の調子はどうだ。温まるように白湯にしたんだが、飲めそうか……?」
「……っ、飲み、ます」
上体を起こそうとすると、尊さんの大きな手のひらが背中に添えられた。
「無理するな。飲ませてやるから」
「っ、……っ、お……お願いして……もいい…で、すか」
俺が啜り泣きながら言葉を絞り出すと
尊さんは小さく頷き、俺は彼に背中をさすられながら
もう片方の空いた手では自分の口の前でコップを傾けてもらい、白湯を一口含んだ。
温かい液体が喉を通り、胃に届く。
その温もりが指先の痺れを少しずつ溶かし、震えが収まっていくのが分かった。
「ありがと、ございます……」
俺が落ち着くのを待つ間、尊さんの手はずっと、ずっと優しく背中をさすり続けてくれていた。
ようやく呼吸が整い始めた頃。
「……あ、あの、尊さん……夜遅くに、すみません……っ。俺……結局、何もできなくて……っ」
言葉にすると、また自分の無力さが情けなくなって、涙がポタポタと膝に落ちた。
すると尊さんは、俺の震える両手をそっと取り、包み込むように握りしめてくれた。
「……馬鹿だな。俺の言葉を覚えてて、電話をかけてきたんだろ?」
「え……あ、……は、はい」
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