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「……ふざけるな!財産分与だ! あの女が隠し持っている数十万、いや数百万の報酬は、婚姻期間中に築いた共有財産だろ!」
家庭裁判所の待合室に、直樹の見苦しい怒鳴り声が響く。
数週間ぶりに見た直樹は、すっかり痩せこけ
安物のスーツはシワだらけだった。
かつての傲慢なエリートの面影はない。
対する私は、新しく新調したネイビーのセットアップに身を包み、背筋を伸ばして調停委員の前に座った。
「詩織さん。相手方は、あなたの仕事による収入も分与の対象だと主張していますが……」
調停委員が困惑したように私を見る。
直樹は勝ち誇ったような顔で、鼻を鳴らした。
「そうだ! 専業主婦のくせに、俺に内緒で稼いでたんだ。その金は俺にも権利がある。半分寄こせ、そうすれば離婚届に判を押してやるよ」
私は、隣に座る弁護士の先生と目配せをし、一冊の資料をテーブルに置いた。
「……勘違いしないでください」
私は冷徹に資料をめくった。
「私が得た報酬は、あなたが私の独身時代の貯金から無断で引き出し、遊興費に充てた『200万円』の補填」
「およびあなたが一方的に削減した生活費の『立替分』として、すでに相殺の処理を終えています」
「な……相殺だと!?」
「ええ。ここに、あなたが生活費を月3万円に減らした際のボイスレコーダーの記録、および私が陽太の教育費を捻出するために深夜まで労働していた全記録があります」
「民法上、あなたが負うべき扶助義務を怠り、かつ私の特有財産を不法に侵害した以上、私の労働収益は『損害賠償』の性質を帯びます。分与の対象にはなり得ません」
弁護士の先生が、さらに追撃の書類を出す。
「それだけではありません。相手方による不倫の慰謝料、および会社から請求されるであろう損害賠償の求償権……」
「これらを合わせれば、相手方が詩織さんに支払うべき金額は、分与されるべき財産を遥かに上回ります」
「……直樹さん、貴方は今、自分に『1円』の受取権もないことに気づいていますか?」
直樹の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「……そんな、バカな……俺の…俺の権利は……っ」
「権利? あなたが詩織さんを『家計簿の檻』に閉じ込め、1円の誤差を責め立てていた時、彼女の権利はどうなっていたんですか?」
弁護士の鋭い一喝に、直樹は言葉を失い、ガタガタと椅子を揺らした。
「……もう終わりよ、直樹」
私は、離婚協議書の最後のページを指差した。
「判を押しなさい。今ならまだ、刑事告訴までは待ってあげる。……でも、これ以上時間を無駄にさせるなら、明日の朝には警察に行くわ」
直樹の手が震え、手にしたペンが床に落ちた。
かつて私を支配していたはずのその手は
今や100円のボールペンさえ満足に握れないほど、脆く、弱りきっていた。
調停室を出ると、廊下には春の柔らかな光が差し込んでいた。
スマホの通知が鳴る。
新しい職場からの、初出勤日の連絡だ。
「……行こっか、陽太」
待合室で本を読んでいた陽太が、私の顔を見てパッと笑顔になった。
その笑顔を守るための戦いは、あともう少し。
【残り84日】