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#ざまあ
#裏切り
#モテテク
離婚届に判を押させ、調停室を後にした数日後
ようやく手に入れた「自由」を噛みしめる間もなく、私のスマホに陽太のスマホから一本の着信が入った。
『……ママ……助けて……』
震える陽太の声。
背後から、聞き慣れた、けれど正気を失った男の怒鳴り声が聞こえる。
「詩織か!陽太は預かったぞ。あの30万と離婚届を持って、今すぐ俺のところに来い!」
直樹だった。
塾の帰りを待ち伏せし、陽太を無理やり連れ去ったのだ。
場所は、私たちが以前住んでいたマンションの近くにある、人気のない公園の廃屋。
「直樹……!陽太に何もしないで! 今すぐ行くから!」
私は迷わず駆け出した。
けれど、かつての私のようにただ怯えて向かうわけじゃない。
走りながらスマホを操作し、弁護士と警察、そして「ある場所」へ連絡を入れる。
15分後。薄暗い廃屋の中に、私は飛び込んだ。
そこには、陽太の腕を荒っぽく掴み、カッターナイフを手にした直樹が立っていた。
目は血走り、服からは酒と汚物の匂いがする。
「遅いんだよ! さあ、金を出せ! 離婚も取り消しだ。俺をこんな目にあわせた責任、取らせてやる!」
「パパ……やめてよ……っ!」
陽太の頬には、叩かれたような赤い跡がある。
それを見た瞬間、私の中の「母親」としてのスイッチが切り替わった。
「直樹。……そのナイフを捨てなさい」
私の声は、自分でも驚くほど低く、冷たかった。
「はあ? 何様のつもりだ、この無能が! 俺を怒らせたら陽太がどうなるか……」
「無能なのは、あなたよ」
私は一歩、直樹の方へ踏み出した。
「あなたは今、自分の息子に刃物を向けている。……それがどういう意味か分かってる?」
「あなたが私から奪った200万、会社から横領した経費……そんなものとは比べ物にならない『罪』を、今まさに重ねているのよ」
「うるせえ! 俺は……俺はただ、元の生活に戻りたいだけなんだ!」
「元の生活? ……一円の誤差で私を罵り、自分の不倫のために家族の未来を売り払った、あの地獄に戻りたいの?」
私はスマホの画面を直樹に向けた。
そこには、ビデオ通話の画面が映っていた。
相手は───直樹が唯一恐れていた、会社の元上司と、絶縁されたはずの義父。
『直樹……お前、そこまで落ちたのか』
義父の、地を這うような失望の声がスピーカーから流れる。
「……親父……!?」
直樹の動揺で、ナイフを握る手がわずかに緩んだ。
その隙を見逃さなかった。
私は直樹の懐に飛び込み、彼の手首を掴んで捻りあげた。
護身術を習っていたわけじゃない。
でも、陽太を守るという執念が、私の体を動かした。
「陽太、逃げて!」
陽太が私の腕をすり抜けて走り出す。
直樹は床に転がり、喚き散らした。
「……あ……あああ! 詩織、お前……殺してやる!」
「…その前にあなたは一生、陽太に『犯罪者の父親』として記憶されることになるわよ」
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
直樹は力なく突っ伏し、子供のように泣きじゃくり始めた。
「……もう、あなたの声は届かないわ」
私は陽太を抱きしめ、二度と汚らわしい男を見ようとはしなかった。
警察官たちがなだれ込み、直樹に手錠をかける。
「……離せ!俺は被害者だ! 詩織が……詩織が俺を……!」
その叫び声は、夜の闇に消えていった。
「……陽太。ごめんね、怖かったよね。もう、大丈夫だから…ごめんね」
陽太は私の胸で、声を上げて泣いた。
それは、彼がずっと堪えていた「家族の崩壊」への悲しみであり、そして「解放」の涙だった。
【残り83日】