テラーノベル
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#大人ロマンス
#サレ妻
「パパ、退院おめでとう。……今日はね、パパにプレゼントがあるんだ」
家に戻った健一を待っていたのは
蓮がナオミの莫大な収益で雇い入れた「新しい家政婦」だった。
リビングの光の中に立っていたその女性が振り返った瞬間
健一は悲鳴を上げそうになり、その場にへたり込む。
「初めまして、健一さん。今日からお世話をさせていただきます、あやめと申します」
二十代前半
切れ長の瞳、薄い唇、そして凛とした立ち振る舞い。
そこには、かつて健一が恋に落ち
そして自分を地獄へ引きずり込んだ「若き日の奈緒」が立っていた。
「…奈緒……?!いや、そんなはずは……」
「パパ、失礼だよ。あやめさんは、僕が『ママ』のオーディションで選んだ、最高のアシスタントなんだから」
蓮はあやめの隣に立ち、誇らしげに彼女の手首に抱きついた。
その仕草は、幼い子供の甘えではなく、自らのコレクションを誇示する独裁者のようだった。
「あやめさんはね、ママの生前の動画を全部見て、声の出し方も、歩き方も、お茶の淹れ方も完璧にマスターしてるんだ。……ねえ、あやめさん。パパに『あの言葉』を言ってあげて」
あやめは、感情の読めない美しい微笑みを浮かべると
健一の耳元に顔を近づけ、かつての奈緒と同じ香水の香りを漂わせながら囁いた。
「……健一さん。お掃除が、まだ終わっていませんわよ?」
健一の全身に鳥肌が立ち、胃の底からせり上がるような吐き気が彼を襲った。
蓮は、死んだ奈緒を懐かしんでいるのではなかった。
彼は、健一を最も効率よく支配するために「奈緒というシステム」を外見ごと再現したのだ。
「パパ、あやめさんと結婚してよ。みんな喜ぶよ。『亡き妻に似た女性と再婚し、息子と三人で再出発する悲劇のヒーロー』。最高のシナリオでしょ?」
「……蓮、お前…そんなこと、許されると思っているのか……!」
「許すかどうかなんて関係ないよ。……パパ、忘れたの? 今、この家の『ママ』は、僕なんだよ」
蓮がスマホを操作すると、家の各所に設置された監視カメラの映像がタブレットに映し出される。
逃げ場はなかった。
健一は、自分の息子が作り出した「偽物の奈緒」と
本物の「地獄」の中で、再び新婚生活を演じさせられることになったのだ。
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