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振り向いたメイドに目配せする。


「彼女を部屋へ。

傷つけないよう気をつけてあげて」


「かしこまりました、お嬢様」


メイドは丁寧に頭を下げると、

イチに向かって手を差し出した。


イチは

一度だけまばたきをし、

その手に従って立ち上がる。


足取りはゆっくり。

揺れるほど弱い。


セリーヌは

その背を見送りながら

小さく祈るように呟いた。


「……どうか、少しでも眠れますように」


扉が閉まり、

空気が少し重く沈む。


残されたのは

セリーヌ、ルシアン、エリアスの三人。


――――――――――――――――



しばし誰も口を開かなかった。


沈黙が

そのまま痛みになって

胸に落ちる。


先に息を吐いたのは

セリーヌだった。


「……エリオットが

あんなことになるなんて」


震える声。


しかし

涙は落とさない。


強さと悲しさが

混じった横顔。


ルシアンは

深く座り込むように椅子へ体を預けた。


「……追われていた理由はわからない。

だが、おそらく……帝国が関与している」


エリアスが腕を組む。


「ただの逃亡者を

わざわざ森まで狩りに行く理由は薄い。

……何か“都合の悪い真実”を

握っていたのかもしれないな」


「でも、エリオットは

争ったわけじゃないのでしょう?」


セリーヌの問いに

ルシアンは静かに頷く。


「ああ。

抵抗した形跡はなかった。

……だからこそだ」


エリアスが低くまとめる。


「“理由など関係ないから殺した”

ということだろう」


セリーヌは唇を噛む。


「……理不尽だわ」


ルシアンは

拳を静かに握った。


「――だから調べる」


その声音は

迷いがなかった。


「エリオットが追われた理由。

そしてあの少女――イチの存在。

彼らは、ただそこに

巻き込まれたわけじゃない」


エリアスが頷く。


「繋がっていると考えるべきだな。

エリオットとイチの関係。

なぜ彼女だけが生き残ったのか」


ルシアンは目を伏せる。


「あいつが……

命を懸けても守ったのかもしれない」


セリーヌは

その言葉に胸を押さえる。


言葉にできない痛みが

そこにあった。


「イチは……話せない子よ。

でも、あの子は何かを抱えてる。

目が、そう言っていたわ」


エリアスは静かに息を吐く。


「話せなくてもいい。

痕跡を追えば

何か見えてくるはずだ」


ルシアンは

椅子から立ち上がった。


「――調査を始める」


短く、強い声。


「イチの出自。

どこから来たのか。

エリオットと過ごした日々。

なぜ襲われたのか」


「もう一度、森へ行くか?」

エリアスが尋ねる。


「明日だ。

陽が出てから向かう。

……埋められた場所も、確かめる」


セリーヌが小さく頷く。


「私もできることを探すわ。

イチの身体も心も、

まずは休ませてあげなきゃ」


ルシアンは

ふっと息を吐いた。


「……すまない、姉さん」


セリーヌは優しく首を振る。


「謝ることじゃないわ。

あの子を連れてきてくれてありがとう。

放っておけば……

きっと死んでいたでしょう」


ルシアンは

エリアスと目を合わせ、短く頷いた。


「明日から動く。

それまで……

イチを守る」


エリアスも続けて頷く。


「任せろ。

不審な動きがあれば

すぐに知らせる」


――――――――――――――――




扉の向こう。


イチは

静かな廊下を

メイドに連れられて歩いていた。


歩調は遅く、

視線は落ちたまま。


けれど

その肩は

とても細く

小さく

風が吹けば折れてしまいそうだった。

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