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単調に見せかけて、放たれた魔法攻撃はグニャリと曲線を描きながらこちらに飛んでくる。


(魔法はよく分からないけれど、強いってのは確かね……)


この間の大蛇も強かったけれど、だの大蛇よりか知性はあるし、偽物にしろ人間で魔道士だからそれなりに考えて魔法を撃ってきているのだろう。その証拠に、こちらの攻撃を警戒して、近づけさせないような攻撃をしてくる。

私は明らかに近接がただし、近付くことが出来なければ無意味だ。それに、今はむやみやたらに近づけない。


(守りながら戦うって難しい)


この間は、ナーダ令嬢達を逃がすことが出来たけれど、今回はそれすらさせてくれないようだった。

見た感じ、ウルラと偽ユーイン様は繋がっているから、彼と一緒に逃げてなんていえないし……かといって、ウルラから目を離してノイやユーイン様に危害が及んでもいけない。ウルラがこちら側であれば、多少の魔法は使えるだろうから……


「よそ見か?」

「ッ……!」


そんな声が振ってきて、私はまた間一髪の所で攻撃を避けた。しかし、魔法の威力は強くやはり地面に穴が空く。先程よりも威力が強い。


(逃げてても切りが無い)


「失礼ですが、ウルラ子息。貴方、いったいどういうつもりですか?」

「ぼ、僕ですか?」


ちらりと後ろを見れば、私達から距離をとってノイがウルラに話し掛けていた。出来るメイド、ノイ。ここでその本領を発揮して欲しい。そんなことを思いながら、私は目の前の偽物と対峙する。何処の誰がユーイン様に化けたか知らないけれど首が飛ぶ案件ではないかと。偽物がユーイン様を偽ってユーイン様の株を下げていたら死刑どころじゃ済まされない。


「どうせ、脅されてるんでしょう!」

「す、ステラ嬢?」


私は、攻撃を受けながらウルラに向かって叫んだ。

脅されている、人質を取られている。この線が有力だろう。だからこそ、ウルラは何も出来ないのだ。人質に取られている誰かの為に下手に動けないと。でも、それはよい選択であっても、間違ってる。


「私が、この偽物をぶっ飛ばして、貴方を脅してる人をぶん殴ってやるから、今はノイとユーイン様を守って!」

「……す、てら……嬢」


言葉だけじゃ、説得力無いかも知れないけれど、私は誰かを守りながら何て戦えない。それは、そうやって戦ってこなかったからだし、足枷があると十分に力を発揮できないのだ。

ウルラの顔は迷いで埋め尽くされていた。

ここで首謀者を裏切ったら人質がどうなるか、それを考えているのだろう。どちらに着くのが有益か、彼なりに吟味しているに違いない。


「ッチ……」


絶えず飛んでくる攻撃を避けるのも辛くなってきた。体力的には大丈夫だ。けれど、足場が悪くなってきているのだ。


(元々、私の行動範囲をせばめるきだった?)


偽物は私達が避けるのを見て、ニヤリと笑った気がした。

そして、偽物は更に魔法を放つ。今度は大きな火の玉。

避ければ、この辺り一帯は焼け野原になるだろう。それぐらい大きな魔法。

けれど、私はそれを避けてはいけなかった。ここで防がないと後ろにいるノイ達が危ない。ここは、魔法を粉砕するしか……


(でも出来る? 魔法は確かに粉砕できるけど……)


こんな大きな魔法を砕いたことがない。しかも、魔法は一つじゃない。まだ偽物の魔力は残っている。


(やるしかない……!)


大きく息を吸って、私は攻撃に備えた。後ろでウルラが小さな声で詠唱を唱えているのが聞え、彼も決心がついたのだろう。彼が、ノイ達を守ってくれる。なら、私はこの目の前の魔法を粉砕するだけ。

手のひらがじんわりと熱くなるのを感じ、私はグッと手を握った。


(このドレス、動きづらい!)


締め上げられたコルセット、それが本来の力を封じ込めているように感じた。動きにくいヒールもそれに拍車をかけるように。それでも、もう横に避けるという選択肢はなかった。私は動き憎いながらも、偽物が放った巨大な火球を、拳によって粉砕する。突風が巻き起こり、フッとろうそくを消すように火球は消え去った。しかし、散った火花や、粉砕しきれなかった火の粉がドレスを焼いた。


「……ッ……熱い」


腕の皮膚も少し焼かれ、チリっと痛みが走る。けれど、私はそんなこと気にしてはいられない。

偽物が次の攻撃を仕掛けてくる前に、私は地面を蹴って一気に距離を詰めた。

その瞬間、偽物は初めて動揺を見せた。


(よし、もら……――――ッ)


偽物に拳が届くと思ったその瞬間、履いていたヒールが折れる。私はそのままバランスを崩し地面に頭から突っ込んでしまった。


(こんな大事なときに……!)


急いで起き上がると、目の前には既に偽物の魔法が迫っていた。とっさの判断で体を捻ひねって交わしたが、髪の先と頬は擦れて切れてしまったようだ。


(あと一歩だったのに!)


唇を噛み締めながら、次の攻撃をと立ち上がろうとしたが身体が痺れて動かなかった。もしかしなくても、先ほどの魔法に麻痺状態を起こさせる魔法が付与されてきたのではないかと気づく。私が魔法を粉砕するだろうと詠んでの二重魔法。この偽物はかなりのやり手だと。私のことをよく知っているのでは無いかと思った。


(でも、私は交友関係も狭いのに……)


誰かが、私の情報を流しているに違いない。けれど、その誰かを特定する時間など私にはなかった。


「無様だな。やはり、脳のないゴリラは地面を這い蹲っているのがお似合いだ――――!」

「くっ……」


私を見下ろし、嘲笑しながら偽物はその手に魔力を集め、大きな一撃を放とうとしていた。大きな魔方陣が宙に浮かび上がる。あれを喰らえばまず無事じゃいられないだろう。上手く立ち上がれず、このままではやられてしまう。何かてはないかと、そう思ったときだった。


「んなッ!?」


偽物の手にあった魔方陣は真っ二つに割れて霧のように消えたのだ。

それはまるで剣に切り裂かれたかのように。

そして、偽物は信じられないと言わんばかりに目を大きく見開かせる。私はさらに瞳孔を開いた。

黙々と上がった白い煙の中から見慣れた背中が現われたから。偽物じゃない、その美しいハーフアップの銀髪は風で仄かに揺れていた。


「――――よくも、僕の婚約者に手を出してくれたな」

「き、貴様まさか、本物の……」


偽物が狼狽える。

圧倒的な存在感。凍りつくような空気。先ほどの白い煙とは違う、凍てつくような冷気を纏った彼はゆっくりと口を開く。

その姿を見ただけで、私の心臓は大きく高鳴った。後ろ姿と、その空気だけで分かる。偽物には真似できない圧倒的な……『本物』。


「ユーイン様」

「ステラ、君は動かなくていい。後は、僕に任せろ」


その一言が、かすかに微笑んだような気がしたユーイン様の横顔を見て、キュンと私の心は締め付けられたような気がした。



ゴリラ令嬢は小さくなった第二皇子に恋をする

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