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「もぅいいわ。記念品の? やわもちアイス買ってくる。きなこのやつでいい?」
立ち上がりかけた有夏の腕を、幾ヶ瀬がつかんで引き止める。
「アイスはいいって。それより聞いてよ。今日の計画」
「計画?」
「今日は大事な日だから2人で過ごすんだ」
「大体いつも2人じゃねぇの」
「そういうこと言わない! だから今日は……」
「分かったって!」
幾ヶ瀬の計画はこうである。
朝食後、2人で遊園地へ出かける。
色々な乗り物に乗るのだが、観覧車は外せないらしい。
初チューの思い出を語りながら、中でキスをするイベントが発生するそうだ。
そのあと一緒に雑貨屋へ行き、おそろいのスープカップを買い、夕食はレストランへ。
夜も当然一緒だ。
僅かな隙間すら許さないくらいに密着して愛を確認するということだ。
「キッモ!」
とっさに口走ってしまった有夏を責めることはできまい。
たしかに幾ヶ瀬の乙女思考は日々ムクムクとあらぬ形へ成長していっている気配がある。
「有夏ぁ、デートしたいんだよぉ。俺はぁ」
「は? なにいって……」
縋るような口調に、有夏は顔をしかめる。
「ヤることヤっといて、今更デートもクソもねぇだろ」
「な、何てことを……有夏っ!?」
幾ヶ瀬が絶句する。
彼としては遊園地でなくとも良いのだろう。
恋人と2人で出かけたいという、それはささやかな望みの筈だ。
だが、極力外へ出ようとしない有夏に対しては過ぎた要求であるのも、また確かなことで。
双方、揉めたいというわけでは決してないのに、何となく気まずい沈黙が続く。
それを破ったのは幾ヶ瀬の方であった。
「行こうか、有夏」
「は? どこに……」
身構える有夏に、彼は柔らかく微笑みかける。
「コンビニ。一緒にアイス買いに行こう」
「う、うん……」
差し出された手を、ぎこちなく取る有夏。
瞬時に指を絡め、強く握られて耳朶を赤らめる。
「手繋いで行くよ」
「ヤだよ、恥ずかしい」
玄関で靴を履きながら、幾ヶ瀬の動きが一瞬止まった。
「今の、もっかい言って」
「今の……なに?」
見ると幾ヶ瀬はニヤつきながら有夏の腰のあたりを凝視している。
「……お前はホントに気持ち悪ぃな」
ヒドイと返しながらも、幾ヶ瀬の顔はニヤけたままだ。
「そんな容赦ない有夏が好き。だけどベッドでの素直な有夏も大好き」
「なに言って……」
「だってベッドじゃ全然違うんだもん」
「だからなに言ってんだよ。お前のが全然違うわ」
靴箱の引き出しから鍵を取り出した姿勢のまま、幾ヶ瀬が固まる。
「じゃあさ、普段の俺とベッドの俺。どっちがいい?」
【つづきは明日更新します】