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髭モジャが、慌てて、若へ駆け寄った。


「わ、若よ!どうゆうことじゃ!!」


驚きから動揺しきる髭モジャへ、若は、何故か、はにかみながら、ボソッと言った。


「タマに、力を分けてもらい、喋れるようになり申した。やっと、お慕いしていた、髭モジャ様と、語り合える事ができ、この若は、感無量でございます」


「お慕いっっーーーー?!」


橘が、裏返った声を出す。


「う、牛よ、お、お慕い……とは……?!」


腰を抜かした崇高《むねたか》が、地面に転がりながら、若へ尋ねる。


「あれ?若様は、牝牛ですよ?髭モジャ様に惚れてますよ」


タマが、のほほんと、言ってくれた言葉は、一同を震撼させた。


めすうしっっーーーー!!!!


叫び、皆は、一斉に若を見る。


「き、気付かなかったよ……」


常春《つねはる》が、言う。


「あー、それで、髭モジャに懐いていたんだーー」


納得、と、紗奈《さな》が、呟く。


「う、牛、牛と、あの人がっ!!!お慕い?!ひいーーーー!!!」


橘が驚きのあまり、卒倒した。


「きゃあ!!橘様!」


紗奈が、慌てて抱き起こす。


「そうだ!薬師様を!まだ、いらっしゃるはずよね!!タマ、ひとっ走り、お願い。きっと、染め殿に移した、内大臣様の所の皆の様子をご覧になっているはず!」


「はい、確かに、薬草の匂いが、裏方からしますっ!!」


タマは、紗奈に言われるまま、だっと駆け出した。


「あれ、これじゃー、いつまでたっても、出立できないねー」


騒ぎが起こるのが分かっていたのか、晴康《はるやす》は、童子の見かけらしからぬ貫録を見せている。


「夜になり、暗くなった方が、目立ちませぬよ」


か細い声が、流れてきた。続けて、ニャーと、猫の鳴き声が、響く。


えっ?!


またもや、皆は、固まった。タマの声ではない、モノが……。そして、ニャーとは……。


一の姫猫も、喋ったぁぁーーー!!!


常春、紗奈、崇高は、一斉に、晴康に抱かれている、姫猫を見た。


「あっ、私が、抱いていたから、力が、移っちゃったのかなあー」


「……わかりませぬが……おそらくは……あの香の残りも幾分……働いているか……ニャー……」


一の姫は、ふあぁと、小さく欠伸をすると、晴康の腕の中で眠りについた。


「そうか、そうだ。姫猫も、あの、香を、嗅いでいたのだ。人ですら、錯乱するのに、猫の体では……」


「兄様、確かにそうだわ!」


常春と、紗奈は、頷き合う。


「上野様ーーー!!!」


タマが、全速力で駆け戻って来る。


「薬師様も、鍾馗《しょうき》様も、てんてこ舞い。みんな、叫んだり、暴れたりで!」


内大臣家の、使用人は、香の、効力が抜け始め、幻覚が酷くなったり、諸々、思いもつかない作用が現れているらしい。


「なんですって!」


橘が、意識を取り戻した。


「鍾馗では、役にたちません!私も、お手伝いいたします!」


紗奈の腕から、起き上がり、橘は、染め殿へ向かって行く。


「常春様、大変ですけど、紗奈の事、頼みましたよ」


と、別れの言葉を残して──。


一方、髭モジャと若は……。


「ああ、まさか、このように、髭モジャ様と、語り合える日が来るとは。もちろん、分は、わきまえております。私は、おなご、とはいえ、牛ですから」


「いや、若よ。おなご、というのは、あの、その、ワシには、女房殿がおる訳で、そもそも、若、なぜ、牝牛だったのじゃ!」


などなど、一人と一頭は、ごちゃごちゃ言い合っている。


「若様は、髭モジャ様の髭モジャに、憧れていたようです。タマも、髭があるのに、牛だから、自分には、髭がないって」


「なるほどなぁ。モジャは、なかなか、おらぬゆえ、若も気になったのだろう。というよりも、なぜ、髭モジャに、あの様に懐いていたか、分かって、すっきりした」


タマの説明に、崇高だけが得心しているが、他は、喧々囂々《けんけんごうごう》だった。


「そもそも、若が、牝って、知らなかったの?」


「晴康、それは、私に聞かれても。牛は、牛飼い達に任せているし」


「でも、兄様、牛飼い達が、雄か牝か、わからないってことあるんですか?」


「上野様の言う通り。そうだよ、そこなんだ、常春」


「いや、だから、私は、牛車に、乗っていただけで……牛のことまでは……」


「そもそも、タマですら知ってたのに、髭モジャも、気がつかないなんて、あるの?!というよりも、タマ、なんで、黙っていたのよ!」


「えーー!上野様?!タマのせい?!普通、分かるでしょ?!」


「まあまあ、皆。良いではないか、雄だろうが、牝だろうが、力のある牛には、違いないのだから」


崇高の一言に、そうだなーと、皆、妙に納得した。


そして、晴康が、空を仰ぎ見る。


「日が暮れた。月が出るのも近い」


その言葉に、常春は、ふと、塗篭《ぬりごめ》で、守近と晴康が言い争っていた事を思い出した。


──月。つまり、この世を照す太陽に添うもの──。


「……守恵子《もりえこ》様は、大丈夫だろうか?」


「わたしが、お側で見張ってます」


ふふふ、と、童子は笑う。


すると──。


「今はとて天の羽衣着るをりぞ 君をあはれと思ひ出でける」


一の姫猫が、眠そうに、呟く。


竹取物語の、かぐやの姫が、天女と共に空へ昇る時、残した歌だった。


──今はこれまでと、天の羽衣を着る時に、あなた様のことをしみじみと思い出したことですよ──


「うん、皆、あちらで、たまには、都のことも思い出してよ」


晴康が、どこか、名残惜しそうに言う。


「あー!大丈夫!何かあったら、猫ちゃんに、都まで、飛んでもらうから!」


「だからっ!上野様!姫猫様を、使わないでくださいっ!!」


あーー、すみません、と、紗奈は、怒るタマへ詫びを入れ、常春は、眉間にシワを寄せ、紗奈を咜りつけ……と、別れの時も、いつも通りの光景が、繰り広げられるのだった。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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