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時は『エルダス・ファミリー』による大包囲とシャーリィ達の脱出劇が起きた日の朝に遡る。
シャーリィ達を探しつつ独自に情勢を調査していたカテリナ達も、『エルダス・ファミリー』の動きを察知することとなる。
「検問がもぬけの殻?それは本当ですか?」
高級娼館の一室でカテリナとセレスティンが密談を行っていた。
「それどころか、大規模な移動を各地で見かけてございます。シスターは何かご存知で?」
「昨日の客は何も……いえ、獲物を追い詰めてるなんて話をしていましたね。それと関係が?」
「お嬢様方の所在を突き止めた。すなわちお嬢様方が追い詰められつつあると判断すべきでは無いかと愚考しますが」
「二百人も動員して二週間も逃げられているのは、まさに間抜けのやり方ですがね。貴方の推測は当たっているでしょう」
「では直ちに救助に向かいましょう。この老骨が楯とならねば」
「落ち着きなさい。この程度でやられるほどあの娘達は弱くない。それより、連中の目がシャーリィに向いている間に私達も動きますよ」
椅子から立ち上がりながら話すカテリナにセレスティンは目を細める。
「では遂に所在を突き止めたのですな?」
「昨日の客に、マクガレスの側近が居ましたからね。男は一発ヤると口が軽くなるので楽なものですよ」
古巣の高級娼館で客相手に情報を集めていたカテリナは、『エルダス・ファミリー』最後の主要幹部マクガレスの副官を相手にして、その居場所を抜き取ることに成功する。
「貴女ほどの美女を相手にすれば、口も軽くなると言うものですよ」
「まっ、ベッドの上ほど男の口が軽くなる場所もありませんよ」
「まさしく。それで、所在はどちらに?」
「メインストリートにある百貨店隣の店ですよ。角にあります」
カテリナの言葉を聞きセレスティンは直ぐに脳内に地図を広げ、そして少しばかり表情を険しくする。
「いささか問題がありますな」
「気付きましたか」
「十六番街の地理は把握してございますので。嫌な場所を隠れ家にするものです」
その場所は、『ターラン商会』十六番街支店となる。マクガレスは万が一に備えて『ターラン商会』に身を隠していた。
『ターラン商会』も本来は十六番街で商売は行っていなかったが、半年ほど前にマーサと敵対する派閥が『エルダス・ファミリー』と協力して出店したものである。
体の良い隠れ蓑として、なにより『エルダス・ファミリー』の後ろ楯があるため莫大な利益を挙げていた。
「その通り、嫌らしい場所です。ですが、問題はありません。マーサとシャーリィの間で話は付いています」
「それは初耳ですな」
浴場での密談は三人だけの秘密である。後からルイスも知ることになったが。
「マーサは自分に付いてくる者を本店に集めています。つまり、支店に残るのは強硬派のみ。シャーリィの敵です。遠慮は無用ですよ」
既にマーサは内紛を避けられないと判断して、自分に付き従ってくれる者のみを本店に集めて来るべき時を待っている。
「お嬢様の敵ならば私の敵となりますな」
「その通り。ベルモンドを探して襲撃をかけますよ。今日中に騒ぎが起きる筈ですから、それに乗じてマクガレスの首を取る」
「お嬢様に良い手土産が出来ますな。しかし、ベルモンド殿はどの様に探しますか?」
「噴水公園があるでしょう?あそこで待ち合わせています。万が一のためにね」
カテリナはドレス姿のままセレスティンを連れて娼館を出る。執事服のセレスティンが付き従い、その姿はまるで貴族の婦人と従者のようにも見えた。
「目立つのは嫌いなのですが」
「いつもの修道服では逆に目立つことになりますぞ?貴女は暗黒街で名を知られているのですからな」
「有名になるのも考えものですね」
二人は雑談をしつつ活気の少ない街中を歩く。あれほど街中で睨みを効かせていた『エルダス・ファミリー』構成員は一人も居らず、また何かを感じ取った住民も家に閉じ籠り、まるでゴーストタウンのような有り様であった。
「暴力のみで支配された区域、それが十六番街です。何とも悲惨なものですね」
「願わくば、次の支配者に慈悲があらんことを」
「あり得ませんね」
雑談を交わしながら二人は静かな街中を進み噴水公園にたどり着く。
とは言え公園内部は荒れ果て、あちこちに血痕があり中心にある噴水も破壊されている。かつての平穏な光景を偲ばせるものは無かった。
その噴水近くにある、辛うじて原型を留めているベンチに赤髪の青年が座っていた。
「やはり来ていましたね、ベルモンド」
声をかけると青年は顔を上げて苦笑いを浮かべる。
「毎日正午に必ずベンチに座っとけって言ったのはシスターだろ?」
「ちゃんと約束を守れているようで何よりです。そちらの用事は終わりましたか?」
「ああ、まあな。そっちも元気そうだ」
ベルモンドは個人的に因縁の有るもの、或いは後々危険になりそうな構成員を片っ端から始末していた。
もちろんシャーリィの許可は得ており、包囲された状態で気にはなっていたがルイスを信じて自分の仕事を優先していた。
「早ければ今夜にでも状況が動きます。騒ぎに乗じて私達はマクガレスの首を挙げますよ」
「奴の居場所が分かったのか?」
カテリナが経緯を説明すると、ベルモンドは苦々しい顔をする。
「マクガレスらしいやり口だな」
「今回『エルダス・ファミリー』に銃器を流したのも、その支店であると突き止めています。つまり、敵です」
「お嬢が話を付けてるなら俺から言うことはないさ。それで、三人で乗り込むとして支店の奴らは?」
「抵抗するなら始末するだけです」
「シスターらしいな。セレスティンの旦那はどうなんだ?」
「この老骨は、お嬢様のお心を煩わせるものを速やかに処理するだけでございます」
優雅に一礼するセレスティン。
「違いない。んじゃ、派手にやるか。お嬢を助けるのはその後だな?」
「いいえ、事を成したら農園に戻りますよ。残っていては、バカ騒ぎに巻き込まれてしまいますからね」
「ばか騒ぎ?」
「リースが、『オータムリゾート』が狙っているのです。大幹部を全て失った『エルダス・ファミリー』にはどうすることも出来ないでしょうが、街中で派手な戦いが起きますよ」
「『ギャンブルの女王』が動き始めたか」
「あの娘は分の悪い賭けはしない。つまり勝算があるから動くのです。巻き込まれるのもバカらしいと思いませんか?」
「だな。それじゃ、行くか」
ベルモンドは立ち上がり、隠していた大剣を噴水の裏から取り出す。
「得物をそちらに隠しておられたか」
「目立つから隠してたんだよ。旦那は?」
「ナイフを少々嗜む程度でございます」
「おっかないな。シスターは?その服で行くのか?」
「何かと都合が良いので。武器に関しては心配なさらず」
スカートの下から愛用のMP40を笑顔で取り出すカテリナ。
大人達の逆襲が始まろうとしていた。