テラーノベル
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今回が最終話です!
よろしくお願いしますヽ(*^ω^*)ノ
後ろ姿は一瞬、びくりと肩を揺らした。
それから、ゆっくりと――ゆっくりと振り返る。
そこにあったのは、
記憶の中と少しも変わらない、あの笑顔だった。
『……レトさん』
にっこりと微笑むその顔を見た瞬間、
レトルトの胸に張りつめていたものが、音を立てて崩れ落ちた。
「キヨくん……っ」
堪えていた涙が一気に溢れ出す。
足が勝手に前へ動き、気づけばその腕の中へ飛び込んでいた。
「ずっと……ずっと忘れてて、ごめん……」
「俺のせいで……俺のせいで死なせてしまって、ごめん……」
声は震え、言葉は途切れ途切れになる。
それでも止められない。
「俺が……フィギュアなんか買いに行こって誘わなければ……」
「キヨくんは……死なずにすんだのに……!」
後悔も、罪悪感も、恋しさも、
全部が一緒になって、涙とともに溢れ落ちる。
嗚咽混じりの声を、キヨは何も言わずに受け止めていた。
背中に腕を回し、そっと抱き寄せる。
『……違うよ、レトさん』
耳元で、優しい声がした。
『俺は、自分で選んだんだ。 レトさんを守るって』
キヨは少しだけ腕に力を込めた。
『後悔しなくていい。 忘れてたことも責めなくていいんだよ』
夜風が吹き、遠くで街の灯りが揺れる。
二人を包む淡い光の中で、キヨは微笑んだ。
『1日遅れちゃったけど誕生日、おめでとう』
その言葉に、レトルトは声を上げて泣いた。
もう一度、確かめるように、ぎゅっとキヨを抱きしめながら。
キヨの胸の中で、声が枯れるほど泣いて。
どれくらい時間が経ったのかも分からないまま、 レトルトはゆっくりと目を開けた。
――その瞬間だった。
抱きしめていたはずのキヨの身体が、淡く、透けていた。
その向こう側に、宝石みたいに瞬く街の夜景が見える。
さっきまで確かに感じていた温もりさえ、少しずつ薄れていく。
「……キヨ、くん……?」
呼ぶ声は震え、指先が無意識にキヨの服を掴む。
掴んでいるはずなのに、指の間から零れていく感覚。
キヨは困ったように、でもとても優しく笑った。
『レトさん、ごめん。 俺、そろそろ……いなきゃ』
その一言で、レトルトの心臓が強く跳ねた。
「やだ……!」
反射的に、必死にしがみつく。
離したら、もう二度と会えなくなる気がして。
「行かないで……!お願い…. やっと思い出したのに……!」
「やっと、会えたのに……!」
しがみつくレトルトの背中に、キヨはそっと腕を回した。
力はほとんどないはずなのに、その仕草はあまりにも優しくて、あまりにも慣れていて。
『……生きて』
低く、静かな声だった。
『生きてほしいんだ、レトさん。 大好きな人だから。 俺の分まで、ちゃんと幸せになってほしい』
懇願するようでも、押し付けるようでもない。
ただ、願いをそのまま差し出すみたいな声。
それでも、レトルトは首を横に振った。
「やだ……! 絶対、いやや…!」
縋る指に力がこもる。
「キヨくんがいなきゃ意味ない……! キヨくんがいない世界で生きてるなんて、死んでるのと同じや!」
嗚咽混じりの声が、夜の静けさを震わせる。
「ずっと一緒にいるって言ったやん! スターチスの花言葉みたいにって約束したやろ?」
「……約束、破るの?」
その言葉に、キヨの胸がきゅっと締めつけられた。
――ああ、知ってる。
こうなったレトさんは、絶対に折れない。
優しくて、弱くて、でも一度決めたら誰よりも頑固で。
自分の気持ちを曲げるくらいなら、全部抱えて壊れてしまう人だ。
キヨは小さく息を吐き、ほんの少しだけ困った顔をした。
『ほんと……変わんないよな』
そう言って、レトルトの額に自分の額を重ねる。
触れているはずなのに、感触はもう曖昧だった。
頑なに縋りつくレトルトの腕の中で、キヨの輪郭はゆっくりと薄れていく。
光の粒子みたいに、夜に溶けてしまいそうで。
――もう、残された時間はほとんどなかった。
それでもキヨは、焦った顔ひとつ見せずに微笑った。
伝えるべき言葉を、慎重に選ぶように。
『……レトさん』
その声は、もう風に紛れそうなほどか細い。
『俺と、永遠を誓える?』
『生きる世界が変わっても』
『……ずっと、離れないって誓える?』
試すような問いじゃない。
縛るための言葉でもない。
ただ、レトルトの“意志”を確かめるための問いだった。
レトルトは一瞬も迷わなかった。
消えかけたその姿を両手で包むように見つめ、涙に濡れたまま、まっすぐに答える。
「誓える」
声は震えていたけれど、迷いはなかった。
「キヨくんは……俺の全てやから」
「過去も、今も、この先も」
「キヨくんがいない世界なんていらない」
喉が詰まりながらも、言葉を続ける。
『……わかったよ』
そう言って、キヨは少し困ったように、それでも愛おしさを隠しきれない顔で笑った。
その笑顔は、生きていた頃と何一つ変わらなくて、レトルトの胸をきゅっと締めつける。
キヨはそっと身を屈め、レトルトのおでこに優しく口づけた。
次の瞬間、キヨは力いっぱいレトルトを抱きしめた。
離れまいとするように、確かめるように。
夜の公園に、風の音だけが残る。
見上げた空には、雲ひとつない星空が広がっていた。
瞬く星々が二人を包み込み、
まるで祝福するみたいに、静かに、静かに輝いている。
レトルトは強く目を閉じた。
もう、怖くなかった。
愛している人が、ここにいる。
そして、永遠を誓った。
公園にはもう誰の姿もなかった。
ただ、星空だけが変わらずそこにあった。
消えたのではない。
失われたのでもない。
二人は、同じ星空の中へ溶けていったのだ。
愛という名の、永遠の場所へ。
そしてその夜、
スターチスの花言葉は、静かに叶えられた。
――永遠に、変わらぬ愛を。
【ニュース速報】
今朝早く、○○市にある丘の上の公園で、成人男性1人の遺体が発見されました。
警察によりますと、遺体に目立った争った形跡はなく、現在のところ自殺の可能性と、第三者が関与した可能性の両面から慎重に捜査が進められています。
男性の身元については現在確認中で、遺体は公園内のベンチ付近で発見されました。
また、男性の手にはスターチスの花束が抱えられていましたが、警察は事件との因果関係については分かっていないとしています。
警察は、防犯カメラの映像解析や関係者への聞き取りを行い、詳しい状況を調べています。
――静かな朝の公園に、
永遠を誓ったスターチスの花だけが、残されていた。
終わり
コメント
7件
想像力をフルに働かせながら読ませて頂きました。言葉にできない切なさをしっかりと言葉で表現されていて素敵でした。始まりのレトさんがあまりにもイメージと違ったのでなにかあるなと思いながら読んでいましたが、想像を超えた展開に息をのみました。おわり方も儚くてBADととるかHAPPYととるか様々な視点で妄想できて涙涙でした…次の話を読む前に溢れる感想を伝えたくて。偉そうに失礼しました。
あああ…これがメリバというものなのか…気になってスターチス調べてみたんですけどめちゃくちゃ綺麗なお花ですね!儚げな感じとかちょこんとした小さい感じとかかわいい… 相変わらず言葉選びやストーリー展開がオシャレで面白かったです!魑魅魍魎さんの小説大好きです!!!!!!ずっと読み続けます!!!!!!

儚い感じも凄く素敵です、!最終的には一緒になれたことに少しホッとしてしまいました、、素晴らしい作品ありがとうございます!!