『それは、個人的な復讐に過ぎない』
夜の静まり返った街を楽しそうに歩く。目指す所はこの街の1番のお偉いさんの家。名前は忘れてしまったので貴族さんとでも呼んでおこう。私は、その貴族さん達を根絶やしにすることをとても強く望んでいる。
少し歩くと、まだ明かりのついた大きい家が見える。何やらパーティーでもやっているような雰囲気を感じる。ここが目的地だろうなと半ば確信しつつ門をくぐろうとした。
「おい、お前。そこで何をしている」
門番らしき人物に声をかけられたが、ノールックで首をすっ飛ばした。
話すだけ、無駄じゃない?だって話通じないし。
案外あっさり入れた家の中は、とても暖かく賑わいの声で溢れていた。その中に罵声や憎しみという類の物を一切感じることがなかった。この家の主は、余程皆に慕われるいい人だと確信する。
バンッ!と格好良く扉を蹴飛ばす。うん、とてもいい気分。
「……誰かな?招待状などはお持ちで?」
にこっと笑う。そして、次の瞬間周りに居た20人程の首をすっ飛ばす。
「……これまた、随分と派手なご令嬢だ」
20人ほどの首をすっ飛ばしたのに随分と冷静だなと思う。人の情とか無いの?この人。
もう興味も湧かないので当主と思わしき人物以外の首を刎ねる。鮮やかな赤い血が周りに浸透してきて、鉄の匂いが充満する。
「……中々、派手なご令嬢だな。要件はなにかな?」
なんだろ、この人。金銭で全てを解決出来ると思っている雰囲気がする。人の命は買えないよ。残念。
そう思って首をすっ飛ばす。鈍い人の倒れる音がしてにこっと笑う。うん、いい気分。
そして、誰もいなくなった屋敷を正大に爆破して楽しそうに夜の街へと歩き出した。
新聞やニュースのトップを飾る殺人鬼。今回はまたしても派手に貴族様をぶっ殺したらしい。
その中を、楽しく歩く私。私の名前は蒼音。貴族様を死ぬほど憎んでいる殺人鬼の、少女だ。
私の生まれた大陸は「人間の国」という大陸だ。今は名を変え「世界から愛された国」と呼ばれている。国の名前が変わるなんて、余程のことがない限りないと思っていた。…その大陸の王が変わるなんて、一体誰が予想出来たのだろうか?
私達の国は、人間しか入れなかった。この世界には様々な人間から外れた奴らが沢山いる。例えば、八大陸の「神の使い」。例えば、死から離れた国の「吸血鬼」。例えば、アシッド教の「天使」。例えば、世界から愛された国の「世界から愛された者」。この世界には、人間という人間の方が少ない。その中で、唯一人間だけで作られた大陸。それが私達の愛すべき故郷、「人間の国」。
それも、もう昔の話だ。
私達の国王は、確かに国民に愛されていた。その中でも姫様は特に愛されていた。姫様を守る騎士も、忠実に姫様を守っていた。何よりも、王家の人達は家族の絆が深かった。それを、私達国民は知っていた。逆に、国民達のことを王家の人達は大事にしてくれた。
だが、それも少しずつ狂ってくる。世界から愛された国にしか生まれなかった特殊な目を持つ人間が、私達の大陸にも生まれた。もちろん、困惑だ。だってその人達は私達の大陸では生まれないはずだから。そして、しばらくしない内にふつふつと王家に対して反感を抱く人間が増えてきた頃に事件は起きた。
「人間の国」が、「世界から愛された国」と「アシッド教」と統合した。
私達の王家の人達は失脚した。そして、溜まりに溜まっていた反感のほとんどが王家に向けられた。
“俺達の国を返せ”
“なぜこんなことを!?”
“王家なんて、所詮名ばかりなのか”
もちろん、王家の人達は死んだ。姫と騎士だけは生き残れたらしいが、それも信憑性が無いに等しい噂だ。
そして、その混乱に乗じてお飾りだけの貴族様が人間達を統率しようと目論んだ。
そいつらは人を支配する為に、人を殺した。たくさん、たくさん、殺して、挙句の果てに、支配するのを諦めた。
その中に、どれほど大切な人がいたと思っているんだ。
私の大切な、唯一無二の家族は、そいつらに殺された。酷く、残忍に。
その時、私は全てを失って空っぽになった。大切な人が生きていない世界に、なんの希望すら見い出せなかった。この世界に、何も思い残すことなど無かった。一体、どれだけの恨みを買ったのだろう。あの貴族共は。
なのに、なのに、なのに!なのになのになのに!!!!
なんで、あいつらがへらへら笑って生きているの。私達からすべてを奪ったくせに。
その瞬間、皮肉ながら私は世界に選ばれた。人殺しに特化した術を私は手に入れた。
その瞬間、思ったよ。
もう、どうせこの世界に希望すらない。
家族にも、会えない。
なら、もう、何もかも壊してしまえばいい。
憎ったらしい貴族様を全員ぶっ殺してあの世に逝ってやる。
呪えるもんなら呪ってみろ。
死んだ家族に怒られる?それを理由に会いに来てくれるなら嬉しいよ。
私から、全てを奪った貴族が憎い。
相手の理由?知らねぇよそんなの。私は、私の好きなようにやる。
そうやって、貴族殺しの殺人鬼、「蒼音」が誕生した。
殺せるものなら殺せ。家族に会える。
復讐?そんなの私のせいじゃないでしょ。私だって巻き込まれた側だ。文句なら死んでから家族で話し合え。
もう、何も失うものなんてない。
「世界から愛された国」の貴族様を、漏れなくぶっ殺してやる。それが、私の、命が脈打つ理由だ。
コメント
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門番に声をかけられた瞬間、首を飛ばし、貴族様の家に侵入してからも躊躇なく人を殺 し て い く姿や家族に嫌われるかもしれないのに復讐を続ける姿がかっこいい……!! けど、その行動には「貴族様に家族を殺 さ れ た」という絶望的な理由があって読んでて凄く胸が苦しくなったのに更に世界に選ばれてしまって蒼音さんの人生は残酷で少しでも蒼音さんが幸せになって欲しいと思った……😭😭