『それは、世界を憎んだ故の行動だ』
ルンルン気分で街を歩く。私、蒼音は今日もぶっ殺すべき貴族様を探している。
ちなみに気分はルンルンではない。むしろ今日の夢が家族を惨殺される夢だったので目覚め最悪である。外見くらい取り繕わないと自分が壊れそうだった。取り繕う労力は、自分の為に使わないと、ね?
本日のターゲットはかつて人間の国に居た4人の貴族様の1人。名前は知らない。多分無いんじゃない?あったとしても貴族様は階級で呼ばれることの多いこの国のことなのだから多分呼ばれない。この「世界から愛された国」は名前を呼べるのは同じ位の人間のみとされている。だから、この大陸で愛された人達は皆2つ名と呼ばれるものがある。基本的にはその人の見た目や能力が関係していてこの世界で”調停者”と呼ばれる人がその名前を考えている。多分暇人だ。知らないけど。
ちなみに私の2つ名は”楽譜”。楽譜の蒼音である。センスの欠片も感じない。オマケにびっくりするくらいどうでもいい。
そして、私は”調停者”に微塵も興味を感じない。この大陸だけではなくこの世界で通用する名前ではあるが敵対したら負ける気がする。
むしろ、私が気になるのはアシッド教教祖代理だ。この世界の代表的な宗教であるアシッド教。そこの教祖代理が、私達の大陸を壊した。元々世界から愛された国に天狐教が、アシッド教はアシッド教の大陸が存在した。だから、恨むべきは天狐教なのだが天狐教はアシッド教を敵対認識していると聞いている。自分で集めた情報じゃないから信憑性には欠けるけど選り好みをしている場合でもないし自分で集めるのも面倒だ。頭の片隅に入れてる感覚。ぶっちゃけ、天狐教を相手にしたくない。それに話を吹っ掛けたのはアシッド教の教祖代理補佐だと聞いている。噂によると、情の欠けらも無い人間なのだとか。
まぁどうでもいい。今日の殺しも終わらせてしまおう。情け容赦一切無しで、最高に楽しくやろう。ブルーは好きだけど感情まで引っ張られるのは違う。己を捨てずに己を殺して、才能に、身を任せて。
屋敷に着くと、早々に顔を歪ませる。嫌な匂いと、音だ。
穏やかな心音と、緊張の心音の両方が聞こえる。なにか、気持ち悪い。直感だけど、外した事がない。故にそれは真理だ。
またしても扉を蹴飛ばす。護衛の人が居なかったけど、ここの人は本当に思考が読めないな。
「おや、誰かな?」
貴族様は、取り繕う気力を他人の為に使う。媚びて媚びて、ようやく息が出来る。だから、言葉が浮ついて信憑性に欠ける。そこに絡んだ因縁の数に応じて言葉はどんどん軽くなる。……はぁ。我らの国王は、そんなお人じゃ無かったのに。姫様は、もっと信じられた。姫様はお優しく、その目が穢れることが無かった。
…今となっては、ただの思い出だ。貴族様の言葉に少しイラついて思うままに人を殺した。いつもより多く殺しております。
「…おや、随分と活発なご令嬢だ。さては…貴族殺しのお人かな?」
聞いた所で殺すのに、何聞いてるのこの人。
「……声すら聞かせてくれないとは、奥ゆかしいご令嬢だ。せっかくのお顔が汚れますよ」
あぁこいつ最低だ。よし、殺そう。思い立ったが吉日、すーぐ殺した。
よし、任務完了。帰ろう。
そう思って歩いていたら小さな手が私を遮った。
「まって、いかないで」
……小さな男の子?年齢は…多分10にも満たない。
「おねえさん、ぼくはころしてくれないの?」
おい誰だこんなに幼い子に殺しを教えたのは。さっきの貴族か?もう1回切り刻んでやろうか?
「…私に君を殺す理由がないよ。なんで君は殺されたいのかな」
「……だって、みんなしんじゃった」
……なるほどね?親の仇に殺せと言うのか。不思議な思考回路を持っている。
「ねぇ、おねえさん。しぬのは、いたい?」
…くそ、帰るつもりだったのに。長居は厳禁だ。分かってる。でも、この子可愛いんだもん。しょうがなくない?
「……私がやれば、痛くないよ。ほら、見える?この糸。私が作った糸なんだけどね、これなら痛くないよ」
「……おねえさん、やさしいんだね。みんな、さけんでいたがってしんじゃった」
……それ、拷問の類では?
「おかあさんも、おとうさんも、みんな、めのまえで」
「え……?」
……この子、さっきの貴族様の子供じゃないの?拷問を受ける親を見させられた挙句の果てにここにいるって言うの……!?
「……ねぇ、君。そこの場所、分かる?」
「うん、ここのした」
下…。つまり地下の類か。なんか不思議な音がすると思ったけどそれのせいなのか…?
「……そっか。君、死にたいの?」
「…だってみんな、いないもん。おとうさんも、おかあさんも、おねえちゃんも、いもうとも、みんな、みんな、いなくなっちゃった。ぼくだけ、ぼく、ひとりぼっち…」
……驚いた。思った以上の人を失ってた。…この子、殺すには惜しい。でも私が引き取る訳にもいかない。
「……君、ここに残って警察達を待っていたらいいと思う。私のことを正直に話してもいいし話さなくてもいい。君の、好きなようにするんだ。これからは、君の好きなように生きたらいい」
保護施設に勝手に行くのも違う。この子が望んで、この子が歩いて、この子が選ぶ。これが私の教育方針だ。多分表でやったら訴えられて負ける。
「…うん」
この子、澄んだ目をしているなぁ…と思いつつ頭を撫でてその場を後にする。
その後、地下にいた人間は皆殺しにしておいた。
私は、世界に選ばれた力を持っている。蒼色の目が、その証である。普通なら一人に一つしかない力を、何個も持っていた。その中の一つにとても鋭利な糸を作り出しそれを自由自在に動かせる力があった。それを駆使して、人を殺す。与えられた力が、必ずしも与えた人間の思い通りになると思わない方がいい。私は私の持っている力の全てを人殺し…貴族殺しに使う。
次の日の新聞で、また貴族殺しがされたと報道された。生き残った少年は隠れていた為殺されなかったらしく隠れていた故殺した人の姿を見ていないと言ったらしい。
コメント
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残酷な夢を見たのに笑顔を取り繕ってるなんて……自分が壊れないためとはいえ、無理して笑顔を作るのは辛いことなのに……💦 え、子供……??しかも貴族様の子供じゃない……??今回蒼音さんが殺 し た貴族様は別の人間を殺 し て たってことだよね……いくらなんでも幼子の目の前で親…家族を殺 すなんて酷すぎる…… 子供は最後まで蒼音さんのことを話さなかったんだね……!!さすが✨✨