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※モブレ未遂の描写があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
❤side
ありがたいことに出演させてもらうことが多くなったバラエティ番組のディレクターに気に入ってもらえているようで、今日は飲み会に呼ばれている。こういうとき、自分が酒に強いことにいつもありがたみを感じる。そのほうがヘマすることもないし、色々と安心だ。
そんなこんなで幕を開けた飲み会も終盤に差し掛かっており、酒の混ざった匂いと浮かれた空気が充満する宴会場のような個室で、俺は完全にできあがっているディレクターの隣に座っていた。
若手からベテランまで幅広い俳優さんたちなり、ほぼ毎日テレビで見るような芸人さんたちが入れ替わっていくのをぼんやりと見つめていると、突然太ももに他人の手が触れ、声を上げそうになった。
あー、これ最悪なパターンかもしれない。
不意に触れたその手がさわさわと怪しい動きをし始めて、俺は吐き出しそうになった溜め息を無理やり飲み込んだ。
大手のディレクターだ、きっと周囲は見て見ぬふりで終わる。さて、どう断りを入れればいいか。
そんな事を考えているうちに不快な熱を持った年老いた手のひらは慣れた手つきでベルトを外しはじめ、流石にそこまでされると思ってもいなかった俺は目を見開いた後に、気に触れないよう丁寧に話しかけた。
この業界は繋がりと評判が命取りになる。俺だけが干されるならまだしも、俺のせいでグループに傷がついたり、メンバーに迷惑をかけるわけにはいかない。
❤「ちょ、〇〇さん、酔いすぎですって」
こんなことには慣れている、いやこういう手口で常習的にタレントに地獄を見せているんだろうことが伺えるほどのスルースキルで、俺の言葉など耳に入っていないようだった。
ウエストから入りこんだ手が下着越しの性器に触れる。遠慮のないその動きに、微かに恐怖心が煽られた。
え、まじで、ここで無理やりやらされるわけじゃないよな?
こんな沢山人いるし、流石に違うよな???
分からない。分からなくて、怖い。身体の自由が段々と利かなくなっていくのを感じた。
感じているどころではなく全く快楽の生まれない性器を弄っていた手が、そろりと後孔へ伸びていくのに気がついてしまい、俺は思わず目を瞑った。すると不快な笑い声が耳元でして、そのままの位置で薄気味悪いような声で嘲るように囁かれた。
デ「宮舘くんってこっちなんだって? 風の噂で聞いたよ」
❤「デ、マです、ね」
デ「その割にはほぐれすぎじゃない? ねぇ、今から一緒にホテル行こうか」
嫌だって、やめろって言わないと、言わないといけないのに、言葉が喉から出てこない。左手が大げさなほどに情けなく震えている。
いやだ、目黒以外の男になんて抱かれたくない。気持ち悪い。感じることができれば誰でもいいなんてわけがない。いやだ、離せ、離して。
喉を締められたように呼吸さえも上手くできなくなりはじめた頃、突然、震えが止まらずにいた左手がそっと誰かの手によって包まれた。
🖤「すみません、宮舘は体調が優れないみたいなのでこの辺で帰ります」
❤「…………ぇ」
涙でにじみかけた視界に映ったのは、いつもの柔らかな笑顔……ではなく、有無を言わせないような圧のある笑顔を貼り付けた目黒だった。
耳元で舌打ちが聞こえたものの、そんなことは今どうでもよかった。目黒の存在に安心したのか、柄にもなく涙が止まらなくなった。
🖤「舘さん、行きましょう」
そう言われディレクターから強引に俺を抱き寄せそのままスムーズに姫抱きにされ、駐めておいたであろうタクシーへと降ろされた。
そして、目黒は俺のシートベルトをかけてから俺が言い慣れている住所を運転手に告げ、未だ震える俺の手をそっとやさしく温かな体温で包みこんでくれた。
🖤「……遅くなってごめんなさい、もっと早く向かっていれば、」
それ以上の言葉を目黒は口にしなかった。強い怒りのような、何かを苛むような暗い表情を灯した彼の手には段々と力がこもりはじめ、仲間思いな男の優しさに固まっていた心は次第に和らいでいった。
それでも纏わりついた不快感は拭えず、俺は懸命に意識を目黒に向けた。
もうあの男はここにはいない。隣にいて手を握ってくれているのは目黒だ。もう、大丈夫。
車窓の外を流れる景色が見慣れたものになっていって、俺達の行く先をぼんやりと考えた。
数カ月も我慢をして、やっと関係を断ち切れそうになっていたというのに、俺は今、目黒に抱かれたくて仕方がない。
上書きしてほしい、嫌なことを俺の頭から全て消し去って欲しい。目黒に俺の全てを埋めてほしい。
もはや自分の欲に従うことしかできなくなりはじめた思考は、甘ったるい想像を繰り広げていく。
今日は嫌なことがあったんだ。だから、許して。
縋り付く思いで隣に座る目黒へ目を向けると、バッチリと目があってしまった。同じタイミングでこちらを見ていたらしい目黒の瞳が、いつもより幾分か暗く黒く燃えているように見え、俺は息を呑んだ。
あぁ、こいつ、ちゃんと怒ってる。
身体の奥からじんわりと悦びが湧き上がってきて、俺は目黒の瞳から目を離せなくなった。
俺のことで、目黒の感情がこんなにも乱れている。それを感じ取ってしまえばもう、どうしようもないほど目黒を愛してしまっている俺は、優越に溺れていくことしかできない。
玄関に入り込むと同時に俺は目黒を壁に押さえつけ、待てのできない犬のように唇に噛みついた。目黒は一切抵抗せず、ただ、俺を見つめていた。
久々に目黒に触れることができた喜びのせいなのか、それとも先程の穢れを落とせていることへの安堵なのかは分からないが、いつもより肌は熱っぽく、思考が茹だっていくのも早かった。
欲に溺れた俺は挑発するように目黒の長い両足の間に膝を押入れて舌を絡めていった。忙しくて発散できていなかったのか、目黒のそれはもう十分反応を示していて、それに気づいた俺の従順な身体は期待に震えた。
❤「目黒」
🖤「なんですか、舘さん」
❤「……抱いてくれ」
喉から絞り出すようにそう言うと、気がついた頃には再び姫抱きにされていて、その足は寝室へと向かっていた。
服の襟元から仄かに目黒の煙草の匂いがして、そんな些細なことにすら興奮は高ぶっていく。
こんなときでも俺の扱いを雑に済ませない目黒に胸がぐっと締め付けられる。「キス、してもいいですか」そう優しく問われて俺は静かに頷くと、慰めるような、毛繕うような柔らかなキスが降り注がれた。甘く蕩けてしまいそうな行為に、なぜ許可を求めたのかという疑問を僅かに残ったまともな思考で考えながらも、俺は目黒に身を委ねた。