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『やりたいことがないまま進路希望を出す』

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『やりたいことがないまま進路希望を出す』

8 - 第8話言葉にしないと、先生には伝わらない

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2025年12月06日

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第7話 言葉にしないと、先生には伝わらない

月曜の朝、教室に入った瞬間に、

西尾先生が黒板に書かれた文字が目に飛び込んできた。




《進路個別面談 今週・来週で全員実施》




クラス中から、

「うわー」「ついに来たか」という声が上がる。




村上が椅子に座りながら振り返った。




「安藤、お前さ……

面談でなんて言うつもり?」




「その話題、朝イチから出す?」




「だって気になるだろ。

“やりたいこと分かってない代表”なんだから」




的確すぎて反論できない。




俺は鞄を置きながら、ため息を一つ吐いた。




「まあ……“まだ決めてないけど、方向は少し見えてきた”って言うつもり」




「へえ、前よりマシなやつじゃん」




「山本さんに色々整理してもらったからな」




言うと、村上は納得したように首を縦に振った。




「いいじゃん。

あの人、話しやすそうだったし。

……で、国公立はちょっと考える気になった?」




「ゼロではなくなった、って感じ」




「おお、成長じゃん」




軽く背中を叩かれる。

けれど、まだ本番はこれからだ。







放課後、進路指導室。

扉をノックすると、西尾先生が資料の束を抱えたまま顔を上げた。




「よし、安藤。入れ」




丸テーブルに座り、

先生が俺の調査票を一枚めくって言った。




「“やりたくないことリスト方式”……

お前、これ意外と筋が通ってきたな」




「あ、見たんですかそれ」




「当たり前だ。

担任に提出した以上、読むに決まってる」




言いながら、先生は赤ペンで何かを書き込みつつ続けた。




「で。

山本さんから連絡もらった。

“安藤くん、進路の棚卸しがうまいタイプですよ”ってな」




「……棚卸しって俺なんかの商品ですか」




「進路指導ではよく使うんだよ。“棚卸し”」




先生は、指で机を軽く叩いた。




「で、現時点の整理としては──

文系寄り、

国公立か私立文系、

専門・短大は保留……で合ってるか?」




「あ、はい。そうです」




「じゃあ次。

“その中でも、避けたい領域”は何が残ってる?」




昨日山本さんと話した内容が、そのまま口をついて出る。




「理系は今の自分には厳しいです。

あと、英語ガチ勢の国際系とか、プレゼンばっかりの学部は……」




「苦手だな?」




「はい」




先生はきれいに丸をつけ、斜線を引いていく。




「よし。

ここまでは“避けたい領域”の整理。

次は“使える科目”」




「使える科目……」




「世界史、嫌いじゃないんだろ?」




「……なんで知ってるんですか」




「昨日の山本さんの報告に書いてあった」




また情報共有されていた。

恥ずかしさと安心が、同時に込み上げる。




「世界史とか社会系が苦じゃないなら、

文系学部での選択肢はそれなりに広い。


ただし──」




先生はペンを置き、指を組んで俺を見た。




「“大学に行けば何とかなる”と思ってるなら、それはやめとけ」




鋭い言い方だった。




「……そんなつもりじゃないですけど」




「お前は、“決められないまま大学に入ったら後悔するタイプ”だ。

自覚してるか?」




図星すぎて、黙る。




先生は深く息を吐いた。




「安藤。

高校の時期に“決まらない自分”がいていいのは、確かだ。

でもな──“決まらない理由”だけは言葉にしとけ」




「……理由」




「そうだ。

“やりたいことがないから決まらない”じゃなくて、


・知らないことが多すぎて決められないのか

・怖くて踏み出せないのか

・どの選択肢もピタッと来ないのか


これを区別しておけ。

そうしないと、大人はお前の状態を読み違える」




「……なるほど」




確かに、昨日の山本さんとの会話で、

“分かってないのは、何が分かってないのか”だと感じた。




「それと──」




先生は何かを思い出したように目線を下げた。




「今年、元教え子が学校に来られるかもしれない。

宮崎って子だ。覚えてるか?」




「あ、なんか聞きました。

一度就職してから進路変えた人、ですよね?」




「そう。

“決めたあとに変える”側の経験者だ。


大学に行ったやつの話だけじゃなく、

“遠回りした大人の話”も聞いとくといい」




宮崎さんの存在が、急に身近なものとして感じられた。




「お前は“今の時点では文系進学寄り”だが、

固定しなくていい。


大事なのは──」




先生は、俺の調査票を指先で押さえた。




「“言葉にしておくこと”だ。

進路は、黙ってたら誰も読み取れない」




言葉にする。

昨日の山本さんの「棚卸し」と、同じ方向の話だ。




「……分かりました。

とりあえず、“今分かってること”は全部書き出しておきます」




そう言うと、先生は少しだけ笑った。




「うん。

それでいい。

“昨日よりちょっとマシ”を積み上げろ」







進路指導室を出ると、

廊下の窓から夕方の光が差し込んでいた。




カバンの中からノートを取り出し、

歩きながらページをめくる。




昨日のメモには、

『“決まってなくていい時間”を、ちゃんと使う』

と書いてあった。




その下に、新しく書き足す。




『決まらない理由を、言葉にしておく』




ノートを閉じると、

胸の奥にひとつだけ輪郭のはっきりした感覚が残った。




――決まってないけど、確実に前より進んでる。




初めてそんな実感が、ほんの少しだけ

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