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第28話「食べることができた朝」
登場人物:ナギノ=ルア(草食・海藻依存型)×シオ=コショー(潮属性・非常勤講師)
朝の食堂は、波域によって仕切られている。
草食属性のエリアは、静かで、温かく、潮の香りが薄い。
けれどその一角、ひときわ小柄な少女──ナギノ=ルアは、椅子に座ったまま、皿を見つめていた。
波打つような薄緑の髪、目元には海藻のように柔らかい焦り。制服は草食型特有の吸湿素材。
「食べたいのに、食べられないんだ」
彼女は呟いた。
原因は“昨日の深層試験”。共鳴に失敗し、波が乱れ、味覚が崩れた。
草の味が“溺れた海”みたいに感じる。喉が拒絶する。
そんな彼女の前に、シオ=コショーがそっと座った。
いつもの作業着姿。目の下に隈を浮かべていても、手には小さな弁当箱。
「これ、食べてみる?」
蓋を開けると、中には湯通しした薄い海藻と、ごく少量の潮だれ。
草食型に合わせ、限界まで塩分を抜いた構成。
「これ、わたしでも──?」
ルアが箸を取る。恐る恐る口に入れる。
味は……「波、じゃない……土、だ」
懐かしい。まだ海の“性質”を持ちきれていなかったころの、感覚。
「“変質”がうまくいかない日もある。でも、だからって、全部を拒まなくていい」
シオの声は静かで、あたたかい。
彼女はゆっくり、食べきった。
その朝、ほんの少しだけ体が“冷たくなくなった”。
そして、シオはそっと、食器を片づけながら言った。
「食べられたね。きみの波、戻ってきてるよ」