テラーノベル
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それから、お昼の後からはいつも通り過ごした。…もちろん、いつもオレの机に寄ってくる天乃は、今日は1ミリたりとも近付いてこなかった。
───だからか、今日は酷く静かだったように感じた。
そうして5限目、6限目と終えて、掃除の時間、帰りのHR……そうして放課後となった。部活に行く人は部活仲間と意気揚々と部室へと向かっていたが、俺は当然の如く帰宅部なためそそくさと帰る。
いつも後からついてくる天乃は、いなかった。今日はどうやらクラスメイトや後輩と帰っていて、あいつの背中が遠かった。
……………
「ただいま帰りました。」
玄関を開けて、俺は一言呟く。みんなみたいに気軽な”ただいま”なんて言えなくて、どうしてもそう言わなければならない。そういうルールで、決まりでもあるのだ。
俺は玄関に靴を脱いでから揃え、リビングに上がる。いつも通りの小綺麗な部屋。それでも電気はついておらず、カーテンも閉めっきり。暖房しかついていないこの部屋は、気持ち悪いほどの空気を漂わせていた。
「…換気、するね。」
椅子に座って頭を俯かせてから動かない母に一言そう告げて、窓をひとつだけ全開にした。冬だからって窓を閉めっぱなんてのは衛生面的に良くない。そう考え、でも怒られない程度に開けて。
「…っあ、ご飯…食べました?今日はカレーを作ろうと思ってて…。…待ってて、ね。」
ぎこちない挨拶を交わしながら、リビングへと向かう。親なのに敬語だなんて、正直どうもこうも言いやできない。だからこそ、ぎこちなく感じる。
「………。」
お互いに無言の時間が続く。そりゃ気まずいけれど、もう慣れっこだった。慣れっこ。慣れっこ。慣れっこ……なれっ、こ。……っ、慣れっこなのに!!!!
「っ、……ふぅ。」
深呼吸を一つして、またカレーを作り始める。
そう。無言の時間は慣れっこなはずだった。とっくのとうに慣れていたはずだった。───あいつと、会うまでは…。
「……できたよ、カレー。お茶くむから、食べててください。」
お皿に盛ったカレーを母のテーブルの上へと置く。母はそれを少し見つめた後、ため息をついた。
「なに、これ?これがカレー?あんたバカなの?こんなまずいものいらないわよ。あんたのカレーは、焦げ臭った鉄の味がする。」
バリンッ、と音を立ててカレーの入った皿は母の手によって地面に落ち破片へと変わる。カレーはただの残飯へと。
「もうこんな出来の悪い子、いらないわよ。」
そう吐き捨てて、母は寝室へと向かった。
俺は笑顔を保ちながらゴミを片付ける。そう、笑顔で。
(じゃあ最初から産むなよ。)
心の中の言葉は、誰にも聞かれない最強のテリトリー。
───・・・そういえば、あいつも学校の花瓶を割ってて怒られてたな。その時はオレもいて、2人で連帯責任だって言われてあいつは必死に謝ってきた。……でも正直、楽しかったなんて言えなくて。ただ、「大丈夫」の本音だけを伝えた。大丈夫だと本当に思っていて、楽しかったと本当に思っている。ただ、それでもあいつはしょんぼりしてて、面白かった。それもまた本音。
「…ふっ。」
この笑みが不意に漏れたのは、本音じゃないと言い聞かせてゴミを片した。
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